2022/11/27 ローカル線の未来を考えるシンポジウム@備後西城 基調講演 | 金屋代かずおのお部屋

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周防大島町を拠点に鉄道旅行・鉄道もけいの活動を行っています.

(会場の西城地区の生活の中心・ウィル西城)

 

筆者は2022/11/27に広島県庄原市西城で開かれた「ローカル線の未来を考えるシンポジウム」を聴講したことを,ここに宣言いたします.

 

昨今ローカル線問題が話題となっていますが,こと芸備線 備中神代〜備後庄原は現在JR西日本の内部補助では到底維持できない超閑散路線であること,既に(廃止を含むと思われる)活用に関して地元との協議が始まっているということで喫緊の課題となっています.今回はその一環のイベントであり,えちごトキめき鉄道の鳥塚亮社長を講師に迎えての基調講演・各自治体・関連団体の取り組みを紹介・考察するパネルディスカッションで構成されました.鳥塚社長はオンラインでの出演となりましたが,各自治体・各関係者の取り組み・考えを生で聞く貴重な機会であり,行ってよかったと思えました.

会場は(モザイクをかけていますが)ご覧の通り満席でした.庄原市長の他,岡山県新見市長・島根県奥出雲町長の他,報道陣の方も多く詰めかけていました.

 

それでは内容を簡単に紹介します.ただし,このシンポジウムは同時配信(記事公開現在視聴不可)がなされていたために筆者では録画などは行っておらず,メモをとって聴講しましたが,筆者の印象に残る内容の要約であり,必ずしも発言された方の意見を正しく表現しているとは限らないためご注意ください.

  基調講演前半・いすみ鉄道

外資系航空会社出身で,2009年に公募で千葉県の「いすみ鉄道」の社長に選ばれた鳥塚氏は,いすみ鉄道の再建のため,これまでのローカル線維持の取り組みに挙げられながら成果が出ていなかった「地域の足を維持しよう」「乗って残そう」から脱却すべく,まずは「地元の方々で駅の掃除,線路の周辺の草刈りを行う」という,地元の方々(高校生も含む)が自発的に路線の維持に関与するということから始めました.草刈りの際には菜の花の種も蒔いたとのことです.当時からグッズ販売なども行なっていましたが,なかなか効果がでず,駅にカカシを設置したこともあったようです.

イベントにはまずは地元の方々が参加するという形になり,大多喜漁港名物の「伊勢海老」焼きを出す朝市イベントが実施,これがテレビで紹介され次第に人気になってきました.また,国吉駅周辺の「出雲大社」を廃止するという話が出た際には,一畑電車の「出雲大社口駅」とコラボした入場券を発行したそうです.

次第に人気が出てきたため,次に「女性を呼ぶ」ということで列車にムーミンのラッピングをすることになりました.これが女性誌で特集されさらに人気が高まり,写真を撮る女性が多数こられていました.ここまで,着任後数ヶ月でのことです.

「女性が来る」ということは「男性も来る」ということ(逆は成立しません)で,ついにキハ52 125の導入に踏み切ります.導入後は「懐かしい昭和の風景が再現された」ということで,オート三輪やボンネットバスが頼んでもいないのに沿線にやってくるようになって「撮影スポット」化,さらにはフォークソングバンドまで来るようになり,とうとう車内でフォークソングバンドの演奏を聴く「フォークソング列車」が企画されることになりました.地元の方にとって,鉄道を利用する必然性ができた瞬間でした.

そして,何かを期待してがっかりさせないように「ここには何もない」というキャッチコピーのポスターを作成,ポスターのアングルは撮影でも人気になり,観光客の受け入れキャパシティを増やす必要が出てきました.そこでキハ28 2346も導入となりました.常時2両は必要ないため,キハ28は地元の飲食店・ホテルが料理を提供する「レストラン列車」というやや高額の企画に使用されることになり,結果,料理を提供したホテルも繁盛するという結果になったようです.さらには「お刺身列車」も登場しました.このような形でいすみ鉄道は株主への配当ならぬ「地元への還元」を実現させ,ついには各施策に懐疑的であった地元行政も認めさせた結果となりました.

(そして,2018年に氏は社長を退任されます)

 

  基調講演後半・えちごトキめき鉄道

2019年に鳥塚氏は同じく公募により「えちごトキめき鉄道(トキ鉄)」の社長に就任しますが,就任時点でトキ鉄には直江津駅を中心とする鉄道への強い意識づけと,地元の食材・飲食店による料理が出て,沿線の応援を大きく受ける「雪月花」というリゾート列車が存在しており,訪日外国人観光客(インバウンド)も含めて大いに賑わっていました.

しかし,2020年にはインバウンドが完全消滅していたところ,日本人の多くが年に数回も旅行することに目をつけ,地元の方にも広く利用できるよう「夜行列車」などの企画を実施しました.この「夜行列車」は直江津駅を出て直江津駅に到着するというものですが,それでも親子連れを中心に人気を博しました.「雪月花」にも地元住民向けに安く乗せ,時世上遠距離で実施できなくなった「修学旅行」でも使用したとのことです.

