#556 【マニアな一基】V字柱基礎鉄塔 電源開発佐久間東幹線435号 | 関東土木保安協会

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貴方の街にもお邪魔します。関東土木保安協会です。
あれこれやってると集めたネタの放出が終わりません。



今回の鉄塔は、鉄塔カードに収録必須であろう、これまた珍しい特殊な鉄塔です。


国内の超高圧送電黎明期を飾る送電線、電源開発佐久間東幹線。
戦後の脆弱な国内電力環境を支援するべく立ち上がった電力会社、電源開発。
1956年、国内の巨大ダム建設史の幕開けとなった佐久間ダムを完成させました。
このダムにより佐久間発電所も完成し、35万kWの電力を生み出し始めます。
その発生電力は静岡から東西へと送電されるのですが、首都圏側への送電を担っていたのが佐久間東幹線になります。

▲電源開発佐久間東幹線。写真は当時からの鉄塔である436号

戦後の電力発展の黎明期の鉄塔に共通しますが、当時の鉄塔は比較的高さが低く、275kVという超高圧領域にして電磁ノイズもジージーと近くで聞こえます。
線路通過地は現在は住宅地になっているものの、当時は長閑な田園が広がっていたと想像でき、後の都市の発展により今日の風景へと至ります。
そんな中、鉄塔老朽化や電線のかさ上げを目的とするような建て替え工事も行われ続けており、新しい高い鉄塔になっているものも多数みられます。
線路終端に近いここ町田市にも、建て替えられた鉄塔があるのでした。

▲佐久間周波数変換所から400基超。ゴールはもうすぐだ

そんな前振りを終えつつ、こちらが建て替えられた佐久間東幹線の鉄塔、435号でございます。
さてさて、鉄塔を見てかなり違和感を覚えます。
基礎付近がかなり変な形をしています。
近くで見てみましょう。

▲今回の主役、佐久間東幹線435号

見たことあるようで、よく見ると全く見慣れない、かなり特殊な鉄塔ですね。
渡河や沼地で下だけコンクリートのラーメン基礎になってるような鉄塔はよく見ます。
この鉄塔も一瞬その類いかなと思ったところ、違っていました。

▲足元が特徴的な鉄塔だ

何が起きているのかと下から見上げてみると、主材の下部分が3本に分かれていました。
普通は主材がそのまま地上まで伸びて基礎まで続いていますが、ここでは隣り合う主材がそれぞれV字に組み合いV字柱のような構造になっていました。
これは珍しい。。

▲下から見上げると普通の鉄塔ではありえない光景が

これでも四角鉄塔には分類されるのでしょうか?
それにしても立体的にどうとらえてよいのか分からなくなる、とんでもない形状です。
V字柱と言いましたが、基礎からは鉄塔中央に向かって斜材も突き出ており、より複雑な造形をしています。

▲鉄骨を追えば追うほど造形の魅力に引き込まれる435号

基礎はどうなっているかというと、このようにかなりがっちりとした造りで三方向に鋼管を突き出しています。
大きなフランジで接合されているV柱側に比べて、やはり斜材側は少し細いのが分かります。
ちらっと下部の舗装も見えますが、コンクリートが升の目で敷かれているようで、間には砂利が敷かれており、これまた少し凝った地上部となっています。
よく写ってないですが、周囲を囲うように生垣もあり、しっかりと手入れされています。

▲地上の基礎部分は4箇所にまとまっている

V字柱への切り替え部の高さでは、十字に梁が組まれています。
ここはH鋼を使用されています。
ここの中心に斜材が集まってくるので、複雑なシルエットを写していたんですね。
残念ながら結界は侵入防止柵で拝めません。

▲鋼管鉄塔だが、部分的に違う部材も使用されている

建て替え前は、古い小さい鉄塔だったようで、ここに収まることができたようです。
しかし、建て替えで高い鉄塔にした際に、普通の四角鉄塔の形状ではこの敷地で収まらなくなってしまい、主材が敷地を飛び出す前の辺りでそれ以降の下部の組み方を変えたのでしょう。

▲その圧巻の見た目に、ふとダイヤゲート池袋が思い出された

なぜわざわざV字柱にしたのかという点で、他の代案を挙げるなら、同様の敷地制約から主材のテーパーをある位置から垂直方向へ変え、地上の占有面積(根開き)を少なくするような「足元だけ立方体鉄塔」のような手法もあります。
ここでもそれを行えばよいわけですが、仮に今のV字柱に切り替わるポイントから主材を垂直方向へ下ろした場合、パッと見たところ敷地からはみ出してしまいそうです。
はみ出さないような根開きで設計した場合、主材をもっと強化しなければならず、結果コストに跳ね返るのでしょう。
また、ここは丁字路の角地に位置しますが、元々の敷地に沿うように鉄塔を建てた場合では、北東側の線路の角度が強めとなってしまいそうです。

▲下を写さないと普通の鉄塔に見える435号

参考に、また恒例の昔の航空写真を拝ませていただいたところ、この鉄塔と同じような角度で旧鉄塔がある様子が確認できました。
この事からも、線路ルートを固定とする場合、以前の鉄塔と同じ立ち位置で建設するのが最適解であったため、鉄塔を大型化してもその基本は変えずに、基礎だけ工夫したという見方ができるかと思います。

ちなみに、275kVの電線路ともなれば、線下用地の制約が多分に出てしまう筈で、容易にルート変更もできず、複雑な鉄塔を現有用地内に無理やり収めるという選択肢を選ばざるを得ない、これまた電力設備の法的縛りもこの歴史に影響していると考えられます。

▲見れば見るほど土木施設の芸術性を感じてしまう435号

撮影していて近所の奥様と話をしていたのですが、「前はもっと小さい鉄塔が建ってたんですよ。」「なんていうか、弱々しいっていうか…」とお話されていました。希少性の話になるとさっぱりとのことです。
ひとたび建て替えにより、か弱い鉄塔も敷地制約という条件からこんなにも逞しく珍しい鉄塔に進化してしまったとは、周囲の方々でもあまり気付いている人もいないことでしょう。

本協会、根開きの制約が生んだマニアな一基、土木施設の真髄として、本日ここに崇めさせて頂きます。
いやあ、今回も参りました。


〈参考〉