審判奇譚 第九章5 | 神鳥古賛のブログ

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古典。読めば分かる。

 彼れ、返り言に、二つ三つ、ほど良き言をいらへせしが、イタリイびと、これを受けて、またも笑まひて、


むさむさとしたる口髭の藍鼠なるを、せはしな気にそゝくり撫でける。


それなる髭には、匂ひ油など染ませあるにや、い寄りて嗅がま欲しうなりにき。


三たりの者らゐ着きて、さて、わづか口開けそめて物云ひけるに、Kには、


これなるイタリイびとの云ひ成す事の、たどたどしうのみ思ひ分くばかりなるを知りて、いとゞ心いられしたりき。


緩るかに穏ひかに話したらば、ほうど、ことごとく思ひ分くを得るなれど、かゝる事、わづかなるのみにて、


およそは、言さやぐ、から歌のうたてある物云ひにて、楽しき事、このうへなしと云はんさまに、かしら振り振りしつ。


しかるを、かゝるさまに話すうちに、掟あるにや、いづれか言の鄙びたるに紛れ入りにけるなり。


K、はや、かゝる鄙びたる言の、イタリイ言葉とは覚ゆる事あたはざりしが、出店の主は、聞くに聡きのみならず、みづからも話しもしたりける。


さはれ、こは、Kにも予て思ひ知るにあたはざるものにはあらざりし。


これなるイタリイびとは南イタリイの出いたり、出店の主もまた、二た、三とせがほど、それにありし事あればなり。


兎まれ角まれ、Kには、このイタリイびとゝ心のうちを共に為す事あたはざると、およそ覚らざるを得ずなりにける。


この男のフランス言葉も、いたう聞き分け難く、唇の動きを見ば、或ひは知れるやと思へども、髭の為に、これも隠されゐたりしなり。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

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