#647 【マニアな一基】 東電PG加納線25号 ~敷地に収まりたかったのかのぅ?~ | 関東土木保安協会

関東土木保安協会

Kanto Civil Engineering Safety Inspection Association

~ 土木の迫力 機械の技術 礎となった名も無き戦士達の魂 ~
関東土木保安協会は、鉄とコンクリートの美学と保全活動を追求します。


関東土木保安協会です。

以前水路跨ぎ跡では?と記事を載せた加納線11号。


この加納線の終点の加納変電所に行ってみると、面白い鉄塔が建っていました。


圏央道の桶川加納インターから程近いところに、加納変電所があります。
今回取り上げるのはその引き込み用の鉄塔、加納線25号です。
加納線と名前を変える契機となったであろう、加納変電所。
鉄塔のプレートの年月から察するに、加納線は元々は元荒川水循環センターに向け供給していた送電線だったようで、そこから先の加納変電所までの区間を1992年頃に新設し、その際に名前を変えたと思われます。

▲加納線25号(1992/12,37m)

加納線の新しい鉄塔達は、周辺で宅地開発が予定されていたこともあってか、景観に配慮された環境調和の配慮がなされたような鉄塔です。
鋼管のトラス構造が贅沢に奢られた四角鉄塔は、シングルワーレン構造を採用しています。
イメージとしては時期も近い芳野台線の鉄塔のようですね。


鉄塔をみていきます。
この鉄塔が面白いのは、見ての通り引き下ろしを鉄塔の後方と側方の2面で行っている点です。
通常ですと左右対称に1回線ずつ引き下ろす場合が殆どですが、ここでは場所の都合から、まるでテトリスのピースのような変わったシルエットになっています。

▲加納線は途中からシングルワーレンの鋼管鉄塔に変わる

鉄塔の立地は、縦長の変電所敷地の端です。
電線路はルート選定の制約からか南東に面した道路の上を辿ってきます。
ちょうど鉄塔直前で道路がカーブしているため、ここを直線的に貫けば変電所敷地に到達でき、こここそ鉄塔を建てる場所にはちょうど良さそう、とまで想像できます。

▲変電所と鉄塔、送電線の位置関係(Google Mapより)

このため、鉄塔をギリギリまで道路に寄せる必要があるものの、敷地もそれほどないため引き下ろし鉄塔でどうにかコンパクトに収めなければならない制約が出てきます。
引き下ろし鉄塔は左右でそのまま各回線を下ろすのが一般的ですが、その制約からか南東の道路側に寄せるとそっちには張り出せません。
このため、ケーブルヘッドの腕金をこのように道路側から避ける配置にした設計になったものと考えられます。

▲ケーブルヘッド用の腕金の設置方法が特徴的

側面から見上げてみます。
写真手前の道路側にあるのが2番線で、こちらをジャンパにより後ろまで繋ぎ、変則的なアームによりケーブルヘッドまでの縦母線としています。
ケーブルヘッド用の大きなステージへはアクセスできる梯子が延びていました。

▲側面から見上げると波打つような鋼管が印象的

手前が2番線、奥が1番線です。
やたらと大きなステージです。
もしやと思って見てみると、ここで各回線は分岐し2系統のケーブルヘッドになっていました。
この一帯は工業団地になっているため、特高需要家の一つ二つあって当然かな?と思っていましたが、需要家への送電線が地上に全くなかったため、どこかにあるのかな?と思っていました。ここで分岐をかけていたんですね。
加納変電所と別需要家への分岐でした。

▲架台は分岐対応のため大きめだ

分岐対応の腕金ですので、比較的大柄です。
前に挙げた飯山線ではないですが、この規模だとここで2回線、計4回線分岐が限度なのでしょう。


これ以上の需要家の登場になれば、変電所から地中分岐か新設鉄塔でしょうか。
ふと思うと、分岐有のケーブルヘッドなので、より腕金の張り出しも多くなるため、この配置に苦慮せざるを得なかったのだと納得します。

▲2番線側の架台。拡張性はなさそうに見える

普通は左右に張り出す腕金も、2面で連続して設置しているため、V字の角のような外観になっていて、なかなか面白い姿を見せてくれています。

▲ツノのように二方向に張り出た面白い腕金

変電所建屋は、変圧器の四方を洋風の壁面で覆ったカモフラージュ型です。
東京電力では環境調和を目指したであろうこの姿の変電所を数多く見かけます。
記憶から、ちょうどこの加納変電所のように昭和末期~平成初期の建設時期によく建てられた印象を受けます。
上部から見ると屋根がないのでフェイクだとあっさり見抜かれるのですが、パッと見ではそんなことは気付かず、有害そうに思えてしまう鋼の塊を視界から消し去ることに成功しています。まさに、東電目隠し界のベストセラーとなっています。

▲加納変電所外観。東電お馴染みの建屋風目隠しだ

この様式も今まで数多く見てきたのですが、立地や細かい様式など全て記録するに至っていません。
改めて見てみると、よくできてますよね。

▲洋風の窓が並び、一目では変圧器があるとはわからない

さて、近くを見渡すと手前の加納線24号も特徴ある外観だったので見てきました。
こちらは公園の角に立地しており、直角度で電線路を受け渡しているなかなか重厚な鉄塔です。
鋼管シングルワーレンという基本はぶれておらず統一感があります。

▲加納線24号(1992/12,35m)

先端が面白くて、尖っておらず4本の柱がそのまま伸びて終わっています。
その向きでプレートも付けられており、なかなか面白いですね。

▲頂部は尖っていないラーメン構造で特徴がある

先端がぶつ切りで終わっていると改造鉄塔だ、などと思ってしまいそうですが、このように完成形でこれで仕上がる鉄塔もきっと多数あるのでしょう。
前に見た加倉線2号も「工事放棄系」などと揶揄しましたが、きっとこれが最終形態なのかもしれないですね。

さて、どうでもいい小ネタを一つ。
この24号が建つ公園ですが、トイレがあります。
なんとこのトイレ、歩道と車道から小便中の姿が丸見えの構造です。
まだ公園の中から見えてしまうならまだしも、何故入り口をこちらにした?という設計で非常に興味深いです。
せめて簡易的な扉は欲しかったところですね。

▲鉄塔脇の公園のトイレ

そんなトイレを毎日見守る加納線の鉄塔たち。
「もう少し配慮できたのかのぅ?」という声が聞こえそうです。


美しい八重桜の隣で、今日も少しだけ景観に配慮したおすまし姿で立つ加納線の鉄塔。
丸見えトイレを尻目に、公共空間での配慮、制約、様々なハードルとの共存とは何かを語るようでした。