小川凛 「カマキリ」 -4ページ目

第45話 不協和音

あの…僕らの
長い長い一日は

まだ始まった
ばかりだった…。



こいつをただ殺すだけなら
わざわざこんな苦労をする必要もなかったと思う。
例えば、マイオトロンで神経を麻痺させ、体の自由を奪ったら、もうすぐに首を切るか胸を刺す

ただ殺すだけなら
それだけで良かった。

けれど、この男には、凛に対して犯した罪を
あの罪を十分に償ってもらわなくてはならない

そのためには、ちょっとの時間我慢してやり過ごせば解放されてしまうような
すぐに終わる簡単な死では

ナマぬるかった。


とは言え普通に考えたら
今日一日で、こいつ以外にも、もう一人やんなきゃなんないわけだし…
それに自殺のアリバイ工作もしなきゃならないから、
たらたらやってたら
時間はまるで足りない

なので
こいつをサクッと殺し
それから自殺のアリバイ作りをし、それが終わったら
教師の家に移動して、教師を殺害し
そのまま教師の家に居座り
僕の最期を其処でふたりで迎え入れる

ってのが一番簡単な考え方だったのかもしれない。


けれど実は、そこには
いくつかの問題(落し穴)があった。


ひとつは
次の標的が
「教師である」という事だった、
相手が仕事をしている以上。
僕らがこのまま此処を出て午前中の早い時間に
家に行ったところで
金曜日の午前中に教師が自宅にいるはずなど
まずないのだ

夜…少なくとも夕方以降にならない事には
あの教師は家に帰ってこない。


ふたつ目は、僕の残りの時間を過ごす…
すなわちしばらく潜伏する場所を
教師の自宅にするのは少々危険すぎるという事だった。

定職についていないこの男に比べ
教師には仕事もあれば職場もある
土日だけならまだしも

月曜日に教師が職場に現われなければ
誰だって不審に思うに違いない
最悪自宅に誰かが来てしまう可能性だって十分にある。

そしたらこの計画はかなりの高い確率で頓挫してしまうだろう

それらの問題点などを踏まえ、僕らは
相手の生活のリズムや場所的な事もあり
拘束する順番はこっちが先だが
二人の殺す順番は
逆にする事にした。


実はたったそれだけの事で
計画の成功率は飛躍的にアップした。


潜伏場所は絶対に、こっちの方がいい


しばらく観察を続けてきてわかった事だが
この男の生活パターンや行動を見る限り、恋人や家族や同居人等は身近な所にはいる様子はない
そして定職にもついていないと考えてまず間違いないだろう。
となると、外界との接触は殆ど皆無と言っていいハズだ。

それなら
こいつがしばらくいなくなったり連絡が取れなくなったところで
疑問に思う人間や
しつこく連絡をしてくる人間は、ほぼいないだろう。

と言う事は
この場所に僕らがずっと居座ったとしても誰にも気付かれたりしない事になる

安全面なども含め
二人で長くいる場所としたら
ここはあらゆる意味で理想的だった。


なのでまずはこいつを拘束し
身動きをとれなくしたら
そのまま放置して
今日はしばらくここにいて
頃合を見て
それから次の行動に移す。

というコトにした。


これからの僕達の計画を簡単に説明すると、
まぁそんな感じだった。

ということで
これからの僕らには
多少の時間の余裕が出来てしまった。
余裕というか…午前中の今は何も出来ないし
むしろしない方がいい。

という時間が生まれてしまった。

今から思うと
その余裕がマズかった

こういうのを「慢心」と呼ぶのだろうか?

自分は何もしていないくせに
最初の計画が思った以上に簡単に、うまく終わった事からか…
僕の心の中に多少の弛みが生まれたのは
もしかしたらこの時だったのかもしれない…

さっきまでの僕は、いい意味でも悪い意味でも緊張していた。

しかしこの時には、その緊張の糸が
だらんと弛んでしまっていたように思う。


というか、ぶっちゃけ期待外れ、というか
若干拍子抜けしていた。


「人を拘束したり拉致するなんて、絶対もっとてこずるかと思ったのに
意外と簡単に成功するもんなんだな…」

なんて…
この時の僕は
これからも含め
朝からこれまでの事をそんな風に舐めきってしまっていた。


と、その時、そんな僕の心の中を知ってか知らずか

突然凛が僕に向かい口を開いた。


「危なかったね…次はもっと上手にやらなきゃ…」

そんな、僕が感じた、把握している状況とは真逆な事をわざわざ凛が言うから
僕は完全にその言葉を冗談だと思い込んでしまって
ニヤニヤふざけながら、軽い口調で、その言葉にこう応えた


