#586 【マニアな一基】 青色美化鉄塔群 東電PG芳野台線 | 関東土木保安協会

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関東土木保安協会です。

広い日本、探せば山のように珍しい送電線が出てくるものです。
この埼玉の芳野台線もその一つです。
田舎の(失礼)田園風景の中に美化鉄塔群が並んでいて、それらが青色なものですから、それは唯一無二といっても間違いないでしょう。
まだそれほど暑くない時期に向かってみました。


こちらが芳野台線です。
写真はその10号鉄塔になります。
空が綺麗に晴れているので、塔体のうっすらとした青がわかるかと思います。
芳野台線には主にシングルワーレンの鋼管製の四角鉄塔とモノポールのタイプに分かれますが、後者の方です。
これぞ美化鉄塔というような、スムースな表面のモノポールです。
特高需要家と配電用変電所が接続先なので、66kVのごく普通の2回線。
うっすら青、これまた珍しい配色です。


青といえばこないだ見た柿生線を思い出します。

なぜ青色か?この周辺環境で美化鉄塔中心なのかについてはよくわかりませんが、ルート選定には気を遣い、水路と道路の上ばかり通過する選択をされています。
一つ考えられるのは、この10号を始め、鉄塔ルートの道路脇には広大な川越運動公園がありそのためでは?という点です。
公園整備計画を立て始めたのが1982年、できたのが1992年頃で、その整備に合わせて近くを通過する鉄塔のデザインと塗装に配慮したのではないか?ということです。
後で話しますが、この鉄塔が建設された経緯は1987年に近隣に大きな病院ができたためのようなのですが、その途中経過地まで全て美化する理由には至らないのでは、と考えられるためです。
今では余程意識が高くないと建てられないようなモノポールを、これだけ郊外で打ちまくっている羽振りの良さには、疑問符が付きまといます。


プレートには1987年3月との表記です。
そういえば、前に載せた指扇線37号と上福岡線も同一の建て替え時期でした。
一帯ではこの時期に一気に鉄塔が建て替わったり増えたりしたのですね。
周辺の方も困惑したのではないでしょうか。
ちなみに、この芳野台線も指扇線から分岐します。


ルートに気を遣うとありましたが、こんな形で高圧配電線と同じように道路の左右を渡ったりしています。
基本的に片側をずっといくよりかは、歩道やその側近に鉄塔を建設して、緑地帯なども使いつつ道路用地の上ばかりを通過していきます。
若番の数基と埼玉医大線の分岐後の数基が、川の両岸の堤防を跳ねるように進んでいきます。
この川もほぼ送電線路と平行に走るのですが、わざわざこんなルートをとるのであれば、川の堤防沿いを進むルートを選べば良かったのではないか?と思ってしまいますが、そうはしなかったんですね。
もっと言えば、この芳野台線沿いの道路を南方に進んで、指扇線と交差する辺りで引き下ろし、そのまま道路に沿い地中を進めば良かったのでは?と思ってしまいますが、これは当時道路ができていなかったため、できなかったのでしょう。
あまり言うと「ぼくのかんがえたそうでんるーと」になっちゃいますね。あほらしいので止めましょう。


芳野台線のもう一つの顔がこちら、シングルワーレンの四角鉄塔になります。
こちらは5号になります。
遠くから見ると波うったように見えるトラスで、その点も美しいですね。
これが数基あるのですが、恐らく角度がつく箇所とロングスパン対策でモノポールを採用しなかったのでしょう。
ここの4~5号間は430m程度あり、他の鉄塔が200m程度のスパンであることを考えるとやはり長いですね。
鋼管を用いることで、細く部材が少ない鉄塔ながらしっかりと強度を確保しています。


実は、この鉄塔も淡いブルーだったのですが、見てお気づきの通り白に塗り変わってしまっています。
訪れるのが遅かった、となってしまったかもしれません。
この他にもかなり白に塗り変わっている鉄塔が多くありました。
青色鉄塔の多くは退色が進んでいるため、比較的最近青に塗り替えられたもの以外は全て白になってしまうもののではないでしょうか。
見たところ下地ではなさそうに見えます。


こちらはその作業中の5号を見上げたところです。
部材が太くもパーツ数はスカスカの腕金が美しいですね。
よーくみると、写真下の単管から上のうち、右半分が塗り変わっていないのがわかるかと思います。
鉄塔塗装中の貴重な半化粧姿でした。
街中の配電線も停電は容易にはできないですが、特高線も容易には送電停止ができないため、こんな形で回線毎に停止を行い、作業していきます。


こちらは垂直2段配列の13号です。
ここから埼玉医大線を分岐します。
高さを稼ぐとコストもかかりますが、どうやっても道路上を通したかったのが芳野台線の選んだ道です。
片側だけに腕金を寄せT字に分岐し、交差点に沿い進んでいきます。


モノポールで片側寄せというのもなかなか珍しいかもしれませんが、さらに分岐となると絞られてくるのではないでしょうか?
未来的な独特のシルエットです。
垂直2回線平行配置より少し知的に感じます。


こちらは分岐後すぐ北の14号です。
どういうわけか垂直配列で塔体左右に電線路を置くものの、段違い配置になっています。
これも推測になってしまいますが、腕金が比較的短く見えるため、本来は道路がある写真右手側に片寄せしたかったものの、片側に偏荷重がかかってしまうため、垂直の平行配列としながらも、段違いとし、腕金をショートスリーブにしたのでは?などと考えてしまいます。
後々分岐を想定していたという理由では、これでは建て替えになってしまいそうなので。


ここからプレートの年月が1990年6月へと変わります。
3年のブランクがあるのですが、前区間のコンセプトをしっかりと受け継ぎ設計されているのがすごいです!
この先は本当に田畑が広がり、終端の芳野台変電所付近に工場が並ぶ程度なのですが、贅沢な線路です。

この14号も面白いですね。先ほどの5号と同じ番線が停止されたようで、上半分だけが白になっています。
下半分は塗り替え前でしょう。
鉄塔中程の作業床には同様の単管が組まれているので、まだ作業中なのでしょう。


堤防に登ってみたところ、遠くの芳野台変電所の鉄塔まで見渡せました。
グレーに霞む空には、白色の鉄塔は調和はおろか主張しているように見えますね(笑)。
恐らくですが、塗装費用でも白単色の方が当然安価でしょうから、コストの面から塗り替えで白が選ばれてしまったのではないかと思います。

モノポール、煙突、そして基地局、手前には火の見櫓。
よく見てみてください。日常には様々な柱状構造物が溢れています。
あなたはどれに魅力を感じますか?


綺麗な富士山が見えました。
手前には芳野台線。
奥にはNTT東日本の川越新宿ビル。
遥か昔、日本に電線が引かれ始めた時、国家の統制目的だ、など怪訝な陰謀論を抱く方も多数いて、電信柱などが倒されてしまったこともあるようです。
今の電線や鉄塔はどうでしょうか。
ネガティブな意見も持たれている側面はありますが、多くの方が必要不可欠なライフラインとの認識をしっかり持たれていると思います。


そんななか、過剰なまでの環境調和は求められないのか、今の新設では敷地条件が許せば多くの場所で四角鉄塔が建っているかと思います。
美化意識が高い鉄塔も、定期的なお化粧代すら見直される時代。
ひょっとしたら、近いうちに美化鉄塔の塗装も単一化していきそうな、そんな情勢なのではと思います。

川越新宿の鉄塔はこちら↓



〈参考〉
・【A】鉄塔中毒【A】 : b413[12/12-芳野台線訪問]