ゲッベルスと私(ネタバレ) | 三角絞めでつかまえて2

ゲッベルスと私(ネタバレ)

ゲッベルスと私



原題:A German Life
2016/オーストリア 上映時間113分
監督:クリスティアン・クレーネス、オーラフ・S・ミュラー、ローラント・シュロットホーファー、フロリアン・バイゲンザマー
脚本:フロリアン・バイゲンザマー
出演:ブルンヒルデ・ポムゼル
パンフレット:★★★★★(700円/コラム、インタビュー、アーカイブ説明など、100点の作り。観た人は買うべし)
(解説)
ナチス政権の国民啓蒙・宣伝相ヨーゼフ・ゲッベルスの秘書を務めたブルンヒルデ・ポムゼルが、終戦から69年の沈黙を破り、撮影当時103歳にして初めてインタビューに応じたドキュメンタリー。1942年から終戦までの3年間、ゲッベルスの秘書としてナチス宣伝省で働いたポムゼルは、「あの時代にナチスに反旗を翻せた人はいない」と話す一方で、「ホロコーストについては知らなかった」と語る。近代史最大の戦争犯罪者のひとりであるゲッベルスに誰よりも近づいた彼女の30時間に及ぶ独白を通し、20世紀最大の戦争における人道の危機や抑圧された全体主義下のドイツ、恐怖とともにその時代を生きた人々の姿を浮かび上がらせていく。(以上、映画.comより)

予告編はこんな感じ↓




103歳


最初はそれほど観る気なかったんですけど、確かシネマート新宿「犯罪都市」を観た時に本作の前売り券が売られているのを見て気になっちゃって(※ミニシアター系では「他館前売り券」として、他の劇場で上映中の作品の前売り券が売られている)、つい買っちゃいましてね。7月下旬、横浜で「横浜見聞伝スター☆ジャン Episode:Final」を観てから、神保町の岩波ホールで鑑賞しました(その後、新宿で「ローライフ」を観た)。恐ろしくヘビーでしたよ… ('A`) ゲンナリ


劇場には記事の切り抜きが貼ってあったんですが…。


その横には「衝撃的な記録映像が流れます」なんてプレートが (・∀・) キニナルー


あと、監督ユニット「ブラックボックス・フィルム&メディアプロダクション」の説明書きもありましたよ。



「岩波ホール創立50周年記念作品」の1本である本作は、「子どもたちのための家庭教師として雇ったブルンヒルデが型破りな女性であり、お屋敷でてんやわんやの大騒動を巻き起こすものの、彼女と触れ合ううちに、ゲッベルスの中で新しいプロパガンダのアイディアが次々と浮かんでーー?といったハートフルコメディではなく(不要な書き出し)。1911年にベルリンで生まれたブルンヒルデ・ポムゼルが、自身の青春時代から「プロパガンダの天才」と称されるナチス・ドイツの宣伝大臣ヨーゼフ・ゲッベルスの下で働いた過去を語ると同時に、当時のニュースや記録映像などが挿入されていく…というドキュメンタリーでして。


ゲッベルスの有名な演説シーンを貼っておきますね↓




過去を語りながら、時には自分を正当化するブルンヒルデについて、「あのナチス・ドイツに加担してたなんて!(`Δ´) クソガ!と糾弾するのは超簡単ですが、ちゃんと話を聞いてみれば、決して他人事ではないムードがムンムンな感じ。支持してたワケではないけれど、仕事が少なくなってきた時に恋人から紹介されたのが「作家(ナチ党員)のタイピング」であり、その縁から当時政権を手にした国民社会主義ドイツ労働党の党員となって、結果、宣伝省で働くことになったのは単純に「生活のため」であって。こういうのって自分でもありそうだよなぁと。僕も「自分が認めてもらえる職場」な上に「大金が稼げる」なら、主義主張が違う仕事でも「それはそれ!m9`Д´) ビシッ」として熱心に働きそうな気がするものね…。