「フフフ…そうだね。
もっと気をつけなきゃダメだね(笑)
そうだ!なんなら次は
僕が行こうか?」


すると凛は真剣な顔でこっちを睨み付けながら


「何言ってんの?今回は鍵が開いてて、しかも相手が寝てたから、たまたまうまくいっただけだよ?
これって偶然っていうか…奇跡だよ?
次は鍵も閉まってて相手も当然起きてて、しかも体育の教師をやってる大人の男を相手にしなきゃなんないんだよ?
一応、策があるとは言え
このままだと次
こいつみたいになってるのは
私たちかもしんないんだよ…?
もっと真剣になってくんきゃダメだよ…
翼は何もわかってない…わかってくれてない。」

少し不機嫌そうに言う
凜のその苦言は
きっと正論だと思うし、的を射た意見だと思う。

思うけど…その時の僕には

その正論が少々鼻についた

計画を立てたのはすべて僕だというのに
そんな風に頭ごなしに叱られたんじゃ
たまったもんじゃない
凜に自尊心を傷つけられたような気がして
無性にイライラした

プライドが高い僕にとっては、たとえその相手が神様、凛とはいえ
その発言は少々疎ましかった

僕は凛の信者だし
その扱いはペットや奴隷レベルで構わないが

だが…僕は凛の生徒にも子供にもなりたくない
蔑まれても構わないが
間違いを正されたくはない

普通の人から見たらまるで理解出来ないかもしれないが
その微妙な差が

僕に棲む、いびつな形をしたプライドを傷付け
それを理由に
この時から僕らの完璧だった信頼関係に
微少ながら不協和音を奏でてしまっていた…


それからしばらく
僕らの間に会話は全く生まれなかった

シーンとした部屋の中に
掛け時計のカッチカッチ…と時間を刻む音と

窓の外から聞こえる
雨音だけがグルグル回っていた

僕は完全に謝るタイミングを逃してしまい

てゆうか謝るつもりもさらさらなかったし

もう完全に意固地になってしまっていた


それからしばらくして
僕らは喧嘩をしたまま

別々に行動を開始する事になった。

僕を部屋に残し
男装をしたまま凜は
「いってきます」
の言葉もなしに
無言のまま部屋を出ていってしまった


 PM12:50


…無言のまま玄関から出て行く後ろ姿

それがこの日
僕が凜を見た最後の瞬間になってしまうとは
この時の僕はまだ
想像さえしていなかった……。





つづく

第44話 マイオトロン

その日は朝から雨だった。

その日は朝から体調が良かった。


天気と体調。


そのふたつが心配だったから
朝の天気と体調に、まずは一安心した。


金曜を選んだ事には色々な理由があったが

まず一番の理由は、やはり天気だった。

水曜の時点で調べた週間天気予報で

金曜日が最も降水確立が高かったってのが
僕らが計画の実行日を金曜日にした
一番の決め手だった。


僕達の計画に
雨はどうしても必要だったから…。


なので今日、もし朝の時点で雨が降ってなかったら延期する可能性すらあった
それぐらい雨は重要だった。

だがその日は降水確立70パーセントの
まさに理想的な雨だった。

ザーザーというわけでもなく
しとしとと
理想的な形で、雨は降り続いていた。

朝、目が覚めてすぐカーテンを開け
予報通りに雨が降っている事を確認し計画の決行を確信してからというもの、僕は何度も何度も自分に言い聞かせていた。

特別な事は何もしなくていい。

淡々と
普段通りに…

いつも通りにやるだけでいい

…と。


だが、自分にそう言い聞かせている時点でもう

その日の僕はきっと
普段通りではなかったのだと思う。


完全に緊張していた。
完全に浮き足立っていた。


午前9時ちょっと前
僕の両親が働きに出てから約30分後

あいつの家のすぐ近くで
僕らは待ち合わせした

下手に動き回るべきではないと考えたから
行動はなるだけシンプルにした

待ち合わせた時
傘のせいもあったと思うけど
最初、凛が何処にいるかわからなかった

凛という人は
170近くある身長で
男っぽい格好をしたら本当に女性に見えなくなる

トレードマークでもある
黒髪の長髪を巻いて結んで
ニットキャップの中に
すべて収めていたらしく
パッと見
それが女性であるとは誰も思わないような風貌だったから

男の人だと思ったその人が
凛だとわかった時には
