ワルキユーレ 第三幕 三場 6 | 神鳥古賛のブログ

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古典。読めば分かる。

 リヒヤルト・ワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」の日本語版を作成せんとす。

その第一夜「ワルキユーレ」より第三幕三場。

大神ヲータン、罰としてブリユンヒルデを眠らせ、それを目覚めさせし行きずりの男のものと為さんといふ、それに対しブリユンヒルデ、磐山を火もて囲めと請ふ。








「ワルキユーレ」 第三幕 三場




(ブリユンヒルデ)


 我れを懲らさんと、


 何かは思へる。



(ウオータン)


 深き眠りに


 我が爾を鎖さん。


 誰そ、さるあられもない身を起こせ、


 何くれと、目醒めさす、そが女(め)となれ矣。



(ブリユンヒルデ)


 より良き眠りに


 縛り付けよかし、


 かくては賤(しづ)の男(を)の


 易き贄ともなれ。


 こればし聞かせ、請ひ願ふ、


 おぞましき恐れに祈(の)み奉る矣。


 眠れる者を守る


 恐ろしきものに隔て、


 恐れ知らぬ


 神の猛男や


 この磐のへに


 我れを見出づべく矣。



(ウオータン)


 過ぎたる望みぞ、


 過ぎたる、みたまのふゆを矣。




(ブリユンヒルデ)


 こればし


 聞かせ、請ひ願ふ矣。


 裂き砕き打ち拉げ、


 み脚に縋る子をば。


 破れし頼む心を、


 屠(ほふ)れ、乙女の、


 身の跡形も


 無くなせ、槍もて。


 さりながら、むごき人よ、ゆめ


 おぞましき辱めに、さらす勿れ矣。


 爾が命(みこと)もて


 火を燃え盛らしめよ。


 磐のめぐりを赤々と


 いやちこ熱き火を。


 炎は舐めて、


 歯がみに砕く


 その恐れを、軽がろしく徒だ人の、


 穩だひなる磐山に、近づかば矣。