ネットフリックスでストリーミング開始ほやほやの映画。Leave the world behindとは、「世の中の喧騒を置いて行きましょう。」という意味。近頃よくあるけど、なぞなぞみたいなタイトル。でもコンテンツを見ると意味が分かる。

ジュリア・ロバーツがテレビ出演していて、テレビのトークショーでこの映画の宣伝をしていたので、ネットフリックスを見てみたら、「この世の終わり」の映画ということが分かって、すぐ見た。面白かった。

近頃、この世の終わりがテーマのドラマや映画が多い。この世が終わってからの世界のことを、Dystopian world(ディストピアン・ワールド)という。で、「この世の終わり」や、「この世が終わってからの世界」を描いた映画やドラマを表現するときに、Dystopian dramaとか、この映画はdystopianなどという。

一番典型的なDystopianドラマはWalking Deadだろう。

この映画、Leave the world behindは、Mr. RobotやHomecomingのクリエーター、Sam Esmailの作品だ。両方ともブログ記事を書いた。

 

 

 

 Sam Esmailの描く世界は大好き。彼の描く世界は、Mr. Robotの場合はかなりDystopianだった。Homecomingの場合は、PTSDで心の傷を負って帰還した兵士たちに薬を飲ませて、記憶を消してまた戦地に送り込む、アメリカ軍の陰謀計画の話だったから、どちらかと言うと、「世も末」というドラマだった。どちらも大好き。これもとてもいい。サム・エスマエルは好きな俳優さんがいるらしくて、Mr. RobotとHomecomingには、個性派俳優、Bobby Cannavaleが独特の、毒のある演技で出ていた。Homecomingと、このLeave the world behindは、両方とも見事に演じきっているジュリア・ロバーツが出ている。この二つのドラマで、ジュリア・ロバーツはイメチェンに成功して、昔有名だった美人女優、じゃなくて、今でも旬な中年白人演技派女優として、昔のジュリア・ロバーツを知らない若い世代の人たちにも知られることになったのではないか。

 

Mr. RobotのBobby Cannavale

 

ジュリア・ロバーツと言えば、Homecomingでもそうだったけど、この映画に出ているロバーツは、かつてPretty Womanに出ていたジュリア・ロバーツとは別人。今の方が、現実にこういう人がいる感じがして好きだ。昔のロバーツは、「こんなお姫様みたいな、人形みたいな人現実にいるわけない。」と思って、フェイクな気がして好きじゃなかった。今は、よくいそうな、普通の白人のおばさん。かつては美人だったかもしれないけど、今はただの、神経質な、特権階級意識を持った白人のおばさん。ノーメークで、しわがあって、服もダサくて、美しいとは言えないし、ぎすぎすして、このLeave the world...では人種差別主義者だし、自分と自分の家族だけが良ければいい、というような、偽善的で、自分勝手な、好感持てない人。私は、雲の上の人のように見えていた昔の彼女より、今のジュリア・ロバーツの方が好きだ。好かれなくても構わない。嫌な女と思われても構わない。そんなところにプロ意識を感じる。

 

猜疑心いっぱいの、感じの悪い白人女性を演じるジュリア・ロバーツ

 

この映画、不気味な音楽から始まって、ずっと不気味な雰囲気のまま終わる。最初から、これはただの平和な家族映画じゃない、ということが分かる。

ジュリア・ロバーツと、イーサン・ホークが夫婦で、高校生の息子と小学校高学年ぐらいの娘がいる。家族はブルックリンに住んでいて、あわただしい、休みのない生活を送っている。ある時、全然休暇を取っていないということで、アマンダ(ジュリア・ロバーツ)は週末に、マンハッタン郊外にある高級別荘地、イーストハンプトンの一軒家を借りたので、そこで週末を過ごそうと言い出した。主人のクレイ(イーサン・ホーク)は温厚な性格とでもいうのか、かなりアマンダの言いなりなので、承知して、家族全員、「世間の喧騒を離れて」イーストハンプトンの大きな邸宅で週末を過ごすことになった。

 

人の好い性格の夫を演じるイーサン・ホーク

 

ハンプトンに向かう途中、子供たちは車の中でIパッドと、携帯を見ていたが、郊外に来たからか、ネットがなくなった。ここから日常生活から逸脱した異常が次々と発生し始める。

 

普段の日常生活から休暇を取るために、一時都会から逃れて郊外に行っている間に突然、しかし、徐々に世の中が終わった。でも、これは、宇宙人や、外国の侵略でもなく、コロナのような病気でもないので、しばらく世の中が終わったことに気が付かなかった。不思議な出来事が次から次へと起こる。でも人間の性として、これが世の終わりの予兆とはすぐには受け入れられなくて、しばらく我慢してれば、元の生活に戻るだろう、と思うのだ。特に、典型的な白人女性のアマンダは、不安そうにしている子供たちに、「こんなの何でもないわよ。そのうちすべて普通に戻るから。」と言い続ける。でも段々、今までの「普通」は終わって、緊急事態の状態のまま、生死と背中合わせに生きていかなければならないことを受け入れざるを得なくなる。その時たまたま一緒に居合わせた人たちと一緒に生きていくのだ。たとえそれが赤の他人でも。うまの合わない人たちでも。


アマンダたちが豪華な別荘に到着した夜、この家の所有者だという父と娘が、自宅のあるマンハッタン全体が停電になってしまってパニック状態なので、ここに来ることにした、と突然やってくる。父親らしき人が、「事前に連絡しようと思いましたが、携帯が通じなくて。」と言った。この父親役を演じるのが、アカデミー男優賞を取ったマハーシャラ・アリ。アマンダは、普通の白人のおばさんだけど、このときの黒人であるこの男性に対するアマンダの反応があまりにも人種差別に満ちていて、腹立たしかったので、次の記事に詳しく書いたけれど、抜粋してここに写しを載せることにする。