正直ビックリした。


驚きはしたが、今はそんな事よりもやらなければならない事が山積みだったから、もうそこには敢えて触れずに


「おはよ…。あいつは?」

と僕は早速凛に訊ねた、
すると凛はその質問にこう応えた。


「おはよ。私が見る限り今日はまだ出掛けてないと思うから…きっと家の中にいると思う」と。


待ち合わせをした場所からは
あいつの住むアパートがちゃんと見れるようになっていた

ここで待ち合わせをしたのは
あいつが家にいる事を確認したかったからだった

その為に、凛には30分以上前からずっとこの辺りにいてもらって
あいつの動向を伺ってもらっていた。

その時にも雨や傘は非常に役に立った

とにかく傘等で顔や姿を隠しても自然でいれて
しかも雨の日の朝は
みんな自分の事で精一杯で周りを気にする余裕なんてないから
晴れの日よりも確実に人の事なんて見ないし気にしない

誰だって水溜まりなんか踏んで
靴の中を濡らしたくないから、周りよりも自分の足元ばかり見て
自然と目線が低くなる

その結果、人の顔など殆ど見なくなり
晴れの日に比べると格段に顔や姿を見られたり覚えられる確立が減るのだ。


その上、もしも僕が、今のあいつみたいな、だらけた生活をしていたとしたら
雨が降っている時にわざわざ、朝から外に出ようとは思わない。

そこでまたあいつが家にいる確率も格段に上がる。

とにかく、あらゆる意味で雨は、僕らにとって好都合だった。

だから僕は計画の実行日の第一条件として雨の日を選んだのだ。

その甲斐あってか
凛の話によるとあいつはちゃんと家の中にいる。

まずはそれを確認出来た事で僕はホッとし、そしてすぐに凛にこれからの
行動の指示をした。


「じゃあ…まずはドアの鍵が開いてるかどうか確認してくれる?
…凛の話通り、あいつが前と変わってないならドアの鍵を閉める習慣はないハズだ…。
でも、もしも閉まってたら、閉まってた時用の作戦にすぐチェンジしよう…よし、行こう。」


時間がないのもあったが
それ以上に、迷ったり時間をかけ過ぎたりすると
もっと緊張するような気がしたし
決心が揺らぎかねないと思ったので
僕達はそれからすぐに計画を実行に移した。


アパート?いや、コーポというのだろうか

めちゃくちゃ古くもないが新しいともいえないような二階建ての建て物の
二階部分にあいつの部屋はあった

音をたてないように気を遣いながら階段を登り
そして部屋の前まで歩いた

が、音をたてないどころか
極度の緊張で足がガクガクしてしまって
まるで力が入らなくて
躓いたり、階段の色んな場所に体をぶつけたりで
普段絶対しないような不自然な音が僕のせいで周りに響き渡ってしまった


が、そんな僕を尻目に凛は
実に堂々とした足取りで
スタスタと僕の目の前を歩いていった

その背中は
本当に頼もしく
歩き出したかと思うと一度も立ち止まる事もなく…
その姿には躊躇する様子など微塵も感じられなかった

僕だったら階段部分などの目立たない場所で
一度立ち止まってから慎重に準備をすると思うが

凛は立ち止まらず
階段を登りながら
その動きの中でバッグを開き、中からこれから使う道具を取り出し、その道具に付いている安全の為のストラップを手に通し、手首に固定すると、その黒い物体を右手で包むようにして持ち直し、流れるように準備を終え
その頃にはちょうど玄関の前に辿り着いていた。

そしてすぐ、その場にしゃがみこむと
玄関のドアにある新聞受けのようなやつを
右手のひとさし指でスッ…と押し
中の様子を軽く伺うと
すぐに逆の手を使いドアノブに手をかけ
それをクルッと回した

それから一瞬、間があってから
そのまま凛がドアを引くと

なんと玄関のドアが
本当にスッと開いた

凛が言っていた通り
やっぱり鍵は閉まっていなかった

凛はドアが開くのを確認したら
それを30センチ位開き
顔だけ中に入れ

少し中の様子を伺うと
それ以上あまり大きくはドアを開けずに
体の角度をかえつつ
スルスルッと中に入っていった

その一部始終を
見ておきながらも
僕は勇気が出ず
足がすくんでしまって

玄関からは程遠い階段を上がってすぐの場所から、それ以上一歩も近付けなかった
そうやって僕がただ呆然と立ちすくんでいると
それからしばらくしてから



   バチッ!!



