審判奇譚 第七章72 | 神鳥古賛のブログ

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古典。読めば分かる。

 「すべて包ませられよかし矣。」と彼れ、絵師の語るをさへぎりて叫びぬ。「明日ッタ、丁稚来たりて、運び去らんず。」となん。


「さるには及ばじな。」と絵師云ひぬ。「すぐさま、汝れにともなふべき運ぶ者、これ、見出でらるべきなり。」と。


さて、やうやう、寝台のうへに身をかゞめて、扉をひらきたるなり。


「思ひとゞまらず、うちつけに、寝台のうへなりと上がらせられよ。これに来たるべきひと、なべて、さなん仕う奉りぬ。」となん。


云ふに及ぶべきかは、K、何ぞ思ひとゞまるべき、さもさうず、はや片えの足、羽根の衾の真なかに乗りたりけり。


さるを、彼れ、空きたる扉の向かふを見遣りて、即ち、その足を引きそばめけれ。「あれなる、何ぞ。」と彼れ、絵師に問ひぬ。


「何しかも、驚くべき事かある。」と絵師もまた、Kの驚けるさまに驚きて問ひ掛けぬ。


「あれなるは、裁きの司事執り所よ。これに裁きの司事執り所のあるべきを知らざりしとか。


裁きの司事執り所は、およそ、いづれの屋根裏にもあるべく、何すれぞ、これにのみ在るべからざる事あるべけんや。


我れの絵描く室も、もとは裁きの司事執り所のものなるを、裁きの司、これ、我れにあてがはせ給ひしなり。」となん。


こゝに、裁きの司事執り所を見出でたる事に、さしたる驚きとては無かりしも、Kの驚きの主なりしは己れみづから、裁きの司と関はる事への己が心構への拙きにあり。


恒ねに心懸けを怠る無く、必ず不意を衝かるゝなどあるべからで、評定衆、これ、己が左にい立ちあるに、ほけほけしう右わたりを眺め暮らすなどあるべからずと云ふが、訴へられし者の心構へのあるべかしきさまと、彼れは思ひゐしなり━━


しかるを、あらう事か、このあるべかしきさまに、繰り返し繰り返し衝き当たらんとはするなり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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