審判奇譚 第八章26 | 神鳥古賛のブログ

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古典。読めば分かる。

 レニは直ぐさまKを追ひて、ひたぶるに詰め寄らんとしたれど、商うど、立ち塞がりて道をはゞみける。

 
レニ、商うどを拳握りたるもろ手にて打ち叩き、更に拳握りたる、そのまゝに、Kのあとを慕へど、はや、その隔たりや勝りたれ。
 
レニの追ひすかひしきはには、彼れ、はや、弁護の士の部屋に立ち入りにける。
 
後ろ手に扉をほうど閉ぢつゝありし処へ、レニも何かはせん、足もて扉の閉ぢんとするをはゞみ、彼れのたゞむきを捕らへ、もとへ引き成さんとす。
 
しかるを、彼れはをみなの腕首をうたゝ捻ぢたれば、をみなも堪らず、うめきて、手を放たざるべからざりき。
 
すかさず部屋に押し入らんとまではせざりしかど、Kは念を入れて、鍵掛けたてつれ。
 
「うたて、久しうも待ちゐたるかな。」と弁護の士、臥しどにありて云ひ、蝋燭を灯しに読みゐたるふみどもを、脇手の几に置き、眼鏡を掛けて、Kのおもてを見込みぬる。
 
K、詫び言云はんともせず、「やがて、立ち返らんず。」と云ひにき。
 
弁護の士、Kの云へるが詫び言にあらざりしかば、これを過ぐして、さて云ひぬ。「後ち瀬は、かゝる夜更けての刻みに会はんとはせず。」と。
 
「そは、願はしきさまなる。」とK云ひぬ。弁護の士、いぶかりつゝ、彼れのおもてをまぼりぬ。
 
「腰を掛けられよ。」と彼れ云ひぬ。「言葉のまゝに。」とK云ひ、肘掛け椅子を脇手の几近くへ引き寄せて、うち掛けぬ。

 
 
 
 
 
 
 
 
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