私の取り扱った裁判例が判例時報2270号39頁に掲載されました | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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 グループホームに入所していた、食事全介助を要する被介護者が、夕食後に容態が悪くなり、救急車を呼んで病院に搬送したものの誤嚥による急性呼吸不全のために窒息死された介護事故です。
 被介護者のご冥福をお祈り申し上げます。
 被介護者のご遺族から次のA+Bの注意義務違反があったと、死亡慰謝料などを求める裁判が提起されました。一審判決は福岡地裁田川支部2014/12/25、二審判決(上告無く確定)は福岡高裁2015/5/29です。私は賠償請求を受けたグループホームから受任しました。

 A:介護職員には、誤嚥を生じさせないように見守りながら食事介添を行い、誤嚥が生じた場合にはハイムリッヒ法や吸引器利用など速やかに誤嚥を解消する適切な措置を講じる注意義務があった。

 B:容態が悪くなってから119番通報まで約10分の間隔があるが、容体が悪くなってから直ちに119番通報すべき注意義務があった。

 Aについては、当該グループホームでの提供食事内容や、被介護者への食事提供時の状況に鑑みれば、容態が悪くなるまでの間に直ちに誤嚥解消措置をとるべき注意義務違反があったとはいえないと認定されました。
 Bについては、119番通報時点でもなお被介護者による自発呼吸は存在しており、その時点では窒息には至っていないのだから、約10分の間隔があいたことが注意義務違反とまでは言えないと認定されました。関心のある方は長文なのでぜひ判時の原文にあたってください。

 ほかにも、介護施設における被介護者の誤嚥による窒息死と注意義務違反の成否については、東京地裁立川支部2010/12/8判タ1346号199頁、東京地裁2010/7/28判時2092号99頁、松山地裁2008/2/18判タ1275号219頁、名古屋地裁一宮支部2008/9/24判タ1322号218頁、大阪高裁2013/5/22判タ1395号160頁があります。
 
 そのほか、介護施設には医療の専門家は常駐していないところ、学校で授業中に生徒が倒れた場合に学校の体育教諭及び養護教員に要求される応急措置の内容について、医療従事者ほどの高度のレベルは求められないとした青森地裁八戸支部1995/6/6判タ1232号290頁もあり、これを踏まえ、介護施設におけるスタッフの注意義務として医療の専門家と同程度のものではないはずという主張を展開しました。

 特に被介護者への異常発生と119番通報のタイミングについては、ムセの発生から10分後の通報について介護施設に通報遅れを理由とする賠償義務を課した広島地裁福山支部2011/10/4判例秘書が存在するため、この度獲得した裁判例とは結論の判定が異なっているところも、判時コメントで限界事例と指摘された所以と考えます。
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