WALKING MAN ウォーキング・マン(ネタバレ) | 三角絞めでつかまえて2

WALKING MAN ウォーキング・マン(ネタバレ)

WALKING MAN ウォーキング・マン



2019/日本 上映時間95分
監督・主題歌:ANARCHY
脚本:梶原阿貴
企画・プロデュース:高橋ツトム
プロデューサー:宇田充
出演:野村周平、優希美青、柏原収史、伊藤ゆみ、冨樫真、星田英利、渡辺真起子、石橋蓮司、T-Pablow、WILYWNKA、Leon Fanourakis、サイプレス上野、十影、じょう、LETY
パンフレット:★★★(800円/関係者インタビューと磯部涼さんによるコラムが映画の補完に役立ちます)
(あらすじ)
川崎の工業地帯で母と思春期の妹ウランと暮らすアトム。極貧の母子家庭の家に育ち、幼い頃から人前で話すことも笑うことも苦手なアトムは不用品回収業のアルバイトで生計を立てる毎日を送っていた。ある日、母が事故により重病を負ってしまうが、一家は家計が苦しく保険料を滞納していた。ソーシャルワーカーからアトムたちに投げつけられる心ない言葉。そんな過酷な日常の中、アトムが偶然出会ったのがラップだった。(以上、映画.comより)

予告編はこんな感じ↓




85点


どこかの劇場でボンヤリと本作のチラシを見た時、「どうせよくある“若者が音楽で自己確立する話”なのだろうよ ( ´_ゝ`) シタリガオ」と思って。そりゃあ、実際に観てみればそれなりには面白いんだろうけど、基本的には積極的に観るジャンルの映画ではないので、あまり気にしていなかったんですが…。先日、タマフルミステリーメンのユーフォニア・ノビリッシマさんから本作を推す熱い(熱い)メールが届きましてね。まぁ、今年は「春のマン祭り」なんてのも実施したし、さらには10月18日放送の「ムービーウォッチメン」のリスナーカプセルに選ばれた(メールを送ったのはユーフォニア・ノビリッシマさん!)→今年もリスナーカプセルに入った作品を鑑賞しているので、急遽観ることに決定。10月21日(月)、仕事帰りにMOVIX昭島で観てきました(その後、「クロール 凶暴領域」をハシゴ)。「コレダ!(;`∀´)」とカタカナで思ったり。


10番スクリーン、観客は8人ぐらいだったような。



まず、劇中の時系列を無視しながら超大雑把にあらすじを書いておくと、主人公は川崎の工業地帯で不要品回収業のアルバイトをしているアトム(野村周平)。吃音症のせいなのかかなり内向的な青年で、母親(冨樫真)と妹のウラン(優希美青)の3人で貧乏なアパート暮らしをしていたんですが、母親が事故で意識不明になってしまったから、さぁ大変! いろいろと出費がかさむ上に、ソーシャルワーカーからはイヤミを飛ばされるわ、妹のウランは万引きして捕まるわ、さらに風俗で働き始めるわと、踏んだり蹴ったりなエブリデイですよ。ところが、遺品整理に行ったのがラッパーの家だった→そこでラップと出会って、ウォークマンとシューズを勝手にゲット。交通調査のバイトをやりながら数取器を押していたら、それがリズムとなって、「ラップをしている時はどもらない」ことに気づくと、ラッパーとして開眼!Σ(°д° ) クワッ! MCバトルでケチョンケチョンにされたり、淡い恋心を抱いた人(伊藤ゆみ)がバイト先の先輩(柏原収史)とセックスしているのを目撃して傷心したり、妹が勤務する風俗店の関係者(半グレ?)にボコボコにされたりしながらも、反抗的だった妹と何とか心が通じ合いまして 川´∀`)(´∀`) ナカヨシ 自分の曲を完成させると数取器を海に捨てて、1年後にはステージに立っていたのでしたーー。


