非正規社員との格差に関する労働契約法20条をめぐる2018/6/1重要判例2件 | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

福岡若手弁護士のブログ「ろぼっと軽ジK」は私です。交通事故・企業法務・借金問題などに取り組んでいます。実名のフェイスブックもあるのでコメントはそちらにお寄せ下さい。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180601/k10011461691000.html  長澤運輸

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/785/087785_hanrei.pdf  その判決文

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180601/k10011461461000.html  ハマキョウレックス

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/784/087784_hanrei.pdf    その判決文

 2つの裁判例がほぼ同時に宣告されましたが、この2つは1セットで理解しないといけません。理由は後述の解説のとおり、2つの裁判例を組み合わせることでいくつもの規範鼎立を読み取ることができるからです。

 具体的な当てはめは長澤運輸11~16頁、ハマキョウレックス8~12頁を読んでください。頁とは、最高裁ウェブサイトに掲載された判例PDFの頁番号にあたります。〇は格差アウト、×は格差容認の項目です。

ハマキョウレックス   一審   二審  最高裁 【契約社員】

  住宅手当       ×    ×    ×

  皆勤手当       ×    ×    〇

  無事故手当      ×    〇    〇

  作業手当       ×    〇    〇

  給食手当       ×    〇    〇

  通勤手当       〇    〇    〇

 

長澤運輸       一審    二審  最高裁【再雇用嘱託】

 能率給(歩合給)    〇     ×   ×

 職務給         〇     ×   ×

 精勤手当        〇     ×   〇

 住宅手当        〇     ×   ×

 家族手当        〇     ×   ×

 役付手当        〇     ×   ×

 超勤手当(時間外)   〇     ×   〇

賞与          〇     ×   ×

 

 【労働契約法20条…有期雇用契約者との不合理な差別を禁止】 

 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が《期間の定めがあることにより》同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲《その他の事情》を考慮して、《不合理と認められるもの》であってはならない。  

 

第1、労働契約法20条の私法的効力(ハマキョウレックス5~6頁) 

 1、労働契約法20条の趣旨が有期契約労働者の公平な処遇を測ることにあることに照らせば、有期労働契約のうち労働契約法20条に違反する労働条件の相違を設ける部分は無効となる。 

 2、もっとも、労働契約法20条は、有期契約労働者について無期契約労働者との職務の内容などの違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であり、有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなる旨を定めていない。 

 3、そうすると、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が、労働契約法20条に違反する場合であっても、労働契約法20条の効力により、有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない。 

 4、また、両者の就業規則が別個独立のものとして作成されていること等にもかんがみれば、同一のものとなるとすることは、就業規則の合理的な解釈としても困難である。

 

第2、《期間の定めがあることにより》(ハマキョウレックス7~8頁) 

 労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件が、期間の定めがあることにより相違していることを前提としている。 

 一方、期間の定めがあることと労働条件が相違していることとの関連性の程度は、労働条件の相違が不合理と認められるものにあたるか否かの判断にあたって考慮すれば足りる。    

 そうすると、労働契約法20条にいう《期間の定めがあることにより》とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が、期間の定めの有無に関連して生じたものである。 

 

第3、《不合理と認められるもの》の立証分配(ハマキョウレックス7頁)  

 1、労働契約法20条は、職務の内容などが異なる場合であっても、その違いを考慮して両者の労働条件が均衡のとれたものであることを求める規定であるところ、両者の労働条件が均衡のとれたものであるか否かの判断にあたっては、労使間の交渉や使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定しがたい。 

 2、両者の労働条件の相違が不合理であるか否かの判断は規範的評価を伴うものであるから、当該相違が不合理であるとの評価を基礎づける事実については違反であると主張する者が、当該相違が不合理であるとの評価を妨げる事実については違反を争う者が、それぞれ主張立証責任を負う。

 

 第4、《そのほかの事情》の抽象論(長澤運輸9頁) 

 労働者の賃金に関する労働条件は、労働者の職務内容及び変更範囲(※労働契約法20条の文理参照)により一義的に定まるものではなく、使用者は雇用及び人事に関する経営判断の観点から、労働者の職務内容及び変更範囲にとどまらない様々な事情を考慮して、労働者の賃金に関する労働条件を検討するものである。 

