弁護の士の語り終へたるきはには、Kもはや、きはやかに思ひ定めてき。
終はりしなの言葉には、目立たしきばかりに、うなづきうなづけど、こは、かねてよりの己が思ひ至りを、我れとみづからうけがへたるなり。
己がまさしに思ひ取りたるまゝなれ、これなる弁護の士、常々も、さては今また、さてありけるは、
事の心に係はりなき並々の事のみを語り聞かせて、此方の心づかひをうち散らし、我が事のわづらひには、実には何事を為せるなど、いとせちなる問ひは、紛らはさんとのみしたるなれ。
弁護の士は、此度のKの、恒ねにも増して、更なる手向かひを為さんとしゐたらんと覚えたるならし。
しか云ふも、口をつぐみてしかば、Kのみづから語り出でんをりをこそ与へたればなる。
さてありけれど、K、黙だしゐたるのみなれば、かく問ひける。「今日は、何ぞや含みたる処ありて、参られしにや。」と。
「しかり。」とK云ひ、弁護の士のおもてを見明きらめんとて、手をかざし、わづかに蝋燭の灯をさへぎりぬ。
「けふより、我が弁護をとゞめ給へかし、となん申さんとて参りたり。」となん。
「我れが耳や如何ん。」と弁護の士問ひ、臥しどのうちより身をもたげ、枕に片手をつきて支へとしたり。
「しかとしたりとこそ思へ。」とK云ひ、敵と相ひ構ふるが如くに、身をそば立たせゐぬ。
「しかりとあらば、我れら、その心組みを測らふを得んよな。」と弁護の士、稍やありて云ひぬ。
「はや、心組みなど云ふものにはあらじとこそ。」とK云ひぬ。
「さは、さもこそあれ、」と弁護の士云ふ、「しかはあれ、さりとても、我れらは、何事も、余り急ぎ立つを良しとせざればなん。」と。
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