ラストのライブシーンのメイキング動画を貼っておきますね↓




正直なところ、まさかこういう映画だとは思わなかったというか。「WALKING MAN」なんてタイトルだからさ、「右足さん、よろしくね!(・∀・)」「左足さん、頑張ろうね!(o^-')b」「歩けば大きく強くなる!ヽ(`Д´)ノ ウォォォォッ!」といった健康志向の男の話かと思いきや、お金がないから免許も自転車もなくて歩くしかない若者の話だったから、すっかり「すみません (´Д`;)」という気持ち。もうね、昨年の新作映画ベストに入れた「パティ・ケイク$」など、ラッパーの映画に貧困は付きものなワケですけど、本作はさらに主人公を突出した才能がない内向的な青年にしたのがスゲー良かったなぁと。

要は、僕が観てきた「ラッパーが主人公の映画」って、最初から「ラップが大好き」だし、「ラップをする歓び」も知っているし、そもそもが「すでにそれなりに上手い」(素人目から見れば)って感じなんですよ。だから、どれだけ面白くてもどこかで「まぁ、そういう才能がある人の話だよな」感がなくはなかったんですが、しかし。本作の主人公は吃音症で話すことが苦手だわ、音楽自体あまり聞いたことないわ、やっとひねり出したリリックも思いついたことを話しているだけでラップとしてはアレだわと、「この人はラッパーになれるの?(・ω・;)」と心配させられるから新しいなぁと。でも、それ故に彼の怒りから生まれる「拙いけどストレートな言葉」は胸に刺さったし、今まで観た音楽映画の中でも一番「自分に近い物語」って感じがして、かなり感情移入して観ちゃったというね。


主人公アトムを演じた野村周平さん、最高でしたな。ANARCHY監督とは友人なんだとか。


この数取器を使ってリズムを作るシーンは本作の白眉でしたよ。


アトムがラップを修得する四苦八苦を観た時の僕は、すっかりチャック・ルイス気分だったり(「餓狼伝」より)。



もうね、優希美青さん演じる妹のウランがまた良くて。アトムへのアタリがなかなかハードヒットなので(僕だったら即シクシクと泣くレベル)、さすがにイラッとしたりもするんですが、でも、昔より他者との比較が容易に可視化できるようになった現在、あの「同級生と同じことができない」ってのは相当キツいよなぁと(しかも「みんなとディズニーランドに行きたい」程度の願望だしさぁ…)。そういう「貧困に対する感情描写」がリアルに感じられましたよ。あと、さすがに「無理解で嫌な人たち」の描き方がカリカチュアされている感じはしましたけど(僕が警官だった90年代だって、あんな非道い発言をする人がいたら問題になると思うんですが…)、とは言え、なんでも「自己責任」だとか「努力が足らない」なんて言葉で社会的弱者を足蹴にするような風潮に「NO!m9`Д´) ビシッ」を叩きつける内容は非常に好みでした。僕はあそこまで酷い貧困家庭で育ったワケではないけど、「それなりの生活」をしてきた人には想像できないほど「お金がない暮らし」ってのは大変で心に余裕がないんですよね。


ウランの態度を諫めるのは簡単だけど、10代の子が自らの不遇な環境に苛立つのも仕方ないのです。


この警官描写はどうかと思いましたが、でも、もしかするとこういうバカもいるのかもしれませんな…。



まぁ、「配られたカードで勝負するっきゃないのさ」なんてスヌーピーの名言があって。そりゃそんなことは誰でも分かっているから本作だってMCバトルで主人公が自らの不遇を嘆いたら相手にキッチリ言い負かされる展開がちゃんとあったりするワケですけれども。例えば、どう考えたって恵まれた環境で育ってきたメンタリストDaigoみたいな奴に「努力不足を不公平のせいにするのは、庶民ではなくただの怠け者だ」なんてツイートをされると、さすがに「最初からロイヤル・ストレート・フラッシュが揃ってた奴が知った風な口を叩くなよ ( ゚д゚)」と反発しちゃうのが人情じゃないですか(もし社会実験の1つとしての発言だったとしてもバカじゃないかと思う)。だから、そういう意味でこの映画はANARCHYさんが監督だからこそ説得力がある作品になったような気がしないでもないように思わないでもないな…(突然、弱腰な文章)。

