説得 | kanoneimaのブログ

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私的備忘録

書名:説得
原題:Persuasion
作者:ジェイン・オースティン(イギリス作家)
出版:ちくま文庫
内容:1814年、英国サマセット州ケリンチ・ホールの当主サー・ウォルター・エリオットは、自分の美貌と准男爵位を何よりも愛し、虚栄心の塊という人物だった。13年前に亡くなった夫人との間には三人の娘がいる。29歳の長女エリザベスは父親そっくりの美貌だったので、サー・ウォルターに可愛がられていた。三女のメアリーはチャールズ・マスグローヴと結婚している。この近隣では、マスグローヴ家はエリオット家に次ぐ地主の家で、チャールズは長男である。27歳の次女のアンは母親似で優しい性格と洗練された知性の持ち主であるが、父親と姉からは軽視されている。サー・ウォルターには息子がいないため、彼の推定相続人は第二代サー・ウォルターの曾孫である郷士ウィリアム・ウォルター・エリオットである。十数年前、サー・ウォルターはウィリアム・エリオットとエリザベスを結婚させようと考えていた。エリザベスも乗り気であったが、エリオット氏のほうは身分の低い金持ちの女性と結婚し、それ以降は親戚づきあいが途絶えてしまっている。さて、家計のやりくりが上手だったエリオット夫人が亡くなったあと、サー・ウォルターは彼が考える准男爵家の格式を保つための贅沢三昧の暮らしを続けた結果、かなりの借金を抱えてエリオット家は財政困難に陥った。サー・ウォルターは信頼している友人二人に助言を求めた。亡き妻の親友でありアンの名付け親でもあるラッセル夫人とエリオット家の代理人弁護士であるシェパード氏である。ラッセル夫人はアンと相談して節約計画書を作って提出したが、これはサー・ウォルターのお気に召さなかった。「これじゃ普通の紳士並みの暮らしもできん!すぐにケリンチ屋敷を出たほうがましだ!」この発言に飛びついたのはシェパード氏で、「お屋敷を離れて他の土地へ行けば、すべて生活様式を変えることができます」。エリオット家の転居先がケリンチ屋敷から80キロ離れた温泉行楽地のバースに決まると、空き家となる屋敷のほうはシェパード氏が借り手を見つけてきた。借り手はナポレオンとの戦争に勝利して金持ちになった海軍軍人のクロフト提督夫妻である。クロフト提督はサマセット州の生まれで、その夫人は数年前にこの土地で副牧師をつとめていたウェントワース氏の姉であるという。この話を聞いたアンは呟く「あの方がここを歩くかもしれない」。「あの方」というのは、副牧師の弟で海軍軍人のフレデリック・ウェントワースという人物のことである。8年前の夏、当時19歳だったアンは兄を訪ねてきた23歳のウェントワース中佐と恋に落ちて婚約していたのだ。しかし、軍人という不安定な職業のうえに独立財産もないウェントワースとの婚約は誰にも祝福されなかった。父と姉は家名を汚す身分違いの結婚と考えたし、アンの母親代わりのラッセル夫人も不幸でみじめな結婚だと考えた。結局アンはラッセル夫人の反対意見に説得されて婚約を解消してしまった。フレデリック・ウェントワースはこの婚約解消をひどい仕打ちと考え、深く恨んで去って行った。この別れから受けたアンの悲しみは長い間消えることなく、彼女の容姿が色あせてしまったのも、この出来事の影響がいつまでも続いたためだった。クロフト提督夫妻は9月29日に引っ越して来ることになり、サー・ウォルターとエリザベスは8月にバースへ行き、アンはラッセル夫人と一緒にクリスマスのあとに向かうことになった。父と姉がシェパード氏の娘で未亡人のクレイ夫人を伴って出発すると、アンは最初の一週間をラッセル夫人のケリンチ・ロッジで過ごしたあと、妹夫婦の暮らすアパークロス・コテッジに行くことになった。というのも、メアリーがこの秋は体調不良になりそうだから傍に居てほしいと頼まれたのだ。ケリンチから5キロ離れたアパークロス村には立派な建物は三軒だけである。牧師館とアパークロス・コテッジ、それに地主マスグローヴ家のアパークロス屋敷である。マスグローヴ家は家族仲が良好で、お屋敷とコテッジの二つの家族はお互いの家を頻繁に行き来して暮らしている。アンはマスグローヴ家の人々に歓迎された。やがて9月29日にクロフト提督夫妻が引っ越してくると近所づきあいが始まり、クロフト夫人の弟で今は海軍大佐となったフレデリック・ウェントワースがケリンチ屋敷を訪問することが分かった。ウェントワース大佐の名前を聞いたマスグローヴ夫妻は二年前に亡くなった息子リチャードを思い出して悲しむ。亡きリチャードは海軍の見習い将校で、六カ月ほどウェントワース艦長のフリゲート艦に乗っていたことがあったという。それから数日後、ウェントワース大佐がケリンチ屋敷に滞在していることを知ったマスグローヴ氏は挨拶に行き、その返礼として大佐がアパークロス屋敷を訪問した。この訪問でマスグローヴ家の姉妹ヘンリエッタとルイーザは大佐のことをすっかり気に入る。数日後、クロフト提督夫妻とウェントワース大佐がアパークロス屋敷でディナーを共にすることになった。しかし、メアリーの上の息子が怪我をしており、アンは甥の看病を理由にディナーには出席しなかった。翌朝、チャールズ・マスグローヴとウェントワース大佐が狩猟に出かける前にコテッジに立ち寄った。一瞬、アンとウェントワース大佐の視線が合い、大佐が会釈し、アンも膝を折って挨拶を返した。こうして二人は再会したが、後になってメアリーからウェントワース大佐がアンのことを「すっかり変わってしまって、気がつきませんでした」と言ったと聞き、深く傷つく……。
※1818年初版(作者の没後に刊行)