職場の2次会で勤務先の同僚から暴行されたときに会社の責任を認めた丸冨水産(?)事件 | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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 2018/4/23読売新聞朝刊にとりあげられました。被告となったフーデックスホールディングスが運営している新橋にある海鮮居酒屋をしらべたところ丸冨水産という名前でした。?はつけていますが、労働裁判事件の慣例として会社名を出すことから、ここでも会社名を出すことにします。もし東京地判2018/1/22が判例雑誌に掲載されたならば店舗名付きで載るのではないかと  https://toyokeizai.net/articles/-/217879

 


  

 

 フーデックスホールディングスは「社員同士の忘年会を禁じていた」「本社に報告のない私的な会合である」から、業務遂行の過程で起きた事件ではなく使用者責任はないと主張したのですが、その反論は認められませんでした。
 「さすがに私的な二次会での非行まで責任を負えない」と企業側は控訴しているのではないでしょうか。この理屈だと、例えば、従業員全員参加の2次会で酔った従業員が飲み物を持ってきたウェイターに暴行を働いた場合も、業務遂行中に起きた事故ということで会社がウェイターに対する使用者責任を負わされることになりかねないから(もっとも暴行の契機に事業遂行性がないという判断もこちらの場合は十分あり得ますが)。
 

 ところで、新聞記事でも紹介されていますが、職場外の宴会の過程で起きた事故が労災に該当するか等については行政解釈のほかに、多くの裁判例が存在しますので、基本的な行政解釈を踏まえ、そのいくつかを紹介します。文献を知りたい人は判タ1432号58頁の判例解説を読んでください。
 

 まず労災に該当するためには、①その負傷の原因が労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態を条件として発生したこと(業務遂行性)②労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態に伴う危険が現実化したと経験則上認められること(業務起因性)、この2つを充足する必要があります。使用者責任を争う場面では①が主争点になるわけです。

 ①の行政解釈の具体的類型として、ア:休憩時間中、事業場を離れて私用で外出した場面で遭遇した災害は、原則として事業主の支配を離れているものとして業務遂行性が否定される。イ:通勤途上に遭遇した災害は、一般的にはいまだ事業主の支配管理にあるとはいえないので業務遂行性が原則として否定される(特別の事情があり例外的に事業主の支配下にあったと判断したのが最高判1979/12/7判タ407号76頁⇔消極判断をした事例が最高判1984/5/29労判431号52頁)。ウ:宴会慰安旅行その他行事に出席中に遭遇した災害は、催しの世話役が自己の職務の一環として参加することは業務遂行性が一般的に認められる一方、世話役以外の労働者の場合には特別の事情がない限り業務遂行性はない、などが挙げられています。特別の事情の有無については、催しの主催者・目的・内容・参加方法・運営方法・費用負担などについて総合的に判断することになっています。

 新聞記事によると、忘年会に上司から促され本来休みだった者も含め全従業員が参加していること、忘年会の1次会は焼き肉屋で開かれ2次会が始まったのは電車のない時間で全員が2次会に参加せざるを得なかったこと、付加すると酔った同僚が暴行をふるったのは最初酔った同僚から仕事ぶりを非難され「めんどくせえ」と言い返したところろっ骨を折るなどの殴る蹴るの暴行を受けたという経緯から暴力の原因が仕事に関連してもいること、こういう点を総合して、1次会も2次会も仕事の一環であったと業務遂行性を認める特別の事情ありと判断したようです。

 そのほか、管理部次長が、主任会議が午後17時に終わった後に催される飲酒ありの社内での任意参加の恒例の会合に統括者として参加し、いつもは19時には終わる会合が議論が白熱して午後21時に終わり、1時間ほど仮眠した後の午後22時過ぎに帰社している途中の駅階段で転落して死亡した事故について、業務遂行性のある会合時間帯は午後19時までであり、その後は業務ではない飲酒継続と仮眠が介在していたとして、業務遂行性を否定した東京高判2018/6/25労判964号16頁、労働者が業務を一時中断して職場外で行われた研修生の歓送迎会に途中から参加した後、業務を再開するために自動車を運転して職場に戻る研修生を自宅まで送る途上で発生した交通事故で死亡した場面について歓送迎会に参加してほしいとの強い意向を示された末の参加であったことや歓送迎会には従業員と研修生の全員が参加しその費用も会社の経費から支払われていたこと、研修生をその住居まで送っていた経路は歓送迎会の場から会社に戻る経路から大きく逸脱してはいなかったとして業務遂行性を肯定した最高判2016/7/8判タ1432号58頁が新聞記事に紹介されていました。

 

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