グスタフ・マーラーの完成されし歌唱付き交響曲「大地の歌」の日本語版を作成せんとす。
第一楽章「大地の哀愁を歌ふ酒の歌」
酒はいざなふ、黄金の杯(はい)もて
まて暫し、飲むなかれ、まづ歌はなん、汝れにこの歌を矣
そは悲しみの歌、たゞに笑ふべけれや、汝が心どには
あはれ悲しび来たりなば、うらさべや、御心の園べは
枯れ果てめや、喜びも、歌の調べも
暗きやも、生きの命も、死に逝くも矣。
やよ、この屋のあるじ矣
汝が酒蔵は満ちわたれ、香ぐはしの黄金の酒に矣
こゝに琴のあり、掻き鳴さんかな矣
琴を掻き鳴らし、酒杯を重ぬれば
まさに相ひ合へ、和して陶たり
満々たる盃(さかづき)を、ほど良きしほに
いと優りたれ、いと優りたれ
いと優りたれ、何ものにも増して、大地にも矣
暗きやも、生きの命も、死に逝くも。
大空は青し、とこしへに、さても大地は
ゆるぎなくながらへ、花は盛れ、春の日に
さるを汝れ、人よ、ながらふるや幾ばく
もゝとせに満たで、うつゝに浸りぬるも
あなあはれ、爛れ行くのみ、この大地にて矣
それ見遣れ矣、月影に佇つおくつきを
這ひつくばふ、怪しのけだもの━
あれぞ猿(ましら)矣、聞けかし、かの叫びを
甘く熏ゆるならずや、徒だなるうつそみの如矣。
いざ取れや盃を矣、いざ、時は今、宴せよ矣
うつろに為せ、黄金の酒、盃を矣
暗きやも、生きの命も、死に逝くも。
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