アフェイリア国とメイドと最高のウソ | kanoneimaのブログ

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私的備忘録

書名:アフェイリア国(こく)とメイドと最高のウソ
原題:The Supreme Lie
作者:ジェラルディン・マコックラン(イギリス作家)
出版:小学館
内容:北部の田舎にある製材の町ソーミルズからプレスト市に働きに来た15歳の少女グローリア・ウィノウ。街でいちばん高い丘のてっぺんに建つお屋敷で、アフェイリア国の最高指導者マダム・スプリーマにメイドとして仕えるグローリアは叱られてばかりいる。いまアフェイリア国では2ヵ月にわたって雨がふりつづき、増水したフルカ川による洪水が心配されていた。てっぺん邸では議員が集まってスプリーマと会合をおこない、街の城門の閉鎖について話し合っていた。遅れて到着した気象学者の二人がスプリーマに報告書を渡すと、彼女は二人を退出させてから封筒を開けて読み、「近いうちに雨は上がるそうです」と議員たちに伝えた。それなら城門を閉めたり鉄道駅を閉鎖しなくてすむということで会合は終った。議員たちが帰るとスプリーマはグローリアに荷造りを命じ、午後の列車で北へ行くという。北部に視察に行くはずのスプリーマは邸宅の料理人をクビにし、全身をすっぽりおおったコートを着て夫と飼い犬とともにメイドを連れて徒歩で駅に向かう。ふりつづく雨のせいで運行停止が決まった鉄道の最後の北方面行きの列車には人々が押し寄せており、スプリーマと夫のティモールは乗車できたもののメイドのグローリアとスーツケース、それにゴールデンレトリーバーのデイジーは乗車拒否されてしまう。デイジーを荷物専用車に乗せるよう言いつけられたグローリアだが、そこにも人がいっぱいでドアが施錠されていた。仕方なく列車の屋根にデイジーを乗せようとしたがグローリアの力では持ち上げられずにいると、車窓から様子を見ていたティモールがやって来て手助けしようとした。ところが、そのタイミングで列車が動き出し、グローリアとティモールと飼い犬は駅に取り残されてしまった。結局、二人と一匹は荷物でいっぱいの手押し車を押しながらお屋敷に帰った。一方、アフェイリア北部のフォレストベンドでは遂にフルカ川が決壊し、クレム・ウォーレンは両親と飼い犬ハインツとともに屋根裏部屋に避難していた。そして、恐ろしい速さで流れた洪水はプレスト市を出発した最後の列車をも押し流した。そんな事が起きたとは露知らぬグローリアはメイドとして働き、ティモールは晴れると言われた天気予報がはずれたことに苛立っていた。スプリーマが丸めて捨てた気象学会の手紙をグローリアは拾って読んでおり、それをそっとティモールのそばに落として行った。気象学会からは『雨はこの先何週間もやむ気配はありません。長期の深刻な洪水がアフェイリア全土に広がると予測せざるをえません』と報告が記されていた。「マダムはだんなさまと犬たちといっしょに列車が止まる前に脱出したかったんだ」とグローリアが言うと、「国家元首の地位を捨てるなどありえない!」とティモールは否定する。そんな時に新聞紙『ザ・ヴォイス』の編集長から電話があり、スプリーマがプレスト駅の北行きホームから出た最後の列車に乗るのを目撃されたという噂が出まわっていると知らせてきた。さらに内務大臣のコヴェットからも噂についての電話がかかり、動揺したティモールはとっさに発言する。「街の城門を閉鎖する書類にマダム・スプリーマが署名する」困ったティモールが思いついたのは、グローリアにマダム・スプリーマの代役をさせること。幸か不幸か小柄なスプリーマと同じくらいの背格好なグローリアならば、彼女がいつも被っていたヴェールつきの帽子で偽装できる。ティモールの指図でスプリーマを演じることになったグローリアは風邪をひいたふりをして署名の場を乗り切り、後日の城門閉鎖にも立ち会った。閉鎖された街は洪水による通信ケーブルの断線で外部からの情報が入らず、中の人間たちはアフェイリアの経済を支えるカトラリー製造工場を浸水から守るために全員が水汲みポンプを動かす作業に動員され、家庭のペットはセンターに収容された。おっかなびっくりスプリーマを演じつづけるグローリアは、男友達のヒギーが勤める工場に視察に訪れても正体がバレずにすんだことで安心する。しかし、解雇された料理人がコートを取りに戻って来て、グローリアはスプリーマの服を着た姿を目撃されてしまう。騒ぎ立てる料理人を玄関クローゼットに閉じ込めたグローリアは、ティモールから気象学者たちが逮捕されたことを聞く。一方、水没した家の屋根の上に座っていたウォーレン一家はやってきた救助ボートに乗り込むが、飼い犬のハインツは置き去りにされてしまい……。かつてない規模の自然災害、逃げ出す政治家、フェイクニュースにふりまわされる人々……恐ろしくもユーモラスな物語。
※2021年初版
※本書のアフェイリアは架空の国だが、実際にアメリカで起きた1927年のミシシッピ大洪水と呼ばれる災害をモデルにした物語である。

※物語に登場するマダム・スプリーマの飼い犬デイジーにもモデルがいる。作者の飼っていたゴールデンレトリーバーで、名前も同じデイジーとのこと。
※作中には変わった名前が登場するが、作者のインタヴュー記事によると、そこにも仕掛けがあり、登場人物の人となりを暗示している。国名のアフェイリアも、ア・フェイリアで英語のa failureらしい。
※作中で男性最高指導者はスプリーモ、女性最高指導者はスプリーマという名称が示されているが、これは作品タイトル(原題)にも使われているsupremeという語からきていると推測される。supreme は「最高の」といった意味を持つ形容詞の英語表現。「最高位の、最大級の」の意味。究極・至高・至上のこと。イギリス英語発音「シュープリーム or シュプリーム」、アメリカ英語発音「スプリーム」と表記される。

クレム:クレメントの愛称
ヒギー:ヒグソンの愛称