#661 ~嗚呼、安中榛名~ 山中の巨大閑散駅 | 関東土木保安協会

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群馬県安中市。
人里離れた山中に新幹線の駅があります。安中榛名駅です。
市の都市計画図には新安中駅と記載が残るこの駅は、北陸新幹線の長野開業時に完成した駅です。
山中にできた新幹線の駅で、開業当初は閑散としていた駅前がメディアに取り上げられたりしていました。

北陸新幹線は長野開業が1997年で今年25周年となります。
新幹線イヤーと銘打ってキャンペーンを展開するJR東日本を見て、かつて「失敗」とメディアにレッテルを貼られた新幹線駅が今どうなっているか、巡ってきました。

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駅まで続く立派な道路。
山を登って行くと、安中榛名駅に辿り着きます。
駅前には片側二車線の、こちらも相当立派な道路が真っ正面に設けられています。
人気も交通量も少なく、どこかの大きな研究所にでも迷い込んだような感覚です。

▲安中榛名駅前の街路

写真奥の方で、左側の車線のレーンが減少しているのが気になります。
これは駅前にラウンドアバウトができたためです。
安中榛名駅前のラウンドアバウトは、2018年に仮設という形で県下に初めて設置されました。
社会実験を経て、現在の本格導入された姿になりました。

▲駅前のラウンドアバウトは群馬県初の設置だった

いきなり現代のトレンドに沿ったアイテムが迎えてくれた安中榛名駅前。
その導入に際しての選定では、平均、ピークともに交通量が基準値より少ないこと、導入できる用地が周囲にあることが求められました。
ここに至っては、前者はクリアできるのは容易に想定されますが、後者についてもその広々とした区画整理事業の賜物で、新規買収を行わなくとも大きな環道になることから選定されたようです。
皮肉にも、その昔に「人もいないが街路は立派」と揶揄されたその環境がまさにそれにマッチしたのですね。

ラウンドアバウトを過ぎると、現代的で立派な駅舎が目に入ってきます。
北陸新幹線安中榛名駅。
開業当時は8両だった列車も、現在は12両で運行されています。
そのため、当初から現在の車両数を見越したホーム長が準備されていました。
山中に300mの駅舎が立派に構えています。

▲北陸新幹線安中榛名駅外観

駅周辺は歩道も広く、バス停もあったりと立派な造りですが、点字ブロックから雑草がワサワサと生えていたり、閑散駅らしい長閑な風景が広がっていました。
廃墟ではないものの時が止まっている場末の雰囲気、たまりませんね。
公共物の路上環境の観点からすると、点字ブロックの環境を悪化させているわけで、ちょっと元気過ぎる雑草にはメス、ではなくて鎌が必要かもしれません。

▲年月と日々の環境を感じさせる部分も

駅の利用者数は、JR東日本のホームページによると、乗車人員で177人/日。
定期利用者数が108、定期外が69とのことです。
降車人員は明かされていませんが、単純に2倍しても400人にも満たない数です。
38人/日という同社館内新幹線駅利用者最小を誇るいわて沼宮内は別格ですが、それでも安中榛名も3位を引き離しての2位で、やはり利用者自体は相当少ない駅なのだなと感じます。

▲ロータリーに堂々と駐車する車両も

さて、駅にやってきました。
駅周辺は何故かやたらと賑やかな雰囲気を持っていました。
駅前ロータリーや隣接する市営駐車場に駐車している車両の数がとんでもない量なのです。
これが1日200人も使わない駅の駅前なのか、という感覚です。
どのような方が駐車し、どのように利用されてるのか気になります。
ロータリーには送迎用の駐車場もありますが埋まっており、枠外に停める車もありました。

面白いのが、上写真で写るロータリーに停める車両です。
2台もいます。
何気なく駐車した送迎の車かと思いましたが、運転手も見かけずに、私が訪れた1時間ほどの滞在時間で何も動きがありませんでした。
恐らく新幹線利用者の方が置いていってしまったのでは、と思います。
そんな車両を咎める者は誰もいない、安中榛名駅です。
そして法規やマナーを盾にその行為を咎める理由も、このだだっ広い駅前を見ると、消えていってしまうのです。

