甚大なサイバー暴力による有名人の圧殺を防ぐには新たな立法しかないのでは | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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恋愛番組テラハに出演中の女子プロレスラー、木村花さんが22歳の若さで急逝した

https://news.livedoor.com/article/detail/18304050/
死因は詳らかにされていないが、木村花さん本人が投稿したインスタには「愛してる、楽しく長生きしてね、ごめんね。」と顔をアップした写真が掲載されていた https://www.instagram.com/p/CAf_XFcJ8jQ/

そして木村花さんのユーザー名のツイッターには、いまは書き込みが削除されているが、テラハの洗濯機事件以降、毎日毎日、木村花さんへの罵詈雑言が匿名でなされていたようだ

https://twitter.com/taiyakitrade/status/1264067766379622405
木村花さんと同じ団体に所属するもと女子レスラーの同僚の星輝ありささんも、匿名の嫌がらせがつづいたことに心底激怒している   
https://www.tokyo-sports.co.jp/prores/stardom/1866522/

そのほか、SNSで叩かれた経験のあるタレントが怒りのコメントを寄せている

https://www.nikkansports.com/battle/news/202005230000833.html?fbclid=IwAR1E7b6nZLg_Y1QVZKSCLtkAqGH_7V8kPolo2bjWP69G2Q_YcqQy5sUHd5Q
恋愛リアリティー番組で、ものすごく炎上した’’でっぱりん’’もブログを書いてる

https://ameblo.jp/parin-aya/entry-12598960018.html

偶然ながら炎上の常連、安田大サーカスのクロちゃんも木村花さんとジム友だったようだ

https://twitter.com/kurochan96wawa
 タレントでいえば、クロちゃんとパンサー尾形はしょっちゅう叩かれているっぽい。
 サイバー暴力では韓国でも有名タレントが複数自殺しており、世界共通の問題である。

https://biz-journal.jp/2019/10/post_123469.html

 

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 しかし世界のプラットフォームが匿名による書き込み可というビジネスモデルを転化するはずがなく、そして、世界共通の問題ということでわかるとおり、ネット利用者のモラルに叫ぶ手法はあまりに甚大なサイバー暴力を抑え込む手段としては脆弱である。
 サイバー暴力の被害者は有名人に限らない。便乗犯が出てくるリスクがあるので名称の特定は避けるが、COVID-19に似た名前のお店に、嫌がらせの無言電話や面白がってお店の看板の写真だけ撮りにやってくる輩がいるらしい。
    
 ネット利用者のモラルに叫ぶ手法がぜい弱だと私が思う理由は、この記事を書いてる自分自身が、サイバー暴力の加害者となることを抑えきれてないからだ。
 各自この1か月を振り返ってみると、アベノマスクをさんざんバカにしなかったか、文春砲が攻撃する前の黒川もと検事に辞職しろとか今では退職金を受け取るな税金泥棒恥知らずといっていないか、森まさこ法務大臣に法曹とは思えない壊れたロボットと言わなかったか、、、SNSをやってる人に少しは心当たりあるのではないか。
 つまり、水に落ちた犬を叩いて愉快がるのは、悲しいかな人の本性の1つのようなのだ。

 まして私は法律家である、法律家は誰しも、憲法の学習で人権というものが何なのか、普通の人以上にたっぷり学習して司法試験をクリアしており、つまり、技術的な素養はもっているはずなのだ、なのに。
 法律家の舌禍は私だけではない。例えばナイナイ岡村隆史がオールナイトニッポンで問題発言をしたことに対し、ある法律家は、諸外国では差別発言をした著名人は公共のメディアに起用しないのが通例だから、NHKもこのままチコちゃんや大河ドラマに彼を起用し続けてよいのか、と発言していた。問題発言をしたことを倫理的に非難しただけでなく、仕事の糧を奪うべきではないかとまでと言っているのだ。かように、ネット利用者のモラルに任せるにも、適正な尺度を法律家ですら的確にコントロールできているとは思えない。
 
 これまでサイバー暴力に公権力が進んで介入することは少なかった。そして、有名人ははるかぜちゃんのように100万円も大金をかけて戦うか https://www.bengo4.com/c_23/n_10611/

 あるいは、例えばもとゾゾの前澤社長などのようにスルーするしかなかった。
   http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken88.html

   残念ながら法務局の人権擁護局に持ち込んでも「削除要請は強制力を伴わない任意の措置にとどまります」「裁判所への申請は法務局が代行することはできません。法テラスをご利用することができます」と逃げは打たれている。法テラスの設定料金でこの類の案件を受任できる弁護士が果たしてどれだけいるのか。

 そして、実際に警察が動くにせよ、既存の刑法では正直量刑が軽すぎるから、現実に起きている誹謗中傷の数に比較してあまりに動きが鈍い。
 とすると、法技術的な部分は詰めていないが、少なくとも甚大なサイバー暴力を有名人は受けやすいわけで(それを有名税と割り切るのは時代遅れではないか)、彼らがいわれなき誹謗中傷を受け続けてなおスルーしかないとなるのでなく、サイバー暴力に特化して、証拠収集方法、司法令状で発信者情報を保管しながら削除命令が出せること、さらに犯罪行為や量刑を定めた立法を講じるほかには、現状をチェンジする策はないように思う。不要不急の国家公務員法改正で時間を費やすより与野党一致で議員立法でこちらを練ったほうがよいのではないか。
 リベンジポルノ対策法も既存の刑法で対応できない部分もないわけではなかったが、既存の刑法に任せていては被害者保護策として不十分ということからか、実際の事件のインパクトもあってか、特別法を議員立法で迅速に設けた。その萎縮効果は絶大で、リベンジポルノの被害件数は法制定前に比べて一気に減ったはずである。
 現行法で民事的に動くにも弁護士費用があまりにもかかる、しかし受任している弁護士が高額をむさぼっているわけでなく、弁護士料金をたくさん用意しないといけないほど、現行のプロバイダ責任法などの法体系があまりにも発言者の保護に偏り、誹謗中傷している侵害者の特定すら高い壁をつくっているのだ。これは実際にサイバー暴力対策を専門にしている弁護士がみな忸怩たる思いをしているところだろう、料金を下げるにもかかる手間暇がやたら多くて経営が成り立たないのだ現行法の体裁では。

 最後に私はテラハを毎週見ていたので、こんな形で番組が終わるのは残念だが、さすがに木村花さんの出演シーズンは、残されたメンバーがお互いに恋愛どうこうとやりとりできるはずがなく、放送つづけることの影響や出演者のメンタルを考えても放送中止すべきだろう。サイバー暴力に特化した、被害者保護に厚い立法を望む。