何はともあれ、本作って結局のところ、主人公サイドの「社会的状況」自体はあまり変わってないと思うんですけど(映画のラスト、アトムはステージに立てたものの、「金銭的に成功した」ワケではないだろうし)、ハッピーエンドであることは間違いなくて。たぶん「弱者が生きるための武器」は「大切な人たちと理解し合うこと」と「好きなものを見つけること」、そして何よりも「自分の感情を吐き出す言葉を持つこと」なんだろうな、なんて思ったりしてね(僕はラップはしてませんが、いろいろと吐き出せるこのブログにずいぶん救われております)。鑑賞後、ついアルバム(not サントラ)を購入して、近ごろは主題歌「WALKING MAN」を中心に聴きまくっているのでした。その他、良かったところを書くと、出演したラッパーたちはみんなカッコ良かったし、柏原収史さんの「人生に疲れながらも前向きに生きる中年」演技は素晴らしかったし、「お前んちが貧乏なのも、お前のしゃべり方も、お前のせいじゃないからな。でも、お前がラップをやんのは、お前の責任だ」は良い台詞でしたねぇ…(しみじみ)。


柏原収史さん、久しぶりに観たけど、良い役者さんですな。



ということで聴いてください、ANARCHYで「WALKING MAN」(なんとなくラジオパーソナリティ風に)




な〜んてベタ褒め状態ですが、僕に本作をオススメしてきたノビリッシマさんがDMで「色々と『粗』がある作品」とか「色々と粗も目についた事と思いますが」などと、推薦する割には申し訳なさそうな文章を書いてきたのがスムースに理解できたというか。ハッキリ言って、映画として気になるところもスゲーありました。まぁ、「画面を三分割にした意図は?」とか「MCバトルへの興味が唐突では?」とか「キムさんが顔を近づけた時の唐突なスロー演出の意味は?」とか「アパートのすぐ側でカーセックスをする理由は?」とかとか細かいところはスルーするとしても、作中のリアリティを削ぐ要素がいくつかあって。

僕的には、石橋蓮司さんが演じる「中国料理・大三元」の店長絡みのシーンが軒並み微妙でした。特に都合良く100万円をゲットするくだりは笑ったけど「なんだそれ」とも思ったし、その奥さん役をバイト先の上司と同じ渡辺真起子さんが演じているのを弄ったりされるとフィクションラインが他のシーンと違うように感じられて、かなり冷めたんですよね…(あの場面だけは、アトムじゃなく野村周平さんに見えた)。それと、半グレ(?)役で石垣佑磨さんが出てたのは好きな俳優さんだからうれしかったけど、キャラが大仰でこれもまた世界観に合ってなかったなぁと。あと、最後の「1年後のライブ」シーンもカッコ良かったものの、他の登場人物たちの描写はもっとサラッと流していいから、“現在のアトム”の周辺事情を補強してほしかった…ってのは僕の好みの話。


石垣佑磨さんはアクションもできるし好きなんだけど、本作のこの役はなぁ…。



以上、雑な文句も書いちゃいましたが、「肩にゲロ」とか良いシーンも一杯あるし、川崎の工業地帯や京急が映るのも好きだし…。なんて言うんですかね、内容は全然違うんですけど、今年観た「ブラック・クランズマン」のように「監督の熱い(熱い))想い」がビンビン伝わってきて、僕的には超ストライクな作品でしたヨ (°∀°)b ヨカッタ! もうね、興味がある人にはぜひ観に行ってほしいけど、もしイマイチに感じてもそれはこんなブログを鵜呑みにしたあなたの自己責任…なんて、いやらしい文章を唐突に書いて、この感想文を終えようと思います。




デジタル盤のコンセプトアルバム…なのかな。CD盤もあります。「PROMISE」が入っていないのは超残念。



昨年のベスト4位に選んだラッパー映画。僕の感想はこんな感じ



昨年、ノビリッシマさんに勧められた青春映画。吃音×歌という共通点があるのです。僕の感想はこんな感じ



地方のラッパーを描いた入江悠監督作。やっぱり「1」が一番好きだな。