という乾いた音が
部屋の中から聞こえてくるのが分かって

その音に僕がハッとして
やっと玄関まで行き
おそるおそる中を覗きこむと

プゥンと酒の臭い匂いが漂う中

靴を履いたままの凛が
部屋の真ん中に立っているのが見え
そしてその足元には

横たわる中年男性の足が見えた。


それを見て安心した僕は急いで部屋の中に入り
玄関の鍵を閉め

靴を脱ぎながら
二人分の傘をその辺に立て掛け

凛に近付きながら訊ねた


「アレ…使ったの?」


「あ…うん。最初から寝てたから、あんまり必要なかったかもしれないんだけど、一応…ね。」

そう応える凛の手には
さっきバッグから取り出し手に持っていた
僕がネットを使ってあらかじめ購入しておいた道具


  [マイオトロン]


が握られていた。

マイオトロンとは
使用された人間の随意筋を麻痺させ
神経の伝達信号を遮断し
体の自由をしばらく奪う
護身用としてはかなり強力な類の
特殊なスタンガンだった。


「効いた?」


「ん~…、よく分かんないけど…でもホラ。」


そう言いながら、凛が足元にいる男を指差したから

その指す方を見ると

男がビクビクと小さく痙攣しながら
不自然な姿勢で横たわっていた

それは起きているのか寝ているのか分からない不思議な状態だった。

ただ体の自由はきいていないようで
一応立ち上がろうとしているようにも見えたけれど
実際は震えるばかりで何も出来ていなかった。


「フッ」


鼻で笑うような声がしたから、ビックリして僕がそっちを見ると
凛が自分の足元に転がる
無様な男の姿を見下ろしながら
その様子を鼻で笑いながらニヤニヤしていた


背筋がゾッとするような
そんな笑顔だった。


でもとても綺麗だった。



その顔の美しさに、つい一瞬見惚れてしまいそうになったけれど、そんな時間はないと思い直し
殆ど自分に言い聞かせるようにして凛に


「…早速、やった方がいいよね?」


と僕は言った
その言葉に凛は
ハッと我に返ったような顔をしながら


「…あ、そうね。じゃあ、えっと…ちゃっちゃとやっちゃおっか?」


と、これから僕らは、かなりえげつない事をやるというのに
それには不相応なトーンの軽い返事を返しながら

バッグから拘束具を取り出し、あいつの足を持って
何の躊躇もなく、それを取り付け始めた

その間に僕は
男の両手を背中に回してから、その両手首に、
手錠を頑丈にしたような拘束具をつけ
それから大声を出せないように顔には
首輪付きで顔を覆う程の、かなり頑丈な猿轡(さるぐつわ)をつけた


マイオトロンや拘束具など、それらはすべてネットで手に入れた

驚くほど簡単に…しかも安価で揃えられた。
(マイオトロンだけは少々値が張ったけれど)


それからハサミで切って服を脱がし
裸にすると
二人で力を合わせて男の下半身に
大人用のオムツをはかせた

「なんでオムツ?」


と思う人もいるかもしれないが、オムツは意外と重要だった。

オムツは、男が便意を耐えられなくなったり
拷問の激痛などにより
もしも失禁や脱糞された時に、その処理がわずらわしくないようにする為と
漏らされたりして部屋が汚れ
悪臭が取れ辛くなったりする事を極力避ける為だった。

というのも悪臭の苦情から殺人や死体遺棄がバレるケースも少なくないのだ。

なのでオムツはあらかじめ、絶対に最初にはかせようと決めていた。

そうやってオムツをはかせたら今度は

大きいブルーのビニールシートを床に引き
体を転がしてその中央に男を持っていき
最終的には体をうつぶせの状態にして

スカイダイビングをするような感じに、男の両足を持ち上げ
体を逆九の字にすると
両手もその足先にくっつくように持っていって、
両足を縛る拘束具と
両手を縛る拘束具を
ひとつに繋げる鎖をつけ

