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グルッポ 『 作家志望さまのお部屋 』 の企画でつくったものです。
お題から起草される物語を1スレ(1000文字以内)でまとめるといった趣向。
今回のお題は 『 七夕 』
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オレンジ短冊
手の中にある縦長に分断された折り紙を見て溜息が出た。よりにもよって手にした短冊もどきはオレンジ色のそれだった。
「俺はね、オレンジが好きだな。まぁ蜜柑でもデコポンでもいいわけだけど」
「あのね、色を聞いてるの。好きな果物とか聞いてない」
むくれる私を置いてきぼりにして喉を震わせて彼は笑った。彼の声が好きだった。少しこもったような笑い声。
スーパーのレジで渡された短冊。願い事を書いてね、と店の入り口にまだ青々としている笹を指差された。色とりどりの短冊と、手作り感のある飾りで既に笹は重そうに揺れている。
願い事なんていくつもある。短冊ひとつで足りるわけが無い。だけどその全てが彼に繋がったものばかりで、なんだかひどく馬鹿らしくなった。ペンを渡された私は小学生に混ざりながら律儀にも短冊に文字を書く。慌てて彼の名前だけを消した。
『元気でいますように』
こんなの願い事じゃない。私の、願い事じゃない。涙が出そうだ。鼻の奥がツンと痛い。
「きったねー字だなぁ」
忘れるわけも無い声がして思わず小さな悲鳴が漏れた。おそるおそる振り返った先で見慣れたはずの、だけど久しぶりすぎる不適な笑顔がこちらを見下ろす。私はただ口をぱくぱく。まるで金魚か池の鯉。それを尻目に彼がペンを奪い取る。
『お前が寂しがっていますように』
これ見よがしに太く書かれた赤色短冊をこれまたこれ見よがしに一番高いところに結う。
「まぁさ、願いというか事実だったわけだけど」
にやにや笑いで無駄に背の高い彼は私の顔を覗き込んだ。その目に映る顔はどんなだろう。悔しくなってそっぽを向いた。
「……いつ帰ったの。っていうか、アレなによ」
随分な願い事だ。そんなの書き込むまでもない。
「寂しがってもらわなくちゃ。……俺が悲しい」
珍しくも自信なげな声に今度は私が覗き込む。彼の顔は少し赤くて、私の目は少し潤んだ。
私の好きな林檎の赤と彼の好きなオレンジ短冊。本当の願いは書かれることなく、けれどいつでも叶うようにと、並んでゆらゆら揺れていた。
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