審判奇譚 第八章4 | 神鳥古賛のブログ

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古典。読めば分かる。

 評定衆の絵のまへにあり、K、商うどの着物の袖を後ろよりむずと引きて、これをとゞめたり。


「かの男を知れるや。」と彼れ問ひ、人差しのおよびもて高き所を差しぬ。


商うど、蝋燭を掲げ、目をしばたゝかせつゝ、うへを見遣りて云ひぬ。「評定衆なる。」と。


「位ゐ高き評定衆なるや。」とK問ひ、商うどに並み立ちて、この絵、如何やうに目に付かんとするや、これ確かめんに、うち眺めんとす。


商うどは稀有がりて見上げゐたり。「位ゐ高き評定衆なれ。」と彼れ云ひぬ。


「およそ目利きにはあらざれ。」とK云ふ、「下もざまなる取り調べの評定衆のうちにも、最も下もざまなる評定衆ぞ、これ。」と。


「思ひ出でたれ。」と商うど云ひ、蝋燭を下ろしつ。「我れも、しか聞きぬれ。」となん。


「云ふに及ばんや。」とK叫びぬ、「忘れゐたりしよ、云はずともよ、爾もこそ聞け。」と。


「さはれ、何がゆゑぞ、何のゆゑにか。」と商うど問へど、Kにもろ手もて追つ立てられ、扉までそゝき立ちぬ。


渡りに出づるや、K云ひぬ。「レニ、これ、いづれに隠れゐたるや、知りたるべし。」と。


「隠れゐるとや。」と商うど云ふ、「そは、知らざれど、厨にて、弁護の君の汁物を作りゐたれ。」と。


「何ゆゑ、それと、速やかには云はざれ。」とK問ひぬ。


「御前さまをお連れ申さんと思ひてこそあれ。しかるに、我れを呼び戻してあれ。」と商うど、食ひ違ふ御達しに思ひ乱れ思ひまどへるさまに答へぬ。


「してやつたりとこそ思へれ。」とK云ひぬ、「さらば、案内致せ矣。」となん。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

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