相次ぐ誤報の判明で叩かれ続ける朝日新聞が、持ち味である批判精神まで失いかけている。
従軍慰安婦をめぐる虚偽証言報道、さらには「吉田調書」の内容を捻じ曲げた形のスクープ。いずれも批判されて当然だったとはいえ、検証と謝罪は済ませている。これが不完全だという意見もあるだろうが、朝日に求められているのは、読売・産経といった「権力の犬」に対抗する報道機関の一員として、政権をはじめとする権力への監視機能をより強化し、読者の期待に応える記事を送り出すことだろう。朝日新聞が生き残る道はそれしかない。しかし、誤報発覚後の同紙の紙面からは、再生に向けての気概が見えてこない。
所信表明めぐる朝日の及び腰
臨時国会が始まった29日、西日本新聞の夕刊に安倍首相が行う所信表明演説の内容を報じる記事が掲載された。見出しは『原発再稼働の推進明言』。演説の内容全般を紹介しているが、九州電力川内原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働を前に、改めて政権の原発推進姿勢を浮き彫りにした形。隣に配した解説記事では演説の内容について「具体策乏しく」と切って捨て、権力側と対峙する構えを鮮明にしている。記事の構成から言って、原発推進の政権に批判的であることは明らかだ。
一方、朝日新聞の同日夕刊。所信表明演説の内容を報じたまでは同じだったが、見出しにも、記事にも「原発」の文字は出てこない。30日の朝刊も同様で、首相が原発再稼働を進める意向であることには、ほとんど触れていなかった。政権が進める原発推進策に対し、無批判となった形だ。
朝日は、いわゆる「吉田調書」の記述を曲解し、東電職員の退避を「命令違反」だったと断定する「誤報」を流したことで、いまだに厳しい批判にさらされている。しかし、同紙が千回を超えて連載を続けている「プロメテウスの罠」などは、原発がもたらした現実を、丹念な取材と分析で描き出した評価すべきもの。原発推進を鼓舞する読売・産経の向こうを張って、朝日が存在感を示してきた証しでもある。
原発をめぐって避難計画の不備や火山活動への対応不足が指摘されるなか、首相があえて所信表明で再稼働を明言するというなら、それに対する朝日としての姿勢を明示するのは当然ではないか。だが、同紙はこれを怠った。原発から“逃げた”としか思えない。
特定秘密保護法制定から、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認に至るまでの安倍晋三の極右路線を支えてきたのが、「権力の犬」と化した読売・産経両紙であることは疑う余地がない。これに対し、安倍政権と厳しく対峙する姿勢を示してきたのが朝日・毎日・地方紙連合軍だ。とりわけ朝日の反権力の姿勢には共感する読者も多かったはず。それが朝日の朝日たるゆえんだろう。
読者が朝日新聞に求めているのは、権力に対する番犬の役割であって、政権のお先棒を担ぐことではない。これまで続けてきた反原発の姿勢までかなぐり捨てるようでは、存在価値がなくなってしまう。なにより大切なのは、「さすが朝日」と唸らせるような記事を書くこと。それには相当の覚悟と気概が必要であることを、朝日新聞は肝に銘ずべきだ。しっかりしろ!朝日新聞。
「Hunter」より転載
「朝日」がらみの記事をもうひとつ。
海外メディアが朝日問題を“安倍政権によるリンチ”と批判!でも日本では…
案の定、である。本日配信の総括特集でも指摘していたように、本サイトは朝日問題の勃発以降、安倍政権が朝日の誤報を利用して慰安婦問題そのものを隠蔽しようとするだろうと指摘してきたが、とうとうその動きが現実になったようだ。
自民党外交・経済連携本部国際情報検討委員会がこの9月19日にこんな決議をしていたことが判明したのだ。
「朝日新聞が慰安婦問題などにつき虚偽の報道であったことを認めた。朝日新聞が発信してきた虚偽の記事が国際的な情報メディアの根拠となり、国際社会が我が国歴史の認識を歪曲し、結果として我が国の評価、国益を著しく毀損した。朝日新聞の謝罪は国民の名誉と国益の回復には程遠いが、いわゆる慰安婦の『強制連行』の事実は否定され、性的虐待も否定されたので、世界各地で建設の続く慰安婦像の根拠も全く失われた」
朝日の報道が誤報を認めたから、性的虐待も否定された、だと? 自民党政権は吉田証言とは無関係な、フィリピン、オランダ、インドネシア、オーストラリアなど世界中の慰安婦が証言している性的虐待の事実もすべてデタラメということにしてしまう腹づもりらしい。もちろん、本サイトが暴いた中曽根康弘元首相が「土人女を集め慰安所をつくっていた」という防衛庁の戦時記録も、産経の総帥・鹿内信隆が陸軍経理学校で女の耐久度チェックを学んでいたという事実もないことにしてしまうはずだ。