両手首、両足首、四つの関節を一ヶ所にまてめて固定した

それからまた
別の頑丈な鎖で
それをガチガチに縛り
完全に、身動きのとれない状態にした。


その作業が終わるまで
約20分くらいかかった

作業が終わるまでの間
男は一度も抵抗してこなかった
途中で諦めたのか
それともマイオトロンの効力が持続していたのかは
分からなかったけれど
精神的なものも含め、その効力が絶大だった事は十分に感じ取れた。


体の自由を奪う作業は、
二人で何度も反復して練習した甲斐もあってか
色々やった割には無駄な時間は殆どなく素早く終える事が出来た

しかも、夢中で作業をしたお陰で
作業が終わった頃には、朝からつづいていた僕の緊張もいつのまにか、かなり解けていた。


一息つくように
フーッと深く息を吐きながら時計を見たら

時計は
午前9時30分くらいを指していた



あの…僕らの長い長い一日は
そうやって始まった……。






つづく

第43話 遺書

「へぇ…精液ってほっとくと固まるんだね…。
うわっ…くっさい…。
翼の固まった精液…公衆便所みたいな…変な匂いがする」

自分の好きな人に、昼の明かりの下、あらわにされた下半身をマジマジと見られ、その上、臭いとか言われて、恥ずかしくて死にそうだった

「わっ…ごめん…なさい。…すぐ拭く…ます」

慌てふためきながら
僕が立ち上がるために
枕に手をかけたら


ズボッ!


と、上から殴るように強く枕を押さえつけられながら

「誰が取っていいって言った?」

と、強い口調で叱られてしまった


「をめ…をめんだだい…」

顔を強く押さえられ
枕と自分の間には殆ど隙間がなく
息をするのがやっとなくらいで
その状態のまま謝ろうとしたけれど
スペースがなさすぎて言葉がうまく出せなかった。