そして,直江津駅に転車台があることに目をつけ空気で動く「D51」を誘致,テーマパーク化して夜間に開館するということも行いました.さらに413系も導入,資金集めのために「四五五神社」を設置して約200万円の獲得に成功,そして「笹寿司」「釜飯」「スイーツ」「線路の石で焼いた焼き芋」が集まってきました.

また,沿線の定期考査の際には車両を増結したり,直江津駅には自習室を設置するなど,長い目で見た「インフラ投資」を実施,「誰のおかげで立派に成長したんだ」という意気込みでなされています.

昨今発表されたJRの赤字については,例えばいすみ鉄道と同等距離の「久留里線」の赤字額がいすみ鉄道の約10倍になっているところ,その赤字額に懐疑的に捉えられていること,山陽・山陰地方に目を向けると中国運輸局に鉄道・交通愛のある方がいらっしゃること,今活用施策を実施することが重要であること,鉄道には夢と希望を乗せていると豪語されて,講演が終了しました.

 

  思ったこと

鳥塚氏の各施策には順番があり,「地元の意識を高める」「女性を集める」「男性を集める」「地域の強みを活かす」「長い目で見て投資する」ということがはっきりとわかります.こと,芸備・木次線ではJRが運営していることから必ずしも全て鳥塚氏のような施策は行えないものの,地元で協力することからまずは始めるということになると思います.筆者としては,これが「ローカル線の維持」でなくても「全国的・世界的な注目度を高める」という点では同様であり,例えば周防大島でも似たようなスキームで地域活性化につながることができるのではないのかと思うようになりました.具体的なアイデアを当ブログで明かすことはしませんが,もはやローカル線問題は筆者にとっても,鉄道がない・なくなった地域を含む全ての地方にとっても人ごとではなくなったと思うようになりました.

 

もちろんこのイベントもそうなのですが,芸備線・木次線沿線でも活用施策は多数行われており,その後のパネルディスカッションで発表されました.ただし,この記事に書くには文字数が多くなったため,次の記事に回そうと思います.

 

なお,「ウィル西城」にはこのイベントに合わせて,鉄道模型のジオラマも展示されていました.

 

当然ですが,筆者はこのイベントに芸備線(+無料の連絡バス)を正規料金で利用して訪問しており,このイベントの趣旨に合わせた行動を,スケジュールを調整して11/28まで行っており,記事公開時点で周防大島に帰着しています.今後順次公開する予定です.順序としては「このイベントのパネルディスカッション」→「その後の行動」→「WE銀河編」→その他の記事の予定です.ただし,「ニュース」や「模型新製品」が優先となります.

また,この旅行に関する記事は「【特集】奥出雲おろち号(2021/4実施)」を「【特集】芸備線・木次線」に変更して追加でまとめる予定です.今後の芸備線・木次線に関する旅行・鉄道模型記事は当面の間この特集記事とする予定です.

 

※11/29に,ブログ全体の構成の関係で下線部を変更しました.

 

続く

 

  クハ455・キハ28の今

鳥塚社長が仕掛けた2両の「急行用車両」は2022年11月現在,両方が岐路に立たされています.この機会に紹介することとします.

クハ455-701

  • トキ鉄のクハ455-701を使用した資金集めは当初の見込みを超えており,延命のための重要部検査を実施することを検討できるほどになりました.11/28より,その費用の残り500万円をクラウドファウンディングで募集することになりました.リターンとして,グッズ・きっぷ・芳名掲載・専用イベントの参加権が用意されています.
  • トキ鉄の413系は2023/1/4以降をもって休車・1/3をもってしばらく運休となります.検査時期をずらして夏休みに稼ぐとの算段でありますが,上述のクラウドファンディングが成立した場合はこの期間に重要部検査を,トキ鉄自社の設備で実施するとのことです.

キハ28 2346

  • いすみ鉄道のキハ28を延命するにはいすみ鉄道の年間運賃収入を超える費用がかかることが判明したため,11/27をもって,惜しまれながら準定期運転から引退しました.今後は2023/2月初旬まで臨時運行がなされる予定です.
  • こちらは保存費用・3Dデジタルデータ化の費用280万円をクラウドファウンディングで募集しています.リターンとして,グッズ・きっぷ・イベントの参加権などが用意されています.
それぞれのクランドファウンディングは以下のサイトで募集しています.
(リンク切れにご注意ください)
 

クラウドファウンディングに応じた募集額を見るにつけ,どちらの施策が支持されているかというのは自ずとよくわかる,というものです.

 

追記:今回のトキ鉄での検査費用募集対象では「クハ455-701」のみに言及されていることに注意します.「クモハ413・モハ412-6」についても,検査できなければもちろん運行できないですし,2024年春以降は松任工場の機能の関係で検査できなくなるためトキ鉄自身での検査を検討する,さらに費用がかかるということは容易に想像できます.ただし,今回のクハ455の検査を行う場合,413系についても方向幕の更新が行われる予定と思われ,実際にクラウドファウンディングのリターンに「413系を含む使用済み方向幕」が含まれます.

 

11/29追記:

「クハ455-701」のクラウドファンディングは成功しました.おめでとうございます.筆者も協力しましたので,後日詳しく書こうと思います.