三島由紀夫 『奔馬』 | Talking with Angels 天使像と石棺仏と古典文献: 写真家、作家 岩谷薫

三島由紀夫 『奔馬』

奔馬1 前作の『春の雪』が、私にとってはすごく厭な小説だったので、読み続けようか悩みましたが、やはり次作を手に取ってしまいました…。

 元々、三島由紀夫さんの輪廻感だけを知りたい動機の読書なので、ちょっと登山にも似た大変さ…笑 やぁ~と半分ですかぁぁ…。遠い……
 『奔馬』(ほんば)はテロの小説です。以上。 で終わりそうですが…

 ただし、『春の雪』よりはずっと読みやすいです。『春の雪』の主人公、清顯(きよあき)の生まれ変わりである青年、勲、のテロ失敗の話です。
 内容が、前作のように不健康で厭な感じの恋愛に拘泥せず、行動重視なので、ある程度読みやすいのでしょう。
 (「勲」で思い出しますが、『春の雪』の映画監督である行定勲さんと同じ名前であるのは、やはり何か見えない縁故があるのか…と勘ぐりたくもなります。御会いした時に御本人に尋ねていればよかった。 当時、私は小説内容を随分忘れていたので…)

 この小説を読んでいると、三島氏の憎んでいる戦後昭和生まれの私には、かなり理解不能な部分も多数。特に天皇に関する記述では。
 それは私にとっては時代という埋めようのない齟齬のような気さえします。
 
 ただ、これを読んでいて思うのは、やはり三島さんは、戦争に参加していない、徴兵されていない点ですね。そう思うと、どうしてもこの経験はモノスゴク、氏にとってターニングポイントだった事は間違いありませんし、徴兵されていない点においては坂口安吾さんとの比較も面白いと思います。

 徴兵されていないので更に「美化、美化、ビカビカビカビカ、した小説です」。

 でも、本書の中で更に書かれている三島氏の書いた『神風連史話』は、ちょっと興味深かったです。ここは一気に読めました。(『奔馬』の中に「入れ子」のように歴史書が入っている構造です。)
 これは史実ですし、神風連は、昔、猪瀬直樹氏の書いた『ペルソナ』を紹介するTV番組で、神風連にゆかりのある地やその思想、行動を紹介していたので、当時の映像が甦り、非常に興味深かったです。

 鉄砲や大砲の時代に、刀だけで闘う、その気概や根性に、私の中にも、なんだか共鳴するものがあるのは事実です。特に太田黒伴雄という名前はTVを見た時から何故か耳に焼き付いていました。
 みなさん、ぼっこぼこ切腹しています…。びっくりするほど。

 だからと言って、私が、こうした過激な武士道や天皇制万歳という人ではないので誤解しないでね。 ある部分、理解不能です。多分、時代のせいだと思います。

 時代といえば、三島氏と東大全共闘の討論会の動画もある意味興味深いです。全共闘という人達は私は好きではないので、ブログには貼付けません。御興味ある人だけ。
 特に動画6分50秒頃の三島氏の発言は興味深い。三島氏は学習院高等科を首席で卒業したので、天皇から銀時計を拝受しているのです。この経験も氏にとってかなり大きな影響があったと思います。「言いたかないが」と本音を述べています。 (それにしても、さすが、会の締めくくり方はきれいですね。)

 初めに掲載した写真の装丁は、神風連の主要人物、加屋霽堅(かやはるかた)の書と詩だそうです。
 一見、読めそうな、こんな漢字、私には読めないので、笑、今、ネットではちゃんと説明してくれている人もいるので助かります。

致力中原 

自習労此生 

何惜附鴻毛

破除雲霧豈

無日磨励霜

深偃月刀

力を中原に致し、自ら習労す

此生、何ぞ惜しまん、鴻毛に附するを

雲霧を破除する、豈、日無からんや

磨励、霜は深し、偃月刀


 詳しい意味は、私に聞かないように!笑 
 天下を思い、命なんて惜しかない!日本にはびこる霧をいつか刀で晴らしてやるぜ。

 それが小説『奔馬』です。こんな思想に私が与している意味では決してありません。ちなみに、三島氏は、この装丁が『豊饒の海』4部作の内で一番好きだそうです。 そりゃそうでしょうね…。三島氏は十代の頃、神風連の末裔の学友も居たそうな。だから詳しい。

奔馬2
 中の装丁は、黒い絹張り。学生の頃、この手触りが好きで、今ではシミになってしまいました…。

 生まれ変わりの視点で見ると、あまり多くの収穫は無い今回の読書ですが、氏が書いておられる仏教の阿頼耶識(あらやしき)は、『笑とる仏』にも紹介した臨済の「無位の真人」に近いものだと思います。

 『笑とる仏』は阿頼耶識の造形かもよ。 

 「テロの小説」と始めに書いて、さらっと終わるつもりが、やっぱり、ダラダラと書いてしまいますね。
 読んでいただくというよりは、自分の記憶の為に書いた記事です。
 特に、特別な目的意識が無い限り、お勧めする本ではありません。
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