薄氷の殺人(ネタバレ) | 三角絞めでつかまえて2

薄氷の殺人(ネタバレ)

薄氷の殺人※ムービーウォッチメンのリンクを追加しました(3/3)

薄氷の殺人

原題:白日焰火/Black Coal, Thin Ice
2014/中国、香港 上映時間106分
監督・脚本:ディアオ・イーナン
製作:ヴィヴィアン・チュイ、ワン・チュアン
共同製作:シェン・ヤン
出演:リャオ・ファン、グイ・ルンメイ、ワン・シュエピン、ワン・ジンチュン、ユー・アイレイ
パンフレット:★★★(700円/監督インタビューが良かったです)
(あらすじ)
1999年、中国の華北地方。ひとりの男の切断された死体が、6つの都市にまたがる15カ所の石炭工場で次々と発見されるという事件が発生。刑事のジャンが捜査を担当するが、容疑者の兄弟が逮捕時に抵抗して射殺されてしまい、真相は闇の中に葬られてしまう。それから5年、警察を辞め、しがない警備員として暮らしていたジャン(リャオ・ファン)は、警察が5年前と似た手口の事件を追っていると知り、独自に調査を開始。被害者はいずれも若く美しいウー(グイ・ルンメイ)という未亡人と親密な関係にあり、ジャンもまたウーにひかれていくが……。(以上、映画.comより)

予告編はこんな感じ↓




82点


※この映画は、ネタバレを知らない方が絶対面白いと思うんですが、独特な雰囲気の作品でもあるので、「ニコラス・ウィンディング・レフン監督&北野武監督作風味で、説明台詞とかは一切ないけど、それなりにはわかりやすいサスペンス」と聞いて興味が湧いた方は、こんな駄文を読まないで劇場に行って!
※今回の記事は、「第三の男」のネタバレに触れているので、知りたくない人は読まないで! というか、未見の人は観て!
※今回の記事は、ウソを書いても投げっぱなしなので、気を付けて読んで!
※というか、今回の記事は、非常に読みにくくてくだらないので、読まなくて良いと思いますよ…。
※こんな記事よりも宇多丸師匠の素敵な時評を聴いてみてくださいな(3/3)


晴れた冬の午後、新宿武蔵野館にいた。この日の昼に大きな仕事がひと段落し、午後が空く予定だったので、前から一気に映画を観ようと予定していたのだ。手元には同劇場で公開中の映画の前売り券が三枚。受付で入場券と引き換えると、どの作品も2番劇場だったのは偶然だが、なんとなくおかしかった。

昨年、購入した前売り券3枚。
前売り券3枚

入場券と引き換えると、どれも2番劇場。3作品とも同じ席で観た。
入場券3枚

「激戦 ハート・オブ・ファイト」で約110分間も延々と泣かされ、「REC/レック4 ワールドエンド」に軽く失望した後、迎えた「薄氷の殺人」。愛聴しているラジオ番組で取り上げるから観に来た、というわけではなく。“いくつかの賞を受賞した香港ノワール”というから、興味があったのだ。ウワサによると、ニコラス・ウィンディング・レフン監督や北野武監督の作品を思わせる映画だという。どうせ気取った映画なのだろう、と高を括っていたのだが……。これが非常に味わい深い作品であった。

劇場に入ると、記事の切り抜きがあって…。
記事の切り抜き

こんなポスター展示も。公開から少し経ったせいなのかもしれないが、寂しい規模ではある。
こんな展示

最初に、簡単なあらすじを書いておく。1999年、バラバラ殺人事件が発生し、身分証明書から被害者はリアン・ジージュンと判明。遺体の各部分はなぜか何十キロも離れたさまざまな場所で見つかっており、複数犯の仕業と思われていた。妻と離婚したばかりのジャン刑事が捜査するが、重要参考人の事情聴取中に激しい抵抗に遭い、仲間は殉職し、ジャン自身も負傷。事件の真相はわからなくなってしまう。

1999年のジャン。2004年になると太っていて、ちゃんと時の流れを感じさせるのは偉い。
ジャン(リャオ・ファン)

演じたリャオ・ファンは豊川悦司とラム・シューのミッシングリンクなのだろうか…。
似ているような気がする3人

時は過ぎて、2004年。警察を退職して生き甲斐を失ったジャンは、警備員として働くも酒浸りの日々を送っていたが、偶然、昔の刑事仲間ワンと再会。バラバラ殺人が再度発生し、1999年の事件の被害者の妻であるウーが関係者だということを知ると、独自の捜査に乗り出すのだが、ジャンは次第にウーに惹かれていく。

今作のファム・ファタールであるウーはスタイルの良い巨乳未亡人。ピッタリしたセーターを着るのは犯罪だ。
ウー(グイ・ルンメイ)

