ワルキユーレ 第三幕 三場 5 | 神鳥古賛のブログ

神鳥古賛のブログ

古典。読めば分かる。

 リヒヤルト・ワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」の日本語版を作成せんとす。

その第一夜「ワルキユーレ」より第三幕三場。

なほも説得を試みるブリユンヒルデ、遁れしジークリンデに最強の英雄は宿り、且つ最強の剣の破片をも持ちゐたるを打ち明ける。








「ワルキユーレ」 第三幕 三場




(ブリユンヒルデ)


 尊き族(うから)の父に坐(ま)す。


 なま者の及びも付かざる。


 神さぶる益荒猛男や――我が知れる――


 出で来ぬ、ウエルズングの族に矣。



(ウオータン)


 云ふなかれ、ウエルズングの事矣。


 爾より去らば、


 彼れらよりも去る。


 妬みこそ彼れらを滅ぼせ矣。



(ブリユンヒルデ)


 爾、打ち拉ぎて、


 彼れを救へる。


 ジークリンデが養ふ


 神さびせす木の実、


 痛み且つ苦しみ、


 曾(かツ)てなきいたつきに、


 子を産み坐す、


 後ちをいとほしみつゝ。



(ウオータン)


 我れに求むるなかれ


 をんなの後ろ見も


 はらめる木の実をも矣。




(ブリユンヒルデ)


 彼れや持てる、つるぎを、


 汝がジークムントに与へし。



(ウオータン)


 それをば我がはたと打ち砕け矣。


 な図りそ、おゝ、乙女よ、


 我が志を乱さんと。


 爾が運命(さだめ)のまゝに、


 身を任せよ、


 択ぶ能はざるは我れも同じく矣。


 去らねば、今はゝや、


 落ち行かばや、


 既に長居に及んだり、


 離(さか)りし者から


 我が背を向けん、


 知る事許されざる、


 その願ふもの、


 その処罰をのみ


 見届けずんばならず矣。