審判奇譚 第八章27 | 神鳥古賛のブログ

神鳥古賛のブログ

古典。読めば分かる。

 「扉の鍵を鎖したらんとこそ見ゆれ。」と弁護の士云ひぬ。「しかり。」とK云ふ、「レニが為なる。」と。


何びとにまれ、手綱ゆるめまじうこそ覚えたるなれ。しかるを、弁護の士問ひしか。


「またぞろ、彼れ、あつかはしう持て成いたるや。」となん。「あつかはしとや。」とK、かへらばに問ひぬ。


「しかり。」と弁護の士云ひ、かくなん云ひつゝ笑みこだれゑ笑ひて、忽ちに咳の癪を起こし、癪治まるや、また笑らきてん。


「如何さま、汝しも、彼れのあつかはしきさま、はや、思ひ寄りたれ。」と彼れ云ひ、Kの手をはたと打ちぬ。


それまで、何心なう几のうへに置きゐたる手なりしを、打たれしかば、Kは慌てゝ手を引きそばめぬ。


K、黙だしゐたれば、「汝し、さる事、さしたる障りなるとも思はでこそあれ、」と弁護の士云ふ、「そは、我れには願はしけれ。


さなくば、この我れや、汝しに詫び言申さずんばならざるやも知れざればよ。


これや、レニの怪しき心ざまなれど、我れに於いては、疾うに赦しゐたる事にてもあり、汝しの今し、扉の鍵を鎖さゞりせば、話にも上らざりしとこそ思へ。


この怪しき心ざまと云ふは━━さはれ、汝しに説くべうも無からんと思はるゝは、さる事ながら、


さるを汝し、かゝるさまに驚けるさまに我れがおもてをまぼりゐたれば、かくて説かんずるものにて


━━この怪しき心ざまと云つぱ、レニ、これ、おほかたの訴へられし者を麗しと思ひ為す事なる。


彼れ、いづれの方にも思ひを懸け、何びとをも愛さぱ、また、さて何びとよりも愛されんとすなるらし。


さるさまなれば、我れ、これを赦したれば、我れの心遣りにとてなん、そのさま語つて聞かする事、度たびなり。


いや、うたて驚けるさまにこそ見ゆれ、我れに於いては、さまで驚くにも及ばざる事なり。


さほどの眼がねあらばこそ、訴へられし者を、まこと麗しう見ゆるなる事、珍しからざれ。


こは、目を立つるに及ぶべき、云ふなれば、自然の学問に通ずべき顕れなれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

https://m.facebook.com/mitsuaki.yamaguchi.92?ref=bookmarks

 

フォローしてね!フォローしてね…フォローしてねアメンバーぼしゅう中ペタしてねペタしてね