#653 【マニアな一基】 東電PG船橋線18号 ~長身道路跨ぎの美形美化鉄塔~ | 関東土木保安協会

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関東土木保安協会です。
大好きな跨ぎ鉄塔シリーズですが、今回は道路跨ぎ鉄塔を見に来ました。
江東線のドナウの前に見に来たんです。
この子はどんな鉄塔なのでしょう。
 
 
千葉県船橋市。
海神駅から近いこの地にも名の知れた道路跨ぎ鉄塔があるんです。
私は新船橋駅から伺いましたので、東から近づいてみましょう。
275kV江東線の鉄塔のすぐ隣にあるようです。
 
▲迫力ある江東線と並ぶ今回の主役
 
見えてきました。
彼の名は船橋線18号です。
下段に藤崎線を併架する、66kVの4回線鉄塔です。
隣の迫力ある275kV超高圧線は、江東線41号鉄塔です。
2塔は同色系でまとめられ、トータリティあるランドマークになっていますね。素敵です。
 
▲見事な大開脚
 
鋼管の都市型鉄塔です。
近づいてみると、基礎が長方形でした。
眩しく光る純白の塔体。
周辺環境へも配慮されたお姿のようです。
背も高いですね。
建て替えられたであろうその背景を伺い知ることができます。
 
▲船橋線18号(2002/1,49m)
 
敷地の関係から道路に対して大きな根開きで設計されています。
都市計画道路の予定地がでもなさそうです。
塔体の形状といい、寝屋川の彼を思い出しました。
 
 
▲見事に道路を跨いでいる
 

それでは直下の道路を通ってみたいと思います。

股を通らせて頂きます!

 

朝伺いましたが、車両の通過もそれほど激しくなく、ゆっくりと足元から拝ませて頂きました。
 
▲道路からすると根開きがもったいないくらいだ
 
上を見上げます。
長方形から正方形へと変化する面白い画を拝むことができました。
結界を拝める鉄塔は珍しくないですが、道路跨ぎ鉄塔で拝むこの視界のプレミアム感がやばいですよね。
同じ跨ぎでも水路跨ぎでは拝めないですし。
 
▲結界を拝ませていただきます
 
ラーメン構造の鉄塔です。
斜材の補強がなく水平材のみで仕上げられたすっきりとしたお姿。
環境調和を目的とした美化鉄塔に用いられることが多いですが、同時にコストもかかるために特別な場所でしか選定されません。
この船橋線18号は結構凝っていますね。
上部の鋼材中央が円形のデザインになっていて、下から見上げた時にまるで何かのタワーかな?と思わせるようなポップな見た目になっています。
 
▲長方形の矩形鉄塔の足元は、ベント点以上で正方形へ変化する
 
離れたところから塔体上部も見てみます。
腕金周りも特徴的な形状で、素敵ですね。
この区間の架空地線は1条ですが、わざわざツノを両側に張り出したデザインにしている辺りは設計者の美学なのか、後の2条化した場合への適応性なのか。
ラーメン鉄塔で後々の改造も難しくなると思われるので、後者でしょうか。
個人的にも、この方が見た目の収まりがいいと思います。
 
▲腕金周りも非常に凝った形状だ
 
そのまま側面へ回ってみます。
見やすいのがb-c脚面なのでそっち側ですが、江東線が入り込んで煩いですね。
こちらから見ても、中央にある円形開口部の特徴的な形状がよく確認できます。
ジャンパは1相毎に2条ありますが、上の電線はガイドでしょうか。
線間離隔は抑えられそうです。
 
▲円形の中心部もよくわかるサイドビュー
 
さて、気になるこの鉄塔の建設背景なのですが、インターネットに複数訪問談が掲載されていますが、その2サイト(文末参照)に当時の東京電力側への確認結果が掲載されていました。
その内容によると、片方のサイトでは
・鉄塔下は市道である
・16年前(確認当時2017年なので2001年)に建て替えた
・以前は小型であったが電線を高くするために足元が巨大化した
・周辺の土地買収ができずに市と協議してこの形状となった
 
