審判奇譚 第八章6 | 神鳥古賛のブログ

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古典。読めば分かる。

 「ヨゼフ。」とレニ云ひ、乞ひ祈むさまにKを見遣れど、さりとも、直たおもてにKの目を見詰めゐたる。

 
「よも、ブロクの君にもの恨みするにやあらんかは。━━ルウヂイ。」と、さては、商うどを振り返りざまに呼び、「助け手せよ。我れ、わりなくもの疑ひされたれ。蝋燭なぞ置かせ。」と。
 
商うどは、さして心遣ひするさまにも見えざりしが、なかなかに、まことは物の心を能くわきまへゐたり。
 
「何ゆゑに、御前さまのもの恨みする心の染み給ひしか、我れにも思ひ知られず。」と、ものあらがひするさまも、およそ見せず、商うど云ひぬ。
 
「我れにも、真こそには、わきまへ知るにはあらざれ。」とK云ひ、笑まひつゝ商うどのおもてをまぼりぬ。
 
レニ、声高にもゑ笑ひて、Kの惑ひゐたるに付け入り、そのかひなを掻い込みて、かくさゝやきぬ。
 
「はや、かの人をば思ひ放ちてよ。如何なる人かは知られたれ。
 
我れ、かの人をわづかばかり後ろ見申したるは、弁護の君のおほ得意なるがゆゑにて、余の事わけなどあらじかし。
 
さもあれ、汝がうへはや。けふうちにも弁護の君と話さんと為すや。けふはいと悩ませられたり。
 
さはれ、その心づもりならば取り次ぎ致さめ。さるを、夜の間は久しう我がもとにとゞまり給へ。
 
汝れ、はや、長々し夜の長々と来たり給はず、弁護の君さへ、汝がうへの事、問ひ給ひしか。
 
訴へ沙汰の事、徒だおろそかに、な思ひそ矣。我れはも、耳にとめたる事の様ざまを言伝てゝん。
 
さ云へ、あな、何がさて、外套をお脱ぎやれ矣。」となん。
 
をみな、彼れの外套を脱ぐを助け、被り物取り上げゝれば、これら直さんとて控への間へ馳せ行けど、また馳せ帰るや、即ち、汁を塩梅為す。
 
「汝が取り次ぎを先づ為んや。さらずは、汁の物、先づ参らすべきにや。」とをみな。「先づは取り次ぎ為せ。」とK云ひぬ。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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