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オランダの街の自転車のように

 過去ばかり振り返るのはデザイナーとして良くないなと思いながらも、この1年は何かにつけて過去の作品について思うことの多い年だった。8月から10月頭にかけても宝島社から出版する10周 年記念のムックの企画として、旧知のアーティストや俳優の撮影をさせて頂いていた。モデルを務めてくれた皆と「そういえばこんなアイテムがあったね。あん なアイテムもあったね」と昔を振り返るのは楽しくて、話題は尽きないものだけれど、実は僕自身忘れてしまっていたアイテムも数多くあった。「年4回コレクションをしているし、型数も多いから仕方がないよ」と皆が笑ってフォローしてくれたけれど、僕も自分の作ったものに責任をもたないといけないと過去のカタログを今まで以上に真剣に読み返した。



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 そんな中で一際僕の目を捉えたのは、ギターを抱えた青年が自転車を漕いでいる様子を描いたTシャツだった。それはカナダ人アーティスト、ジャック・ディランとのコラボレーションによるアイテムなのだけれど、実はglambとしてリリースしてきた中で僕が個人的に一番好きなTシャツなのだ。今から4年 ほど前、事務所の近くのカフェでコーヒーを飲んでいる時に僕は偶然そのポスターに出会った。どこかとぼけたタッチと影のある色彩が織り成す奇妙な世界観。 店で働く女の子と友だちだったので、Tシャツのグラフィックに使えないかと話してみると、帰国子女の彼女はすぐに本人と話をまとめてくれた。

  後で彼女から聞いた話だけれど、この絵で描かれているのはオランダの街並みであるという。ギターを背負ったロック青年が自転車を漕いでいるなんて、東京で いえば中央線沿いや下北沢を思わせる光景だけれど、ヨーロッパの中でオランダはそういった立ち位置の国なのだろうか。当時、僕がかすかに抱いた疑問は、こ のカタログの撮影地にもなっているオランダを実際に訪れてすぐに解決した。

 オランダの国土は大部分が平地だ。国土の約半分は海抜0メー トルよりも低い位置にあるという通説の通り、本当に高低差無く土地が広がっている。そのためオランダ人の最もメジャーな交通手段は自転車だ。スーツを着た 人も、ロックミュージシャン風の人も、観光客も誰もが自転車で移動をする。一説によると人口よりも自転車が多いというのだけれど、あながち嘘ではないほど の自転車が街を行き交う。

  僕は自転車が好きだ。自転車というのは人の好奇心に最も敏感に応えてくれる乗り物だと思う。誰しもその時々で違った道を行きたくなるものだと思うけれど、 別の道へと進む一歩はなぜだか重い。車を運転していれば交通ルールの問題があるし、歩きだとしても最短距離を外れるのは時間や気持ちに余裕がなければやり づらい。けれど自転車のサドルの上では寄り道を億劫に感じるラインがぐっと下がるように思う。自分が思いついた道のりを気ままに楽しむことのできる自転車 の軽快さがとても好きだ。

 僕は10周 年を迎えたグラムをオランダの街の自転車のように出来たらと願う。スタイルも境遇も違う幅広い人々が同じように僕らの洋服を着て、そしてそれが日常に何か 新しい可能性をもたらしてくれたらいいと思いながら洋服をデザインする。今回の冬コレクションでも秋に続いて群像劇を意味する“Grand Hotel Theme” をテーマに洋服を作っていった。グランジが僕らの洋服作りの根底にあるけれど、着る人の層やスタイルをそれによって固定してしまいたくはない。ロックや ワーク、ストリート。ジャンルの壁を意識せずに作り上げたワードローブは、皆さんの普段のスタイルに馴染むものだけでなく、敢えて自転車で気まぐれな寄り 道を楽しむように、是非これまで着てこなかったアイテムに敢えて挑戦もしてみてほしい。何をしている時も一番の思い出は地図を外れたところで出来上がるも のなのだ。

 

glamb designer

古谷 


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