ワン刑事が殉職するも、ジャンは手掛かりを元に死んだはずのリアンが生きていることを突き止める。ウーから事情を聞くと、「1999年のバラバラ死体はリアンが強盗をする際に殺害した相手であり、犯行を隠すために自分が死んだことにした」という。それ以来、リアンは陰ながら妻につきまとい、彼女に言い寄る男たちを殺害していたのだった。ウーの助力を得て警察が包囲すると、リアンは逃走を図るも射殺されてしまった。

1999年のウーが泣く場面。ウソ泣きにも見えるように演出していたのは、そういうことだったのか。
夫が死んで泣く妻

「何十キロも離れた場所に肉片が運ばれていたのは、遠方に行くトラックや列車の荷台に落としていた」という手口。
犯行の手口

生きていた夫リアンだったが、最終的には妻に売られてしまい、射殺されるのだった。
生きていた夫

これで事件は解決したかと思われたが、何か釈然としないジャンが独自の捜査を続けると、「本当はクリーニング店でのトラブルで強請られたウーが発作的に相手を刺殺し、彼女の罪を隠すためにリアンが自分の死を偽装した」ことが発覚。事件は無事解決して、警察の現場検証に立ち会うウーだったが、その時、何者かによって大量の花火が延々と上がり続けて、ウーはなぜか笑みを浮かべたのだったーー。

最後に上がる“白昼の花火”。
白昼の花火

さて、映画の感想だが、監督がパンフレットのインタビューで「参考にした」と語っていたように、最も想起させられたのは「第三の男」ヒロインの夫が逃げる場面や、観覧車など“それとわかるシーン”があるし、「死んだはずの男が生きていた」という展開もそのままだ。未見なのでわからないが、同じく引き合いに出していた「マルタの鷹」のオマージュもあるのかもしれない。「1999年の夏」から「2004年の冬」に移る「トンネルを抜けると雪国」の場面は川端康成の「雪国」にヒントを得て撮影したそうだが、非常にユニークなシーンだった。

「第三の男」と言えば、水前寺清子の名前の由来となった楽器チターを使ったテーマソングが有名(「甘えんじゃねえよ!」より)。
水前寺清子の愛称の由来

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」の場面。
トンネルを抜けると雪国でした

その他、凝った構図に極彩色の色彩設計、登場人物たちの台詞の少なさ、突発的に暴力が始まるくだりなど、確かにレフン監督作や北野監督作も思い出したが…。この映画が素晴らしいのは、しっかりとオリジナリティが加わっている点だ。寒々しい雪景色と漆黒の闇のコントラスト、黄色い照明に閑散とした街並み、派手だがどことなく寂しいネオンサインなどが織りなす風景が幻想的であり、中国の単なる地方都市を異世界のように見せたのは見事。

「貧富の格差」といった現代中国の社会事情が盛り込まれている……というのは、うっすらと気付いた程度なのだが(苦笑)、白眉だったのが序盤の銃撃戦。独特な色合いの空間の中で、突発的に始まる暴力の恐怖、簡単に人が死ぬ無常感、「主人公が拳銃を取り出す際にカバーをなかなか外せない」というリアルさなどを、ワンカットで撮った最高の名場面なのだが、そのキッカケとなる「容疑者の上着を調べていなかった」という杜撰さもまた「中国警察ならありそう」で面白い。警察絡みでは、「1999年の時点でDNA捜査が実施されていなかった」というのも興味深かった。

この映画は、謎解き要素よりもこの雑な事情聴取から始まる銃撃戦のネタバレを知らないで観てほしい。
雑な事情聴取

「ミステリー」として考えると疑問は多い。例えば、いくらDNA捜査がなかったにせよ、他の手段で身元を調べるのでは? 各地にバラバラ死体を運ぶ手口も難しくはない。現場に出入りするトラックの共通点を探していけば、自然と辿り着いたのではないだろうか。重要参考人が死んだことで捜査中止となったのかもしれないが…。あんな田舎の地方都市で“実は生きている夫”が5年も目撃されないのも無理があるし、謎解き部分に関しては“よく出来た作品”とは言い難いだろう。その他、「クリーニング店店主が売春婦にコスプレをさせる」くだりも意味不明だったが、あれも“格差”ということなのだろうか。

クリーニング店店主を演じたのはワン・ジンチェン。良い演技だった。
イヤなクリーニング店店主

ただ、門外漢ながらも“ノワール映画”として捉えるなら、中国の地方都市を幻想的に描いた今作は素晴らしいのひと言。好き嫌いが分かれる作風だが、筆者に関して言えば、見終わった後の余韻が今も心を占めているほどであり、いろいろなことを考えさせられる…ということで! ここから当ブログ初のマルチ感想システム(MKS)を実施しようと思います。この映画を観た僕がつい考えてしまうことは、下記の3つ↓


① ジャンは何を考えて行動していたのだろう…
② 最後にウーが笑みを浮かべたのはなぜだろう…
③ お粥と肉まんが食べたい…



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