「あ…くっさい。
臭い…。
鼻が曲がりそう。」

クンクンと精液の溜まったヘソの辺りや
アソコの匂いをかがれているのが音と気配でなんとなくわかった。


「アレ?ひどいこと言われてんのに…どうしておっきくなってんの?(笑)」


凛の言うとおりだった
僕のアソコは
今までにないくらい
固く、勃起していた

凛に蔑まれ罵られるのが屈辱的で…
だけどそれが気持ち良くて仕方なった


…僕は本当に変態だと思う。


「アッ!アァァァッ!!」

そんな自責の念に苛まれている中
激しい快感が僕の身体を駆け抜けた


その快感の理由は
僕の汚れた
ヘソと下腹部の周りを舐める
凛の舌の感触だった。

拭いてないハズだから
そこにはまだ僕の精液がこびりついているハズだ…


美しい凛の舌が
臭くて汚い僕の精液を舐めてきれいにしてくれている…。

想像するだけで興奮して
頭がどうにかなっちゃいそうな事を
今、実際にここで
凛がしてくれている…

気持ち良すぎて吐息が漏れる
気持ち良すぎて腰を浮かせてクネクネしてしまう。


「ピクピクして可愛い…気持ちいいの?」

凛がそう言ったかと思うと

今度は舌の先っぽが
ヘソの穴の中にグリグリと入ってきた


ジュル…ズズズズ…


凛が、舌を使ってヘソの奥から掻き出した僕の臭くて汚い汁を
全部吸い上げてくれているのが
その音からわかった

その姿を想像しただけで
またイッちゃいそうだった。


ピチャ…ピチャピチャ…
ジュルルル…


今度は下腹部の周り…
アソコの根元辺りに
固り張り付いた精液を唾液で溶かし
それもまた吸い上げてくれているのが音と感触で伝わってきた


「臭くて美味しい…翼の味がする…」


その言葉にまた
一段とドキドキした

もうダメだ…

アソコにはまだ一度も
触れられてもいないってのに
なのにもう…またイッちゃいそう…。

ダメ…あぁダメ
うぅ…
この感じは…もう…
アァ…ダメ……です。


「ん…美味しい…もっと食べさせて…」


「アァッ!ダメッ!アァァァッ!アーーーーッ!!」


凛の言葉に反応し
僕がたまらず叫んでしまったその瞬間


何故か僕のアソコが
急に温かくなった


ドクッ

ドクッドクッ


いつものように精液が飛び出る感覚がしたが

何故かそれは何処にも飛ばなかった

というか垂れてくる…というか
身体の上に精液がボタボタと落ちてくる感触が
いつもならするハズなのに
今回はまるでしなかった


そればかりかアソコ全体が気持ち良かった
そして吸い出されてるような
搾り取られてるような

なんかそんな
アソコが締め付けられているような感触がした


その感触の気持ち良さたるや
僕が今まで生きてきた中で
確実に、一番の気持ち良さだった

最初に大量の汁が飛び出したあと、残りの汁がドクドクとちょっとづつ出るたびに
尿道の小さな穴の中に何かやわらかいものがグリグリ入ってきて、それをキレイに掻き出してくれて
しかも穴の中まで掃除してくれてるようで
イタ気持ちよかった



見て確認しなくたって…

まだその行為を実際に
やってもらった事のない僕にだって
今自分が何をやられてるかぐらい


それくらい…分かる。



今…凛が
僕のアソコを口にくわえてくれている


俗に言うフェラチオというやつをしてくれている

僕のアソコを根元まで
喉の奥までくわえこんで
上下にピストンしたり舐めたり吸ったりしてくれている
こんなどうしようもない僕の
一番汚い場所を
あの…あの美しい凛が。



気持ち良すぎて冗談抜きで
死んでしまいそうだった


足がプルプル痙攣した


心臓が爆発しそうなくらいドクドクしていた


とにかくもう気絶しちゃいそうだった。


チュポンッ


「うぅっ」


イヤラシイ音がして
口からアソコが抜かれる感触がした


そのあとすぐ
閉じてたまぶたの奥が赤くなり、冷えた新鮮な空気が肺の中に飛び込んできた

多分僕の顔の前から枕がなくなったんだと思う。

恐る恐る目を開けたら
一瞬、そのあまりの眩しさに目が痛くなった

と思った瞬間
目の前に凛の顔が来て
再びキスをされた

けれどそのキスはさっきの玄関の時とは
まるで違っていた

凛の舌の上を伝って
唾液とは違う
何かドロッとした生臭いものが大量に
僕の口の中に入ってきたから…


状況から考えて
それはきっと
僕の精液だった…


絡み合う舌に
唾液ではない
独特な臭くて不味い味が広がる
しょっぱいというかニガイというか何か独特な生臭い味
あと何故か少し舌がビリビリした



「ろんれ…」

口づけを交わしたまま
凛がそう言った

最初は意味がわからなかったけれど
何を言われたのかは
すぐに分かった



「飲んで」だと。



凛に言われるがまま僕は
凛の唾液混じりの自分の精液を
ゴクンと飲み込んだ


飲み込む時の味はそんなにはキツくなかったけれど

少し喉の奥に引っ掛かるような…張り付くような妙な感じがした。


何か不思議な感じがした。


共食いとはこんな気持ちなんだろうか?