 また、労働者の賃金に関する労働条件の在り方については、基本的には団体交渉などによる労使自治にゆだねられるべき部分が大きい。

 従って、労働契約法20条における有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理か否かを判断する際に考慮する事情は、職務内容及び変更範囲に関連する事情に限定されるものではない。 

 

第5、定年退職後の再雇用という《そのほかの事情》(長澤運輸10頁) 

 1、定年制は、使用者が、その雇用する労働者の長期雇用や年功的処遇を前提としながら、人事の刷新などにより組織運営の適正化を図るとともに、賃金コストを一定限度に抑制するための制度ということができるところ、定年制の下における無期契約労働者の賃金体系は、当該労働者を定年退職するまで長期雇用することを前提に定められたものであることが少なくない。    

 これに対し、使用者が定年退職者を有期労働契約により再雇用する場合、当該者を長期間雇用することは通常予定されていない。 

 2、また、定年退職後に再雇用される有期労働契約者は、定年退職するまでの間、無期契約労働者としての賃金の支給を受けてきた者であり、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることも予定されている。 

 そして、このような事情は、定年退職後に再雇用される有期契約労働者の賃金体系のあり方を検討するにあたって、その基礎となるものである。

 3、そうすると、有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは、当該有期労働契約者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において、労働契約法20条にいうその他の事情として考慮されることとなる事情にあたる
  →定年退職前に比べて2割前後減額されたことをもって直ちに不合理とは言えないと認定した

 

 第5、各賃金手当の相違が不合理か否かの判断手法(長澤運輸10~11頁) 

 1、労働者の賃金が複数の賃金項目から構成されている場合、個々の賃金項目に係る賃金は、通常、賃金項目ごとにその趣旨を異にする。 

 そして、有期契約労働者と無期契約労働者との賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するにあたっては、当該賃金項目の趣旨により、その考慮すべき事情や考慮の仕方も異なりうる。 

 2、そうすると、有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するにあたっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解する

  3、なお、ある賃金項目の有無及び内容が、他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて決定される場合もありうるところ、そのような事情も、有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するにあたり考慮されることになる。 

 

第6、今後ニュースになるだろう係属中の非正規社員との賃金手当項目の格差訴訟 

 1、日本郵便事件(東京地判2017年9月14日労判1164号5頁、賃金項目のうち年末年始勤務手当・住居手当・夏季冬季病気休暇の格差違法) 

 2、日本郵便事件(大阪地判2018年2月21日、賃金項目のうち年末年始勤務手当・住居手当・夏季冬季病気休暇・扶養手当の格差違法) 

 3、東京メトロ事件(東京地判2017年3月23日労判1154号5頁、賃金項目のうち早出残業手当の格差違法)

 

第7、ニューウェーブ集客による非正規社員をめぐる賃金格差バブルは発生するのか

  全ての賃金項目で格差違法を認定した長澤運輸一審(判タ1430号217頁)の主文では、3名の非正規社員について1人あたり100~200万円の支払を命じた。 

 日本郵便大阪事件では、8名の非正規社員について、1人あたり10万円未満になる者が4名、40万円以下が3名、100万円に及ぶ支払を命じた非正規社員が1人とバラバラであった。      

 他方、東京メトロ事件ではわずか4100円の支払を命じたにとどまる。
 

  とすると、例えば企業名まではいかずとも業種で集客して(例:運送業の非正規社員、泣き寝入りしてはいけない)、集まった賃金規定の中の手当項目を区分したうえで、最高裁の基準に照らしての類型的な検証を行い、検証が済み次第、バンバン差額請求書を弁護士名で送付していくという手法はプチバブルとしてありうるかもとみている。

 少なくとも、企業側の顧問弁護士には、手当制度の早急な見直しや、過去の手当差額の扱いをどうするかといったプチバブル(講演で食べる人も出てくるでしょう)は到来するかも。
☆違う観点で社会に及ぼす影響を説明してくれている記事   https://www.bengo4.com/c_5/n_7977/

 

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村                 https://jiko110.jp/