▲駅併設の市営駐車場はびっしり埋まっている

駅舎の中に入ってみます。
中は平成時代のJR駅の雰囲気で少し古さは感じますが、立派な風格と管理された環境で、綺麗です。
壁面上部には広告枠のようなものが設置されていました。
現在白表示なので、掲示の契約者がいないのでしょうか。
中吊りがスカスカな地方の電車が頭に浮かびます。
右奥は待合室で、肘掛け部が広い立派な椅子が並び、1時間に1本程度の新幹線を待つ乗客を招いています。

▲駅舎内は比較的新しいため現代的だ

この駅舎で一番面白いポイントはやはりこの売店ではないでしょうか。
峠の釜めしで知られる荻野屋が入っており、若干の土産物も販売しています。
隣にはそば・うどんも、時間を絞ってはいますが販売していました。
この規模の利用者数で売店、合理化にコロナ禍のパンチを喰らって閉店続出の首都圏近郊のホーム売店達はその光と影に目が飛び出るのではないでしょうか。
隣接してレンタカーの窓口もあり、隣にあるみどりの窓口と並んで駅の立派な顔になっています。

▲このご時世で、小さいながら立派な店舗が!

1997年から四半世紀、やはり当初の姿とは異なってくる部分も多数あります。
このように、立派な解説付きのディスプレイケースにも展示物がなかったりと、歯抜けな部分を見ると、閑散駅というワードを改めて感じさせます。

▲寂しい展示棚も

壁面には立派なレリーフが。
「北陸新幹線(高崎・長野間)は、国、沿線の地方公共団体をはじめとする地元の皆様方やJRの御支援、御協力を得て、日本鉄道建設公団が技術の総力を結集して建設したものです。平成9年10月1日 日本鉄道建設公団」と書いてあります。
かっこいいですねぇ。
北陸新幹線といえば、群馬~長野の県境で周波数が変わることが珍しい特徴でしょう。
碓氷峠で先代達が勾配に苦しみながら駆け抜けていった時代を置き去りにして、トンネルと勾配で易々とクリアしていくその姿には、人類の叡知と技術の粋が勝ち取ってきたものをまざまざと見せつけられるものです。

▲鉄建公団の誇らしげなレリーフ

2階には待合室ということで、駅舎の吹き抜けがよく見渡せるスペースがありました。
小さいながら色々と楽しいところがある、そんな駅です。
折角のスペースも、目立たないといえば目立たないので、探索でも好きでない限りは、ここに気づく方はいないかもしれないですね。

▲2階から吹き抜けを望む

何気なくトイレの案内図を見てみました。
なんと、多目的トイレ以外全て和式です!
鉄道車両などでも、土地柄、地域性を考慮して比較的新しい車両に和式トイレを設ける例などを見てはいますが、これまた25年前の新幹線駅にしてオール和式とは、なかなか興味深いところです。(案外、他の新しめの駅もそうなのかもしれないですね)
私の知人はウォシュレットがないと嫌なタイプなので、多目的一択ですね。

▲90年代後半の竣工にして多目的トイレ以外和式だ

さて、駅舎を後にして駅前に出てみます。
この駅前のお洒落な公民館的建物は、ニュータウン・びゅうヴェルジェ安中榛名のコミュニティプラザだったようです。

▲駅前のびゅうヴェルジェ安中榛名の名が書かれた看板

私が行った当日は閉まっていましたが、今も開いているのでしょうか。
看板がはずされている辺り、怪しいですね。
以前はここにデイリーヤマザキがあり、駅前唯一のコンビニとなっていましたが、現在ではコンビニも閉店し、居抜きも入らず空きテナントのようです。

▲かつては一帯のフロントがあったようだ

駅前の駐車場の賑わいは一体何なのか、新幹線通勤をしている近隣住民はどれくらいいるのか…といった疑問を抱きつつ、広大な敷地を見渡せる展望エリアまで来ました。
立派なゲート状のモニュメントは、ここから見渡せる山々を切り欠いたデザインです!
なんと素敵な!

▲山々のシルエットをオブジェ化するとは!

人気も全くない新興住宅地、そして新幹線駅の安中榛名。
近隣には新しく老人介護施設なども完成しつつありました。
かつて無駄と呼ばれた駅前は立派に家が並び、リモートワークの名の下、郊外への転居も叫ばれる時代、この地には新しい家々が今も建ちつつあります。


時代が止まったようなこの僻地も、年月と共に社会のトレンドを受けた新しい風がいくつも流れててきているのかもしれません。



〈参考〉

・JR東日本 : 各駅の乗車人員 2021年度