ロースクールの適正配置論なんざ初っ端から失敗を喝破すべきだったのだ | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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法科大学院の募集停止が止まらない109
 平成16年4月にスタートしてからすったもんだで、平成25年末時点では募集停止を宣言していたのは10校だったが、平成26年に入って半年でもうそれに並ぶくらいの学校数が募集停止を発表している。
http://benesse.jp/blog/20140612/p1.html
 今後も減る見込はない様子だ。募集停止したのは都会にあるLSの数が多すぎて競争に負けた実績の低い学校が多いが、今年に入って地方にあるLSが相次いで募集停止した(鹿児島・広島・島根・愛媛など)。
 この実態に抵抗しようと、LSでなく弁護士の地方単位会が連名でLSを全国にあまねく適正配置すべきという声明を出したことがある。
 http://www.shimaben.com/796.html

 この理想論で現実味を欠く声明に対しては、幾つものブログを引用しつつ日本地図付きで現状を逐次解説している猪野亨弁護士のブログに有効な反論が巧くまとまっている。
 私も末席を汚すことになるけれども、違う形で意見を披露させていただこうと思う。
 http://inotoru.blog.fc2.com/blog-entry-1058.html
 ヒントになったのは、同じ福岡の向原栄大朗弁護士の↓の記事だ
http://ameblo.jp/mukoyan-harrier-law/entry-11854762725.html
 外科医経験のある北海道出身の作家、渡辺淳一氏の『雪の北国から』というエッセイ集の<無医村をどうするか>という論説を読んだ。
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 昭和40年ころ、彼が札幌医大付属病院に無給で勤務しているとき、医局で北海道の無医村に医師を回そうかという話が起きた。月給は20万円前後、期間は半年ないし1年限り、食住つきという好条件であった。
 
 しかし、彼のみならず周りの若い医師の誰もその話にはのらなかった。理由に、へき地で文化施設が何もない、附属病院のような実験研究ができない、臨床経験が劣るなど、いろいろなものが挙げられるが、それら全てを凌駕してなお上記好条件は魅力的なものといえた。
 
 若い医師の誰も話に載らなかったのは、「万が一、おれ自身が病気になったら誰が俺を助けてくれるのか?」という不安感からだそうである。自分が行くことで無医村の100名や200名は救われようが、行った自分は絶えず「もしおれが病気になったら」という不安に脅かされる。
 医師の精神的な安定感は自分自身に対する安全が確保されているという基盤の上に成り立っており、命をかけてまで僻地の住民を救う気持にはなれないのである。

 そして、北海道の無医村に医師を回すという対策は頓挫したが、マスコミは「またも見放された無医村の医師」「医師にヒューマニズムはないのか」「無医村に冷酷な若い医師」「この高額条件に振り向かず」という言葉を並べ立てて批判したそうだ。

 いかにももっともらしく聞こえるが、その実、物事の本質を見極めてはいない、どれも机上で安易に考えられたことに過ぎない。
 無医村対策はやたらに医師の条件をつりあげ、ヒューマニズムを叫んでみたところで解決できるものではない。医師が都会でどうにか食べていける状態が続く限り百年河清を待つようなものである。
 医師だって普通の庶民と同じく誰よりも自分を大切に思っている、平凡なエゴイストな人間なのだ、へき地に1人で行きたいと思わないのは当然の心理だ。
 
 そこで向原弁護士のブログに書かれている’’インフラ整備すればもっと条件が悪くても医師は赴ける’’という持論が披露されていた。
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 この話をLSに当てはめるとだな、都会の実績も歴史もあるLSが定員オーバーにでもならん限り、幾ら地方にLSをつくっても好き好んでそこに通う輩が簡単に増えないのは、受験生が一般人であり平凡なエゴイストである限り、当然読み取れる事態だったのだ
 
 渡辺淳一はさらにこういう、「本来、1村に1病院なんぞは古いセクショナリズムの遺産で無駄きわまりない。たかだか100人や200人しかいない村がおのおの月給20万円の医師を抱え、さらに看護師や技師や事務員ほか職員を何人も雇って、入院可能な施設を持とうとしたら、期待される傷病数に照らしても赤字になるのは明らかだ。人の命が何物にも代えがたいというのなら、すぐ手を付けられるインフラを充実させる方が早いし、長い目で見たらはるかに金の節約にも地域のためにもなるのだ」

 全国各地にLSが適正配置されないと地域に法律家が根付かないなんて誰が決めたんだ、地方コンプレックスが生んだ迷信じゃないか怒
 似たような話で弁護士偏在問題解消もあるが、あれは都会で食えない弁護士を激増させたことで消えつつある(反面、都会で食えない弁護士が増えて、悪さをしでかすリスクが高まったという副作用が酷い)

 渡辺淳一というと訃報でも売れたエロ小説ばかり紹介されたのでそんな作家だとばかり思い込んでいた。
http://sankei.jp.msn.com/life/news/140505/bks14050517480003-n1.htm
 しかし『雪の北国から』で軽く紹介している自作だけでも、元首相寺内正毅<光と影、直木賞受賞>だったり、野口英世<遠き落日、吉川英治文学賞受賞>だったり、面白そうな作品も幾つも書いているようだ。『雪の北国から』に掲載された’奇奇怪怪の北方領海’のエッセイも北海道民ならではの視点で面白かった。
 渡辺淳一については食わず嫌いを改めるとともに、LS適正配置論については、これまでの無医村対策と同じく、人の心理を真面目に捉えていない空論であるので、そっこー撤回してほしい腕。
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