審判奇譚 第八章2 | 神鳥古賛のブログ

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古典。読めば分かる。

 弁護の士の屋形なる呼び鈴を鳴らしたるにも、例の、初めは何びとも出で来たらず。


「レニの女つこ、今し速やかなるべきを。」とK思ひぬ。


さはれ、余の頼み手に割り立てられざらん事、これのみにて一つの幸ひと云ふべし。


例の、怪しげなる者に押し入られ、寝間着姿の男なんど、いたう煩はさるゝは、喜ぶべくもなし。


二たび目に押し釦押しつゝ、今ひと方の扉をかへり見すれど、けふについては、これも閉ぢられしまゝなり。


やうやう、弁護の士の部屋なる扉の覗き窓に、ふたつの目、現れたる見ゆれど、こはレニの目にあらず。


何びとか来たり、扉をあけはすれど、しましく身を押し立てゝ支へ、うちへと向けて、「かの人ぞ矣。」と叫び、さてこそ、やうやう扉をあけ放ちしか。


後ろなる、余の内つ扉、これまた急いて鍵鎖さんとする音聞こえしかば、K、はや、扉に突つ込んだれ。


為に、まへなる扉開かんとするや、即ち、控への間に飛ぶが如くに入りにたれど、その彼れの目に、まさに、部屋どし繋げゐたる渡りを、下着姿のレニの逃げ行くが見えつ。


扉を開きし男の、すゝどき戒めの叫びをあげしは、レニに向けたるものなりしなり。


暫しは、をみなの後ろ姿を見遣れど、さてありて、K、扉を開きし男に身を向けつ。おとがひ懸けて髭生やせる小男にて、手に蝋燭持てり。


「これに雇はれあるや。」とK問ひぬ。「しからず。」と男いらへ、「このうちの者にはあらず。弁護の士、我が名代にして、さる法りのうへの障りありて、これまで来たりたり。」となん。


「上着も着ずしてや。」とK問ひ、男の身なり見苦しきさまなるを、手振りもてそれと示しぬ。


「あら、ご許されませ矣。」と男云ひ、彼れみづから、初めて己がさまをうち眺めんとするがに、蝋燭もて照らして見たり。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

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