審判奇譚 第八章11 | 神鳥古賛のブログ

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古典。読めば分かる。

 「さらば、己れみづからも、裁きの司にて働き掛けを為すものや。」とK問ひぬ、「これぞ聞かまほしうしたる処なる。」と。

 
「それにつきては、告げ報せ得る事は、わづかのみなるべし。」と商うど云ふ、「初めこそは、さる事試みたれ。
 
さりながら、直ちにとゞめてけれ。いとゞしう、いたつかんばかりにて、さしたる験しも此れなし。
 
彼処にて働き掛けて駆け引き為さんとするは、余の人は知らず、少なくも、それがしには、およそ為し得べからざる事と覚りし。
 
彼処にては、居て待つのみなるとも、うたてしきいたつきなる。
 
御前さまも、御みづから、かの事執り所のいぶせきさまは知り給へれ。」となん。
 
「如何なればか、我が彼処に行きたるを知りしや。」とK問ひぬ。
 
「御前さまの過ぎ行きし時に、まさに待ち合ひにこそをりたれ。」と商うど。
 
「何ぞ偶さかなる矣。」とK叫びしかど、さても、いとゞ心も空となりて、商うどの烏滸がましき有りさまもうち忘れにけれ。
 
「しからば、爾、我れを見つるとな矣。爾、我れの過ぎ行きしをり、待ち合ひにあり。
 
まさにしかり、我れ、ひと度、すべてを見つゝわたりたる事あり。」となん。
 
「さして、偶さかなるにも此れあらず。」と商うど云ふ、「それがしが方は、ほうど日ごろに彼処にあればなり。」と。
 
「我れも、この後ち、しばしばも出で行かざるべからざれ。」とK云ふ、「さりながら、この後ちは去るをりの如くに、いともうやうやしうは迎へられざれ。

皆々、い立ちうやかきたれ。我れをば、評定衆とこそ思ひにたるらし。」と。

「否とよ。」と商うど云ふ、「かのをりには、司の奴つこにこそゐや為せれ。

御前さまを訴へられし人なる事は知られゐたるなり。かゝる事、やがて知られければよ。」と。

「さらば、知りゐたるとなん。」とK云ふ、「さすれば、我が振る舞ひは、およそ心あがりしたらんかに見ゆれ。さる事、口端に掛からざりしや。」と。

「否とよ。」と商うど云ふ、「さにあらず。さはれ、痴れがましき事なる。」と。「痴れがましき事とは如何。」とK問ひぬ。

 
 
 
 
 
 
 
 
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