#558 蘇る恵心病院 No.301号室 | 関東土木保安協会

関東土木保安協会

Kanto Civil Engineering Safety Inspection Association

~ 土木の迫力 機械の技術 礎となった名も無き戦士達の魂 ~
関東土木保安協会は、鉄とコンクリートの美学と保全活動を追求します。


関東土木保安協会です。
久々の廃墟です。


以前、有名な廃墟物件であった厚木恵心病院を取り上げたことがありました。
かれこれ解体されてもう10年くらい経ち、あの伝説の肖像は記憶の中で語り継がれているところでしょう。
そんな記憶を一気に蘇らせる光景が視界に入ってきたのは、第三京浜を走っているときでした。

▲元ホテルの建物

まだ首都高速神奈川7号線の北西線側が工事していた頃、目の前に写真のような落書きが飛び込んできました。
とっさに「恵心だ」と思った記憶があります。

▲あの雰囲気を思い出してしまう

今回の見ていくのはこちらのホテルです。
第三京浜から非常によく見えたのも、通過する車窓から看板が目立つように配慮しているのだとわかります。
店名の文字はネオンで縁取りされ、夜には煌々と輝き、数多のカップルを招いていたことでしょう。
その看板は見事に上書きされ、皮肉にも私を含め招かざる客を呼び寄せる結果となってしまっているようです。

▲建物正面

所有者だけでなく、警察や行政含めて警告の張り紙があるのは、ここが不法侵入の温床になっているからです。
廃墟としては異例ですが、警察が内部を探索した様子を報道公開しています(文末リンク)。
何故それほどまでに注目されるかというポイントの一つが、目立つ立地もありますが、それ以上に内部の異様な落書きなのでしょう。
内部状況については他サイトの探索家の方のアップを参考にされてください。
(心理的に負担がある画像が多いかと思いますので、苦手な方はご注意ください)

▲侵入者が後を絶たず、警察や所有者による警告がされている

調べると画像が次々と出てきますが、こちらの一室に真っ赤な手形で壁が埋め尽くされた部屋があるとのことです。
その気味の悪さと言えば悪質な落書きを越えてアートとでも捉えられるのでしょうか。
勿論、事件性などは無いとのことです。
しかし「血の手形」「血紋ホテル」なんて称号がついているのだとしたら「妊婦画のセリーヌ」じゃないですが、人気と知名度アップの鍵はやはりミステリアスな心霊的、事件的要素なんでしょうか。

▲螺旋階段も要塞感を醸し出す

建物は角地のため目立ちます。
近くにはIKEAとかもあるんですよ。
1980年代前半に完成したホテルのようです。
隣の小机大橋が1982年にできたので、ちょうどその頃ですね。
4車線の道路の完成の後にできたのかなと思いました。
入口にはNEWと書いてありますが、昔は旧館があったのか、別のところから移転したのか、何なのでしょう。
駐車場スペースが一階にあるようなのですが、部屋数分の車両を駐車できるか分からないほど狭そうに思えます。

▲後ろには崎陽軒の工場がある

看板をよく見ると「LAN接続完備」とあります。
遥か昔から廃墟になってしまったように思っていましたが、感覚的に2000年代に入っても営業していたように思えてきました。
駐車場入口はこのように厳重に鉄板で塞がれています。

▲ここから駐車場に出入りしたのだろう

屋上はこの通り、破壊の限りを尽くされた室内をそのまま表したような様相で、荒廃が酷いです。
高所の作業は、脚立でも持参したのか、ホテル内の何かを移動して踏み台にしたのでしょうか。
キュービクルも開けられてめちゃめちゃですね。

▲ありとあらゆるものが破壊されペイントされている

崎陽軒工場側の路地へ回ります。
全体的に蔦の繁殖がすごいことになっていますが、こちらは木も生い茂りジャングルの様相です。

▲白壁に蔦という組み合わせがまた気味悪い

反対側と同じく、立入禁止の張り紙と鉄板。
明らかに破壊しようとした形跡がみられます。
既にこじ開けて入った後なのかもしれません。
何をやっても、いたちごっこですね。

▲既に鉄板はぐにゃぐにゃだ

ここは港北インターの至近です。
今では新しい高速道路が接続され、ジャンクションも併設されました。
いっそのこと、新道建設に伴って解体された方がよかったのかもしれないな、とふと思いましたが、そうしていたならば私の厚木恵心病院の記憶も深くに眠ったままだったでしょう。
明確な罪を前にしてこういうことうっかり言っちゃうのが、廃墟の怖いところなんですよね。

▲新しい高架道路には引っ掛からなかった

ガラスも割られ、避難ハッチも開けられ、無惨な姿を晒すホテル。
毎度思うのですが、私は廃墟に入る際には鉄板入りブーツに長袖アウターは必須だろうと思っているのですが、塗料を持ち込む彼らはどんな格好で侵入するものなのか、気になります。
高架下が似合うストリートなファッションでは、あまりにも危ないのですが、そんなリスクは気にしないとも思えます。
しかし、ガチ勢な格好をしなければこの環境では怪我もしそうで。。

▲うっかりサンダルなんかをはくのは危険な敷地内

あれは外国人グループらしき犯行でしたが、昨今では車両基地などに侵入し、過激なペイントをして地下鉄の車両が走れなくなる事件もありました。
ひとたび、アクセスもよく目立つ場所で廃墟となれば、子供の落書きレベルでは済まないものが描かれ、アップされてしまいやすい環境になりました。



これだけ人通りが多く目立つところに、これだけ話題性があり問題となっている廃墟が現代にも残り続けているのが不思議ですね。
恵心と同じく姿を消すのか、恵心のような不気味な存在感を今後も示し続けるのか。
土木施設だと残り続けてほしいと毎度話しますが、こちらは犯罪の温床で、社会的には早急に無くなるべき物件でしょう。
しかしながら、消えるべきものも消えてほしいなど、自分も簡単に言えない一人のようです。




〈参考〉