弁護の士、これ直ぐさま返り言せざりしかば、ブロク、今ひと度、せちなるねぎ事を繰り返し、あはや、跪かんばかりに身をかゞめたり。
しかるを、かゝる処へ、K、ブロクを罵り喚きけれ。「何でふ事か為す。」とK、叫びしなり。
レニは、叫ぶを障へらんとしたれば、Kは、をみなの今ひとつ残る手をもつかみける。およそ、情け立ちたる手の握りやうならず。
をみなも、溜め息もらしもらしゝつゝ、いとせちに左右の手をもぎ取らんとしたり。
しかるに、Kの叫びしが為に、ブロク、これ罪なはれたれ。弁護の士、かくこそ問ひけれ。「爾の弁護の士たる、誰そや、それなる。」と。
「御まへさまに御座りまする。」とブロク云ふ。「さてもや、余のほかには。」と弁護の士問ひぬ。
「御まへさまのほかは、何ぴとも御座りませぬ。」とブロク云ふ。「さらば、余の何びとの云はんずる事も聞く勿れ。」と弁護の士云ひぬ。
ブロク、弁護の士の言葉を、しかながら仰せ付かつて、憎くさげなる目付きにて、Kをなめげに眺め入り、こちたくかぶり振り振りしつ。
これなる身振りを言葉に改めんとするならば、らうがはしかるべき罵りなりしなるべし。
かゝる奴ばらと親しうして、我が身のうへを語らはん心づもりなりしとは矣。
「はや、横槍は入れざれ。」とK、椅子の背に身を持たせて云ひぬ。
「跪かんや、はた、這ひつくばるや、いづれ、心に任せて為すべきなり。我れ、関せず。」と。