ブルンヒルデ、その話しぶりから「頭が良い人なんだろうな」と思ったり。



反ナチス活動をして処刑されたショル兄妹について「あんなビラをまいたからだわ」とか、同性愛者のアナウンサーが強制収容所に送られた時に「納得がいかなかった」割には何もしなかったりとか、仲が良かったユダヤ人の友人エヴァが窮地に陥った時も助けなかったりとか、「これは非道いなぁ (`Δ´;) ウーン」と思うところはあって。彼女は「ホロコーストは知らなかった」「ユダヤ人はズデーテン地方に移されたと信じてた」なんて語るけど、さすがに宣伝省に勤めていた人間が知らないハズはないんじゃないか。ただ、そうやって“見て見ぬフリ”をするのが一番「安全でラク」なように感じた“当時の社会の状況”も想像に難くなくて。彼女が主張するように、残念ながら「僕がその場にいたら、命を賭けて虐殺からユダヤ人を助けようとした!ヽ(`Д´)ノ」とはまったく思えなかった。鑑賞中、なんとなく「サウルの息子」を撮ったネメシュ・ラースロー監督による短編「With A Little Patience(ちょっとのガマン)」を思い出したりした次第。


連想した短編↓ 「志誠館の片岡輝夫の名言」を映像化したものではないです(不要な文章)。




本作を作ったのは、4人の監督によるドキュメンタリープロダクション「ブラックボックス・フィルム&メディアプロダクション」であり、マスコミを嫌っていたブルンヒルデを1年以上かけて説得して(一時、バッシングされたらしい)、「インタビュー映像には何も説明を付けず、当時のアーカイブ映像を挿入するだけ」という条件で取材したそうで。彼女の証言内容がとにかくキツい上に、ロビーにあった「衝撃的な記録映像が流れます」という注意書きの通り、驚くほど無惨な人間の死体が容赦なく流れまくるので、とにかく「重い」としか言いようがないんですが、しかし。その「重さ」がいい。「全編モノクロかつ背景がブラック状態」で観るブルンヒルデは“皺”の質感が凄まじくて、まさに年輪を重ねた樹木のようなんですが、“彼女の人生の重さ”、そして“数多くの失われた人生の重さ”も感じられた…というのは気のせいでしょうか。


彼女の“皺”には何とも言えない説得力がありましたよ。


でも、「セレベストなら愛でそうだな」なんて不要なことが脳裏をよぎった僕もいたというね(「セレベスト織田信長」より)。


記録映像やらプロパガンダ映像やらも挿入されるんですけど、無惨な死体もバンバン流れてキツかったです。



一応、オチを書いておくと、最後は「ユダヤ人の友人エヴァが強制収容所で亡くなっていたこと」が明らかになって終わってた気がします、たぶん。ハッキリ言って、別に好きな作品ではないんですが、とても大事なことを記録した映画だと思うのでね、ブルンヒルデは2017年に106歳で亡くなったそうですけど、本作の評価は彼女の撮影当時の年齢である103歳(よくわからない基準)。ちょっと社会派ライクな文章を書いてみると、わざわざ終戦記念日にこの感想をアップしたのは「日本にも通じる普遍的な問題」を扱った作品だからだし、今の日本と照らし合わせると「ウソをつく政治家や文書改竄をしたお役人たちはこんな気持ちで自分を正当化してるんだろうな」なんてことも思いましたが、それ以上に自分自身の“見て見ぬフリ”について考えさせられるのでね、機会があったらぜひ観てみてくださいな。おしまい。




映画の公開と並行して刊行された書籍。半ユダヤ人の恋人の話が書かれているそうな。



ふと思い出したトラウドゥル・ユンゲの回想録。「ヒトラー 最期の12日間」のベースになっております。



クロード・ランズマン監督によるホロコーストの"記憶"を"記録"したドキュメンタリー。観ておかないとなぁ…。



ハードでヘビーなホロコースト関連作品。僕の感想はこんな感じ



2013年に岩波ホールで観たナチス絡み映画。僕の感想はこんな感じ