事業者間取引で約款の拘束力を一部否定した事例 | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

福岡若手弁護士のブログ「ろぼっと軽ジK」は私です。交通事故・企業法務・借金問題などに取り組んでいます。実名のフェイスブックもあるのでコメントはそちらにお寄せ下さい。

 山口地裁1987/5/21判時1256号86頁です。警備会社Xと、訪問販売業者Yとの間で、警備契約を締結したのですが、Yの経営不振のため、契約から45日めに警備契約を解約したという案件です。


 XYの警備契約約款には「契約期間は5年間。警備料3か月分は前納。Yの都合による中途解約の際には解約日から期間満了までの警備料(1か月2万4900円)相当額の解約金を請求できる。」と不動文字で印刷されていました。


 XはYに、解約日から期間満了までの残り4年10か月半の警備料相当額を請求しました。これに対し、Yは①と②の理由で拘束力のない条項だと争いました。
 むろんXもひとめ見ればわかるから、不意打ちでも例文でもないと再反論。



①口頭で棒線の箇所は全く説明されていない、不意打ち条項。
②例文(=たんに書式に決まりごとのように記されているが、真実当事者にはその内容に従おうという意識がごく希薄な文章であるという意味です)にとどまり、お互いの合意の対象にする意識がない。



 前記山口地裁は次の1~3のように説示して一部の拘束力を認めました。


1、Y社がハッキリ解約金の特約の存在を認識しなかったことも無理からぬものでY社にとっては予期しないものだったろうから、前記解約金特約の内容が双方にとって合理的なものと認められない限り、当事者双方を拘束する効力はない



2、Y社の視点からは45日しかサービスを受けていないのに5年間もの警備料の支払という過大な負担を強いられることになる。
 よって、解約金特約に定める全額の支払義務はY社にはない



3、ただし、XY間の契約は継続的契約であることに鑑みると、ⅰ警備機器の原価と設置費用22万円、および、警備料3か月の前納という趣旨に鑑み、契約日から3か月間の警備料7万4700円から解約日までの日割警備料を控除した残金3万6000円弱を合算した範囲内で、前記解約金特約は合理性を維持するにすぎない。



 前記山口地裁の判断は事業者間取引における約款の運用で、有益な示唆を与えてくれます(似たような話はFCトラブルではよく見受けられますが、FC以外では余りないトラブルなので)。


 

 消費者契約法が規律するBtoC取引と異なり、BtoB取引においては特に口頭での説明の存否や明示の了解を問うことなく、約款の拘束力を認めるのが一般的な傾向です。



 ですが、前記山口地裁の判断は、BtoB取引であっても、口頭での説明や明示の了解が確認できない限りは、その内容が当事者双方にとって合理的でなければ、拘束力は発生させないと説示したのです。


 逆説で「それじゃあ、口頭での説明や明示の了解が確認できれば、たとえその内容が極めて合理性を欠いていても拘束力を発生させるのか?」という質問が浮かぶでしょうが、私見では民法90条に抵触する内容でなければそのとおりということになるのでしょう。


 前記山口地裁の判断手法は、つい《約款の内容が独禁法などを踏まえ、合理的なものといえるのか》と、もっぱら民法90条に抵触しているか否かだけで勝負しようとする実務家に一石を投じていると評価できるのではないでしょうか

↓ランキング参加中。更新の励みになります。1日1回クリックお願いします!

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村