別のサイトによると、
・船橋線18号は平成3年(1991年)頃に建て替えられた。
・以前はもっと背の低い鉄塔が2基存在した
・高速道路や鉄道の建設により高い鉄塔が必要になった
・同じ場所で建替をするとより広い土地が必要となるが、事情で買収ができなかった
 
との事です。
後者の1991年に建て替えたとの情報が確認がとれないのですが、少なくとも、
・2基について、宅地化などで線下離隔の支障が生じたことにより集約して1基で建て替えた
・建て替えの際に新鉄塔の用地交渉に苦慮したために今の道路跨ぎの形態になった
という部分は確認できるようです。
 
過去の国土地理院航空写真と、Google Mapから追ってみます。
下写真は現在閲覧できるGoogle Mapの海神付近の様子です。
中央青アイコンが今回の船橋線18号、橙色の★は船橋線17,20号です。
ここに、過去の航空写真より旧船橋線18,19号を紫色の★でプロットしてみました。
ほぼ等間隔のスパンで置かれた旧鉄塔と、同じくそのほぼ中間に位置する新18号鉄塔の位置関係が確認できます。
 
▲海神付近の地図(Google Mapより)
 
この、ちょうど現鉄塔がある位置が旧18,19号の中間という絶妙な位置関係が、2基を集約するのに最適なのがわかりますが、その立地がまたしっくりくるんです。
写真は18号の北側であるb-c脚側を見たところですが、奥に隣接する江東線41号が見えます。
船橋線の基礎が設置された用地が、江東線の用地と続いているのが確認できます。
 
▲bc脚は江東線の敷地と一体になっている
 
江東線用に確保されたであろう僅かなスペースを一部使用し、この鉄塔を建設したのが見て取れます。
上写真で手前に写るb脚が少し江東線からははみ出していますが、ひょっとしたらこの部分を含めて同じ地権者なのかもしれないですね。
江東線は275kVで、線下周辺には人家の建設も行われていなかったというのもこの環境が成り立つ要因かなとも思います。
 
船橋線は元々今ある細い道路上にルートを設けていた為、この道路直上をなぞるようにしたかったのでしょう。
電線路の嵩上げの話が出た際に、現在の2基を現在の位置のまま嵩上げか建て替えか、もしくは代替地があれば2基の集約を検討した。
しかし、当時既に宅地化が進展してしまい容易には周辺代替地は見つからなかった。
その中でちょうど2基の中間に江東線41号が存在し、敷地の一部を使用し片足を道路向かいに建てれば鉄塔が建設できそうであった。
道路向かいの敷地も空地で、交渉の結果この地で道路跨ぎの形で鉄塔建設が可能になった。
という背景ではないでしょうか。
 
▲両側の敷地は丁寧に綺麗なフェンスで囲われ公園のようだ
 
わざわざこんな形で跨がなくとも、という見方もできます。
しかし、例えばどちらか片側の用地だけで建てようとすると、支持物に対し4回線もの電線路が片寄せされバランスが非常に悪くなるため、不可能ではないにしろある程度特殊な鉄塔を建てないと支持できないことでしょう。
特に、江東線側の敷地では、電線路との離隔も心配になります。
 
▲内部へは階段と門扉で丁寧な仕上がり
 
リンク先のその記事によると、千葉県では唯一の道路跨ぎ鉄塔との事です。
道路跨ぎ鉄塔というと、一般的には新設・建て替え時に複数がその様式で建てられる例が多いかと思いますが、このように既存線路の建て替え集約で1本だけ、しかもこんな狭い市道を跨ぐなんて形は珍しいのではと思います。
その塔体の凝ったデザイン、立地環境に見る都市部での鉄塔建設背景の苦悩を見せられては、長身色白な美意識高い都会っ子の悩める姿を見たようで、非常に萌えますね。
 
 
海神の白い怪人、なんて銘打って話をしようと思っていたところ、全く怪人でも何でもなかったじゃないですか。
ここに記録を収めさせて頂きます。
他の道路跨ぎ鉄塔と見比べると、彼の個性が際立って面白いと思います。
それでは。
 

〈参考〉