だが、日本のメディアはおそらくこうした動きを批判することはないだろう。むしろ、こうした動きに批判の声をあげる者を「反日」「売国」のレッテルを貼って、吊るし上げる。それが今の日本の言論状況だ。
しかし、こんな論理が通用するのは、それこそこの島国の中だけだ。「週刊現代」(講談社)10月11日号が「世界が見た『安倍政権』と『朝日新聞問題』」という特集記事で、海外メディアの日本特派員や海外の識者・ジャーナリストの声を紹介していたが、これを読むと、日本の朝日バッシングがいかに異常に受け取られているかがよくわかる。
たとえば、フランスの一流紙「フィガロ」の東京特派員のレジス・アルノー氏はこう語っている。
「今回の朝日叩きは、政府によるメディアリンチですよ。これは大罪です。そのうち『慰安婦を組織したのは朝日新聞だった』などと言い出すのではないでしょうか。それくらい馬鹿げたことをやっていると思います」
テンプル大学ジャパンのジェフリー・キングストン教授の見解はこうだ。
「いま日本で起こっている状況は、報道問題というより政治問題です。安倍首相と保守派が、国家アイデンティティを再定義したいがために朝日に対して政治闘争を仕掛けているのです」
また、「ニューヨーク・タイムズ」のマーティン・ファクラート氏はこうコメントする。
「朝日問題にかこつけて言いたい放題なのが安倍政権です。朝日の報道がウソだったからといって、慰安婦問題自体がウソだったことにはなりません。(中略)朝日を執拗に非難する安倍政権や右派の人々と、世界の乖離を感じます」
ドイツ高級紙「フランクフルター・アルゲマイネ」の元東京特派員、バーバラ・オードリッチ氏はこう話す。
「福島原発も戦争責任も、これまで日本政府が隠蔽してきたことで、朝日はそれらの追及を行ってきたからです。それを安倍首相は、右翼的言動で封殺しようとしている。(中略)安倍首相は『積極的平和主義』を唱えていますが、EUから見れば『積極的右翼主義』にしか見えません」
さらに、米スタンフォード大学アジア太平洋研究センターのダニエル・スナイダー副所長はここまで断じている。
「今回のヒステリックな朝日叩きは、日本における言論の自由の危機、デモクラシーの危機、歴史的事実の危機という『3つの危機』を露呈させました。いまの日本で起こっているのは、ずばり『言論テロリズム』です。そのうち、安倍自民党の一党独裁国家になってしまう危険性を孕んでいます」
ようするに、海外の特派員やジャーナリストはみんな、今回の朝日バッシングが安倍政権の仕掛けであることを見抜いているのだ。そして、この問題を使って右傾化が一気にエスカレートしていくことに一斉に警鐘を鳴らしている。
ところが、日本の国内ではなぜかほとんどの人がそのことに気づかず、右派メディアに煽られてひたすら朝日叩きに熱狂しているのである。これぞまさに“タコツボ”。
ちなみに前出の「フィガロ」東京特派員のアルノー氏はこんな発言もしている。
「安倍首相を始めとする日本の右傾化した政治家たちは『朝日新聞は国際社会における日本のイメージを損ねた』と声高に叫んでいますが、事実は正反対です。仮に、日本の全メディアが、産経新聞のように報道してきたなら、今頃日本は国際社会において、どの国からも相手にされなくなっていたでしょう」
いや、今、まさにそうなりつつあるんですけど……。
(エンジョウトオル)
「リテラ」より転載
僕は、消費税増税を煽り立てていた「朝日」に嫌気がさして、子どもの頃から親しんできた「朝日」の投稿欄に「さらば、朝日新聞」を投稿し(当然掲載されなかったけど)購読を中止した。
だから「朝日」に対してそれほど期待しているわけではない。
しかし、誤報問題を利用した「朝日」バッシングというより、そのことを利用した歴史修正主義者たちのはしゃぎように、マスコミの危機を感ずるからこそ、なんとも頼りない「朝日」に頑張って欲しいと思う。
「朝日新聞の謝罪劇は言論の敗北、新聞社幹部の右傾化が進行している証拠だ。吉田調書問題、従軍慰安婦問題とも、記事の間違いは大したことはなく「許された危険」の範疇。朝日の幹部がある勢力と結託して。言論の敗北を演出したのではないかという疑いを感じる」-。朝日の社長会見を見たある元裁判官の感想だ。(中略) NHKを意のままにし、朝日を代表とするまともなメディアを集中攻撃する策謀。屈する訳にはいかない。」(日本ジャーナリスト会議「ジャーナリスト」2014.9.25号)
安倍政権はマスコミ対策を全力で遂行している。
おそらくその情熱は歴代政権で最も鋭いと思う。
マスコミを意のままに出来れば、安倍晋三が夢見る「美しい日本」と言う名の「戦前の大日本帝国」を取り戻せると考えているからだ。
NHK政治部は安倍の軍門に下った。
次は朝日、そして毎日だろう。
だから心ある国民は、不十分とはいえそうしたマスコミの批判精神を励まし続けなければならない。
この国に、さらなる「読売」や「産経」は不要であり、有害だ。