審判奇譚 第八章29 | 神鳥古賛のブログ

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古典。読めば分かる。

 弁護の士の語り終へたるきはには、Kもはや、きはやかに思ひ定めてき。


終はりしなの言葉には、目立たしきばかりに、うなづきうなづけど、こは、かねてよりの己が思ひ至りを、我れとみづからうけがへたるなり。


己がまさしに思ひ取りたるまゝなれ、これなる弁護の士、常々も、さては今また、さてありけるは、


事の心に係はりなき並々の事のみを語り聞かせて、此方の心づかひをうち散らし、我が事のわづらひには、実には何事を為せるなど、いとせちなる問ひは、紛らはさんとのみしたるなれ。


弁護の士は、此度のKの、恒ねにも増して、更なる手向かひを為さんとしゐたらんと覚えたるならし。


しか云ふも、口をつぐみてしかば、Kのみづから語り出でんをりをこそ与へたればなる。


さてありけれど、K、黙だしゐたるのみなれば、かく問ひける。「今日は、何ぞや含みたる処ありて、参られしにや。」と。


「しかり。」とK云ひ、弁護の士のおもてを見明きらめんとて、手をかざし、わづかに蝋燭の灯をさへぎりぬ。


「けふより、我が弁護をとゞめ給へかし、となん申さんとて参りたり。」となん。


「我れが耳や如何ん。」と弁護の士問ひ、臥しどのうちより身をもたげ、枕に片手をつきて支へとしたり。


「しかとしたりとこそ思へ。」とK云ひ、敵と相ひ構ふるが如くに、身をそば立たせゐぬ。


「しかりとあらば、我れら、その心組みを測らふを得んよな。」と弁護の士、稍やありて云ひぬ。


「はや、心組みなど云ふものにはあらじとこそ。」とK云ひぬ。


「さは、さもこそあれ、」と弁護の士云ふ、「しかはあれ、さりとても、我れらは、何事も、余り急ぎ立つを良しとせざればなん。」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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