起訴状に性犯罪被害者の氏名を明記する運用は改めたほうがいい | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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 コメントしている弁護士はいずれも私よりも刑事事件に強い弁護士たちです。ですが一般の弁護士として明記維持あるいはやむなしのコメントには賛同しかねます。

 刑訴法271条1項で「裁判所は、、、遅滞なく起訴状の謄本を被告人に送達しなければならない」と定め、かつ、起訴状の記載内容として、刑訴法256条3項では「公訴事実は、、、できる限り、日時・場所及び方法をもって、罪となるべき事実を特定」しなければならないと定めています。

 昔、性犯罪被害に対して法律家の感性が鈍い頃は、性犯罪を裁く刑事公判で、性犯罪被害者の氏名が記載された起訴状をそのとおり読み上げ、証拠の要旨でも被害者の氏名を無配慮に連呼していました。

 それに対し、犯罪被害者団体から「刑事公判の起訴状朗読の際、性犯罪被害者が氏名を朗読されると、傍聴人にさらし者にされてしまう。これでは公開の場でさらし者になることをおそれて、女性の被害申告が過度に萎縮してしまう」とのもっともな申し入れがあり、刑訴法290条の2が改正され、いまでは刑事公判では被害者の氏名を読み上げないという決定を裁判官が下すことができるようになりました。  http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji_keiji11-4.html
 

 しかし、このたびの事件では、その決定が下されていながら依然、性犯罪被害者の人権保護にとって不十分であることが露呈しました。
 私見ですが、
正直言って、刑訴法の文言に被害者の氏名とないことからも、性犯罪被害者の氏名を起訴状に明記する必要は非常に乏しいとしか感じられません。陶山もと裁判官の「公正な裁判のためには実名記載は不可欠」というコメントや、郷田真樹弁護士の「被害者氏名が特定できなければ、本当にその日その場所に被害者がいたのかなど反証のしようがない」というコメントは、現行法があるからやむなしという思考停止ではないかと思えてなりません。
 なぜに被害者氏名を被告人に教えなければ公正な裁判ができないのでしょうか、全ての性犯罪事件で被害者氏名が判明しなければ被告人の防御は回復できないほど損なわれてしまうのでしょうか、そういった事案の実態に即した考量がなされていないのではないでしょうか。 
 例えば、被告人の場合には氏名黙秘でも「留置番号11番」とかいって顔写真と組み合わせて審理を続行できます(やったことあります)。

 他方、性犯罪被害者にとって被告人に一瞬でも氏名を知られてしまうことは、SNSが普及している現代社会では実名アカウントを全て一生涯にわたり削除しなければならなくなるほどの恐怖を招きます。その恐怖を犠牲にしてまで、被告人に実名を起訴状で伝えなければ被告人の防御権は本当に害されてしまうのでしょうか、そんなことはないと思います。
 例えば、弁護人にだけ告知する手法でも被害弁償に動くにせよ反省の手紙を送るにせよ十分対応できるはずですし、アリバイ云々を調べるうえでも被告人があえてそれを知らなければならない理由はないはずです。
 結論、起訴状に性犯罪被害者の氏名を明記せずとも、弁護人にだけ告知すれば足りる運用を法改正で創出するべきです。

※追記・・・検察庁は2013年から、性犯罪およびストーカー事案について、必要性が認められる場合には、起訴状に被害者の実名を記載せず、匿名化する運用を開始しています。匿名化の方法としては、SNS等のアカウント名を利用する方法や、生年月日と写真との併用等の方法が用いられています。匿名化する場合にも、弁護人には被害者の実名を伝達しています。
 なお、裁判所は、起訴状の匿名化については、再被害のおそれが具体的に存在するような場合に限るとしていることから、検察庁が起訴状を匿名化しても、裁判所の指示により実名に補正するよう求めることがあります。匿名化を行う場合には、必ず事前に被害者の意向を確認する運用とされています。被害者代理人としては、被害者の意向を確認し、捜査機関に伝えるよう留意する必要があります
『実践 犯罪被害者支援と刑事弁護』(民事法研究会41頁)。
 追記…性犯罪にお強い奥村徹弁護士も匿名起訴に関するブログを過去に作成してました。
初澤由紀子「起訴状の公訴事実における被害者の氏名秘匿と訴因の特定について」慶應法学31号229頁という論文もあります  http://okumuraosaka.hatenadiary.jp/entry/2018/02/27/000000

 

 

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