審判奇譚 第八章3 | 神鳥古賛のブログ

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古典。読めば分かる。

 「レニは爾が思ひゞとなりや。」とK、きはやかに問ひぬ。彼れ、やゝ脚を開き、被り物持てる手を後ろに組みてゐたり。


この痩せぎすの男に向かひては、厚らかなる外套をまとへるのみにても、およそ思ひ増さゞまにこそ覚ゆれ。


「あるべきやは。」と男云ひ、片手を顔のまへにかゝげて、うち驚きて身を守らんとするなるさま為しつ。「あな、あるべきやは、何事を思ふなる。」となん。


「偽りを申すにはあらざれ。」とK、笑まひつゝ云ひぬ、「さもあれ━━いざ、給へ。」と。彼れ、被り物を左右して、この男を先立てゝ歩ましめつ。


「名は何と。」とK、歩みつゝ問ひぬ。「ブロク、あきんどのブロクとこそ。」と小男云ひ、かく名告りつゝKに向き直りたれど、K、これを止まらしめず。


「まことの名なるや。」とK問ひぬ。「云ふにや及ぶ。」となんいらへにて、「何とて疑はせられうぞ。」となん。


「ゆゑあり、名を隠さふにやと思へばよ。」とK云ひぬ。彼れ、いたう在り良き心持ちなりき。


かゝる心持ちにならんとするは、知るひと無き所にて、位低き者どもと話すいとまのみなるべし。


己が事は棚へ上げ置き、思ふさまにひと事の良し悪しをあげつらひ、かくて、ひとのうへを良くも云へれば、或るはまた、心のまにまに、悪しざまに罵らんも在りやうなればなり。


K、弁護の士の勤めの間の扉をまへに立ちとゞまり、その扉をあくるや、云はるゝまゝに歩みつゝありし商うど目掛け、かく叫びぬ。


「さなん、な急ぎそよ矣。これ、照らし給へや矣。」と。


K、これに、レニの隠れゐたるにやと思ひ、商うどを使ひ、隈なく求めさせしかど、この部屋には何ぴともあらず。



 

 

 

 

 

 

 

 

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