自分の身体から出た
何億という無数の精子
言うなれば自分の遺伝子を刻んだ
自分の子供たちを一気に飲み干すような…

簡単な事のようで
とても残酷な事をしてるような
何か、そんな気持ちになった


昔テレビで見ていて何故か激しい吐き気と嫌悪感を覚えた

白魚の踊り食い

ってやつを急に思い出した。


白魚くらいのサイズになった無数の精子が凛の口から吐き出され
大量に僕の口に入ってくる

入りきれなかった精子は噴水や湧き水のように僕の口から溢れ出し

僕の顔が見えなくなるくらい
辺りをドロドロに埋め尽くす

食道や胃や腸はすべて
白魚のような精子に埋め尽くされ
僕の身体を内側からドンドン膨張させ

水死体のようにブクブクに膨れ上がった僕の身体が
ついには破裂して部屋中を血の海に変える……


なんかそんな感じでドンドン意味不明な
グロテスクな映像が頭に浮かんでは消えていった


自分の子供を
大量に食べた


その罪悪感に
僕は吐き気を覚え


そして…異常な程
興奮していた



「自分の味はどうだった?」


そんな僕の心の中を見透かすかのような
凛の問い掛けに
僕はしばらく言葉を失ってしまった

そして、なんとか言葉を搾り出そうとする僕を遮るように

僕の頭を両手でギュウッと抱き締めながら


「今度は私が食べてあげるからね…」


と凛は僕に言ってくれた。


その言葉のぬくもりと
その身体のあたたかさに


この人のためなら
もういつ死んだってかまわない


と強く思った……。





それからの僕達は
昨日までのゆるやかな時間がまるで嘘だったのかのように
急速に
その速度を増していった


明確な目標とビジョン

そして僕の病状の悪化

それらが相乗の効果を生み

僕らを核心へと急激に導いていったのだ


「おいしいものはさいごにとっとく」

そんな人もいれば

「おいしいものからさきにいただく」

という人もいるだろう


どちらかと言うと僕は前者なので

すべての事の発端である

あいつ(凛の母親の元恋人)は、あとにとっておきたかったので

その事を凛に伝えたら
こんな言葉で一蹴された


「私も翼と同じで、一番おいしいものは最後にとっておくタイプだよ?
…けどね、あいつや先生を殺る順番なんて私にとってはどうだっていいの。
ふたりなんてただの前菜なんだから、練習がてら、ちゃっちゃと殺っちゃえばいいと思ってる。
あのね、だって…私にとってのメインはあくまで

翼なんだから。」


身震いしてしまうような強烈な言葉をサラッと口にしてしまう
凛という人間に僕は
心底惚れぼれしてしまっていた。


凛がそう望むなら

僕はその通りに動くだけだ


確かにダラダラ時間をかけて
目標を成し遂げる前に目立つような事をして
志し半ばで座礁するわけにはいかない

凛の言う通り
復讐を愉しむのではなく
出来れば一日で一気に片を付ける方が本当は望ましい。

それに、よく考えたら同時に僕の自殺工作もやらなくてはならない…


事態は急を要していた

考えなければならない事
準備しなければならない物

悠長にする暇はないのに
緻密な計画を練る必要はある


そんな加速する時間に
焦りとともに僕は
とても高揚していた


生き甲斐みたいなものを
強く感じながら僕は机に向かった


色んな可能性を考えた結果

計画の決行は金曜日にした。

ネットの通販等を使ってある程度のものは揃っていたが
まだ若干足りなかったので
凛に必要な物をすべて揃えてもらうべく
メモとお金を渡して買い物に行ってもらうタイミングで、その日は別れた。


今日が水曜だったから
明後日には僕は家を出てゆく事になる


それから先は
僕に残された時間は一気に短くなってゆくだろう


それを噛み締めるように
今日と明日は
なるだけ沢山父や母と会話をしようと思った。

食事も自分の部屋ではなくリビングで
3人でちゃんと食べた。


父と母には本当に心の底から感謝している

ちょっと臭いかもしれないけれど

生んでくれてありがとうって
本当に思っている…。


その夜、ふたりに
「おやすみ」
と言ったあと
僕は部屋で遺書を書いた。

遺書は…当初はアリバイ作りのために書くだけの予定だったハズなのに
いつのまにか本気で書いていた
遺書というより両親に対するお礼を綴ったような手紙だった。

自殺をするのは絶対に両親のせいではない事
ふたりには本当に感謝をしている事

そして最後に

「病気を治せなくてごめんなさい」

と書いて筆を置いた。


ただでさえ息子が病気になってしまって、死んでしまって、しかもそれが自殺で…と苦しませてしまうのに
それが自分達のせいだと勘違いして
これ以上苦しむような事だけはさせたくなかった

絶望の中に少しでも
救いを残しておきたかったから…

柄にもなく、つい熱くなってしまい
簡単に書くつもりが朝方までかかって手紙を完成させ

その手紙は、ポストに投函するような気持ちで机の引き出しの一番奥にしまって

そのまま両親が寝る寝室の前までいき
何をするでもなくただ部屋の前でじっとしていた

寝息が聞こえてくるわけでもなかったが
少しでも両親の事を自分の中に焼き付けようと聞き耳を立て
その命を聞いていた

事が発覚してしまったら
地獄を味わわせてしまうかもしれない…大切な両親

お別れを言う隙も与えず
一方的に別れを告げ、この場から身を引く僕

こんな親不孝な人間は他に、きっといない

そんな事を思っていたら
たまらず涙が溢れてきてしまった

だが涙が床に落ちてしまったら
何かを悟らせてしまうかもしれないから
それはいけないと思い

急いで上着を捲り上げて涙はそこに落とした

泣きすぎてつい声が出そうになり

急いで口を塞ぎ部屋に戻り

布団の中に潜って声を殺して
思い切り泣いた…。


それがもう木曜の朝で
決行は明日に迫っていた…。





つづく