#562 【一塔両断】NTTドコモ長津田無線中継所 ~会社と世紀を跨いだ無線通信史の生き証人~ | 関東土木保安協会

関東土木保安協会

Kanto Civil Engineering Safety Inspection Association

~ 土木の迫力 機械の技術 礎となった名も無き戦士達の魂 ~
関東土木保安協会は、鉄とコンクリートの美学と保全活動を追求します。


関東の土木を保安しよう。
関東土木保安協会です。



横浜市は緑区。
環状4号線沿いに高い鉄塔があります。
電波塔です。
NTTドコモの長津田無線中継所です。

▲NTTドコモ長津田無線中継所

こちらの電波塔、後々その証跡を振り返りますが、実は元々はドコモのものではありませんでした。
当初はKDD、当時の国際電信電話が建設した無線中継所でした。

▲鉄塔の形状がNTTグループでよく見る形状ではない

ドコモでは、自社が新設した電波塔は様々な形状がありバリエーションに富みますが、旧電電公社やNTTから譲渡されたものでは、当時の一般的な八角形の架台を用いていることが多いため、見慣れた方ではこの電波塔を見た瞬間に「あれ、なんでこの形?」となるかと思います。
鋼管を用いKトラスのスッキリとした設計。
テーパーが無く足元までコンパクトに収まったシルエット。
形でいえば東電も一部でこんな電波塔を採用していた記憶があります。
しかしながら、この飛び込みのジャンプ台を想起させる張り出したプラットフォームは、まさにそれとも異なるユニークな存在でしょう。

▲全てが四角形な電波塔だ

旧電電公社であれば、網目のように張り巡らされたマイクロ波ルートがあり、各々様々な方面にある対向局に向いていたため、どのビルでもアンテナの設置角度はある程度自由が利いたほうが良かったのでしょう。
何せ設置数が膨大ですから、恐らくは仮に一方向だけアンテナを設置するような場合でも、設計時に仕様を統一して同じような物を大量に増産する方向に進んだのでしょう。
対して、1990年代になって構築されたこのKDDの無線中継所では、今から電電公社のような網目の無線網を構築するようなことはなく、設計ルートが定まっており、対向局の方向はある程度限定されるということが背景としてあり、アンテナを置く必要な方向だけ張り出して設計されたのではないでしょうか。

▲アンテナ部分だけ張り出しているのが面白い

対向の局環状4号線に沿った直線方向にあったように思えます。
どこだろうと調べてみると、文末リンクにある各サイト情報より北東方向がKDD新宿ビルもしくはKDD大手町ビル、南西が現在のNTTドコモ大磯無線中継所のようです。
リンクにあるとおり、ドコモの大磯無線中継所も、その昔KDDが建設した無線中継所だったようで、造りが似ていますね。
ここも同じルートとしてドコモ社に譲渡なりされた経緯があるのでしょう。

▲無線中継所入口

無線中継所は、建物と鉄塔が別になっています。
細い道路から少し低い崖の上にありました。
看板には今のロゴはないものの、しっかりドコモ社の記載があります。

▲無線中継所看板

鉄塔のプレートがあったので見てみると、KDDが1991年に建設し、ドコモが2000年に改造したとあります。
2000年といえば、ドコモが各地に自社の新設の大型通信ビルを建設していた時期と重複します。
また、KDDがDDIと合併し今のKDDIとなった時期に当たります。
これも推測ですが、KDDとしては大合併と前後して光回線化に伴うマイクロ波ルートの縮退と統廃合などがあった。
そこに当時のNTTドコモ社が、通信ビル新造に伴いマイクロ波ルートも新規に増やしていく流れも重なった。
そして廃止対象の一部ルートの無線中継所が複数ドコモに譲渡された、という流れではないでしょうか。
もう20年も前の話ですが、存じている方に聞くしか経緯はわからないですね。

▲鉄塔の銘板。歴史が感じられる

当時は対向局と2基ずつ、計4基のアンテナを搭載していたようです。
現在は基地局として電波を中継する側から拡散する場として役割を変えています。
ものものしいアンテナも消え、少し寂しい鉄塔上部です。

▲鉄塔に昇る階段。フェンスで厳重になっている

通信キャリアとその歴史をふと振り返ってみると、まず電電公社が全国の通信インフラを整備し、そして競争導入、経営の効率化による通信費削減とサービスの充実という流れで昭和を終えます。
その後の平成では、誕生したNTTと新電電各社との顧客争奪戦、価格競争ばかりが取り上げられてきたため、両者の仲むつまじい一面などは一般ユーザーにも設備の整備にも映っていないのではないでしょうか。
せいぜい、電話局と回線の一部を借用したりする営みがメディアの報道などで垣間見える程度でしょう。
ですから、このようにビルが大手キャリア間で譲渡されるという密な付き合いの例はかなり新鮮に映ります。

▲ノンクライム

NTTグループとKDDIは2020年、災害時における海底ケーブル敷設船を共同運航する試みを始めると発表しました(文末リンク)。
この災害大国で、インフラの巨大キャリア2社が手を組むというなんとも嬉しいニュースです。
個人的に、電波塔を巡っている者として、そもそもこの国土環境においては、各社が無線中継所を有するということが非常に無駄に思えていて、山頂や駅前に行けば電力会社から行政、テレビ局まで各社がアンテナばかり建てている姿は当たり前です。
各機関毎に設備を有するのも当然で、設備損傷時の継続性などから見ても好ましいのも事実なのですが、何せそれがユーザーや社会負担にのし掛かってきているのを考えれば、例えばテレビ塔のような各社がアンテナを搭載する共用の塔がもっと普及してもいいのかな、とも思えます。
とはいえ、この手の無線通信がバックアップ主体となり下火になった今では、今からそんな壮大な話を立ち上げる時代でもなさそうかな、という状況でしょう。

▲鉄塔と無線中継所建屋

そんなことをぶつぶつ呟くわけですが、このKDDに生まれ育ち、ドコモとして暮らす電波塔は貴重です。
阪神の中古電車が阪急で走る、みたいな感覚があります(雑)。



様々な紆余曲折を経て現存する日本の通信キャリア達。
そして消えつつある無線通信網とそのインフラ達。
各社の資料館が合理化で閉まっていこうとも、生き証人がいる限りは、その栄枯盛衰と変遷の結果を伝え続けてくれるでしょう。



〈参考〉
・マイクロ回線探偵団 : KDDIグループ(HP現存せず、アーカイブ) 


・景図工房 : NTT大磯無線中継所