これなる弁護の士、何でふ心後れしたるさまに、我れが身を持て成すものぞ矣。
なりはひのうへの面目に於いて、まさに今この時こそ、心づかひ、いとゞしく際立ちてゐたるべけれ。
さるを、はや、ことごとくを投げ打ちてけれ。何ゆゑ斯かる持て成しとは成らんとするや。
見れば、為事さはなるべき弁護の士にて、そのうへ、富めるにやあらじかし。
儲け、これ失せたりとて、頼み手、これ一人ばかり失なひたりとて、そはそれ、それもて痛手となるべくもあらざれ。
あるがうへに、病うどなり、為事を減らすべう心懸けあるべき身なれ。
しかすがに、この我れを、かくも確つかとゝらまへて、放たんともせざるはや矣。そも何ゆゑか。
叔父への友としての義理合ひに因るや、さらずは、己が訴へ沙汰を、まこと異ざまなりと覚えて、さては我が為や、
或るはーーかゝる有りなん有りやう、つねに心すべき事なれーー裁きの司の仲らひうちへ、腕利きならんさまを見せんと思うてか。
如何に思ふさま、弁護の士のおもて、繁しげと見入るにも、その面差しより見え分かるもの、何ものも無かりし。
敢へて思ひ知らぬ顔に持て成いて、己が言葉の及ぼす処を見分きてんとしたれ、となん見做さんも有るべき事なる。
しかるを、弁護の士、Kの黙だしゐるを、いとゞしく己が心の有りたきまゝに思ひ解きたるならめ、かく言葉を継ぎぬ。
「思ひ及びたる事とは存ずれど、この我れに、厳い事執る間こそあれ、手まはりの者、これ一人とて無し。
先つ頃は此れに異なり、若き法りをわざとする者、二、三あり、我が為に働きゐたるをりもありしか。今や我れ、ひとりもて携はりぬ。