 

夜中にこの家のオーナーだという親子が、盛装をして現れた。

 

突然訪ねてきた、家の所有者だという親子。マンハッタンが異常な状態なので、この家に避難してきた。貸し出したのは確かだが、緊急事態なので、落ち着くまで泊まらせてほしい、と所有者を名乗る男は頼んで、引き出しから現金の入った袋を出して、レンタル料金を返金した。クレイがそれを受け取って、快く「どうぞ」と言ったことに対して、アマンダが怒って別室で言った言葉。

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「なぜ赤の他人に家に泊まってもいいなんて言ったの?」「そんなこと言ったって、停電なんだよ。放り出すわけにはいかないじゃないか。彼らの家なんだし。それに彼らだって怖いだろうよ。」「第一、本当に彼らの家なんだか、わからないじゃないの。はっきり証拠を見せてもらったわけじゃないんだし。もしかしたら、ずっと外で隠れてて、夜になってから来ようとしてたかもしれない。フィルハーモニー管弦楽団の役員だなんて嘘くさいわよ。詐欺じゃないのかしら?」(ムキーなんて嫌な人。)「夜中にローズの部屋に忍び込んだりして。」(ひどすぎ)「停電とかいうのも、口から出まかせを言ってるんじゃないかしら。ただこの家に入って、私たちと過ごしたいだけなんじゃないの?」(そんなに自分たちが魅力的だと思うのか)

 これは、彼らが黒人だから疑っているのは間違いない。これが、タクシードを着た白人だったら、にこにこして家に入れて一緒にお酒でも飲んだかもしれないのだ。このドラマを見ると、本当に普通の白人って、こんなに有色人種に差別心を持っているのか、と思ってしまう。黒人が自分たちより裕福だということが信じられないみたいだ。善良な黒人なんていない。皆悪人とおもっているみたい。

 クレイは、「そんなことでっちあげるなんて考えにくいよ。」という。「携帯やテレビがつかないのもうなずけるし。それに、どの引き出しに現金がしまってあるか、ちゃんと知ってたじゃないか。」「そんなの、彼はこの家に出入りしているハンディマンで、彼女は女中さんかもしれないじゃないの。女中さんって勤めている家のお金のありか知ってるもんでしょう?」ムキーひどくないか?白人ってこんなに他人のこと信用しないものなのか?ここで、心にとめておきたいのは、この映画のクリエーターは、自らもエジプトからの移民の、サム・エスマエルだということ。自分が被った体験を書いているのか。アマンダの人種差別発言はまだ続く。「なぜあんな人たちの言うことは信じて、私の言うことは信じないの?」

 結局、クレイがもう一度GH(アリ)と話して、胡散臭くない、と判断したら一泊だけ「泊めてあげる」ことになった。(あきれて言葉が出ない)

また彼らを待たせている台所に行くと、GHがコクテルを作っていて、「僕が飲もうと思っていたけど、よかったらあげますよ。」とクレイにあげた。クレイは喜んで飲んだ。アマンダにも、「どうですか?」と勧めたが、「何入ってるの?」と言って、アマンダは拒否した。(ムキー)このやりとりを聞いていたルースが怒って、台所から出て行ってしまった。

 

不信感いっぱい。

 

 アマンダの疑惑は続く。「マンハッタンではどこに住んでいるの?」「パークアベニューです。」マンハッタンの一等地だ。「そちらは?」とGHが聞いた。「ブルックリンです。」とクレイがこたえた。「ああ、今流行りですね。みんなそこに住みたがっている。娘が独り立ちするときも、そこに住ませたいと思ってるんです。」とGHが言うと、アマンダは嫌な顔をした。「奥さんはどこにいるの?」とアマンダは聞いた。「今、モロッコに行ってるんです。美術商をやってましてね。買い付けで。今日戻ってくることになっているので、心配してますが。」とGHが言うと、「へええ」とアマンダが大げさに言った。「身分証明書を見せてもらえますか?」とアマンダが聞くと、クレイが「アマンダ、ちょっと」と言って、げっそりした顔をした。「当然でしょう?夜中に突然現れて、泊まらせてくれって言うんだから。」とアマンダが言った。

 

白人の本音ってこんなものなのか?と完全に不信感を持ってしまうほどだった。こんな誰が聞いても大嫌いになるような役をよくジュリア・ロバーツが引き受けたな、と思って、逆に「度胸ある」と思ってしまった。

それに対して、慣れているのか、落ち着いて、アマンダの失礼な数々の言葉に腹も立てず、ちゃんと応対する、理知的で、紳士的な黒人男性を演じるマハーシャラ・アリもさすが。

ベテランのイーサン・ホークも、世界の終焉を迎えて、ネットや電気がなくなったら何もできない自分の無力を思い知っておろおろする白人男性の役を見事にこなしていた。それでも自分の家族を守ろうとする必死さが伝わってきて、よかった。

この映画、ケビン・ベーコンも彼らしい役で出ている。

あと、内容には全く関係ないが、元大統領オバマ夫妻も、なぜかこの映画の一プロデューサーとして名を連ねている。

 

このように、このネットフリックスの映画、有名な、大物俳優がたくさん出てきて、制作側も一流。ストーリーも面白く、脚本もよく書けている。今、ネットフリックスでNo1の映画だけのことはある。