高校の時。
月々の小遣いは3000円だった。
それが高いのか低いのか、わからない。
町に一軒だけあったレコード屋。
「タカギ」という、気のいいおばさんがやっていた店。
そこに貰った小遣いを持って、飛びっきりの1枚のレコードと、それを録音する為のカセットテープを買った。
当時、LPレコードは2500円。46分テープは450円。
世の中ってえのは、よくできてるもんだと感心してた。
部活が終わった後、駅近くの店で、みんなはコーラやパンを買って、その日の疲れを癒す。
「お前、またレコード買っちゃったの?」
「ああ」
それまで貰ったお年玉を母が貯めてくれていた。
僕が持っていたら、「全てレコードを買う為に使ってしまうから」と言って、いつの頃からか取り上げられた。
友人がディープ・パープルやツェッペリン、クイーン、キッス、クラプトン、ベック、ピンク・フロイド・イエス・・・聴いているのが羨ましくて仕方がなかった。
とは言っても、別に全く使わせてもらえなかったワケじゃない。
月々の小遣いの中で買えなかったどうしても欲しいレコードがあったら、とにかく欲しい気持ちをぶつけた。
子供だから、その理由の中には「なんとなく聴いてみたい」モノもあった。
もちろん、却下された。
「このお金は、お前が本当に欲しいモノができた時に、使う為のものなんだよ」
「仕方ないな」と言って、3000円くれた時もあった。
覚えてるのは、ピンク・フロイドの「狂気」、ツェッペリンの「Ⅳ」、パープルの「マシンヘッド」、キャロル・キングの「つづれおり」。ちょいと後になって、クラプトンの「スロウハンド」、フリート・ウッド・マックの「噂」・・・
いつしか、小遣いで買うアルバムやシングルは、好きなアイドルやその時にヒットしているモノを選んで買って、どうしても聴きたいアルバムは、母にせがんだ。
こすいな。
ある時。ダイアー・ストレイツに出会った。
普通、マーク・ノップラーの指弾きのギターに憧れるんだろうけど、何故かあのシンプルで小気味のいいドラミングに惚れた。
母に頼んだ。
「ドラムが買いたい」
母は俺の目をじっと見て。
「後悔はしないのね?」と言った。
まあ、中学の3年間、ブラスバンド部でドラムを叩いていたから、母も納得したんだろう。実はホントにやりたかったのはサックスで、じゃんけんで負けたんだけど。
秋葉原の楽器店で、フルセット69800円の格安セットを買った。メーカーは「pearl」。
こいつはホントにダメなヤツだった。
トップシンバルは叩くとヘコんで波打つし、ハイハットは幾らキチッとネジを締めても、叩いてるうちに緩んでくるし、バスドラのフットペダルもユルユル。
ホント、安かろう悪かろうだったけど。
スネアの音だけは、悪くなかった。
固い、カチッした音が好きだったから、そういう調整をしてた。
こいつだけは、いい音出してくれていた。
市のお祭りで出演させてもらえるコトになった。公会堂前の空き地。立て込みは前日。
どうにもお粗末なドラムセットだったけど、それでもいいからと言って、幾つかのバンドの為に使ってもらえるコトになって。嬉しかった。
さすがに波打っているトップシンバルとゆるゆるのフットペダルは、それぞれの持ち物を使ってもらうコトになった。ハイハットはみんなロックバンドだったコトもあってか、その緩めもいいというコトになって、使ってもらえた。
当日。
スネアに穴が空いていた。無数の傷。おそらく金属性の棒か何かで叩いたんだろう。
ボコボコになってた。
タムタムも、フロアタムも。穴までは空いてなかったけど、ボコボコと傷が付いてた。
他のバンドのヤツがたまたま自分のスネアを使いたいと持ってきていて、コト無きを得た。
ほんのアマチュアだったけど、どうしようもなく辛かった。
やったヤツはただの遊び心だったかもしんないけど。
見つけて引きずり出して、けちょんけちょんにぶん殴ってやりたかった。
楽器は、本当に大切なモノなんだ。
アマチュアもアマチュア。1曲を演奏するだけでも、それこそミスばっかりで、失笑されるようなバンドだって。
楽器は本当に、大切なモノなんだ。
そいつがいてくれなきゃ、演奏できない。歌えない。
僕は、失礼ながら、この方の歌を聴いたコトはありませんでした。
ある方のツイートを拝見して、ブログを拝見しました。
大切な、この世界にたった一本しかないギター。
それを・・・
是非。読んでいただけたら。
アコースティックギターを失って
「カーテンコール」
どんなに辛かっただろう。
どんなに悩んだだろう。
どんなに苦しかっただろう。
こういうコトは、例え間違いや、事故であったとしても、黙っていちゃいけないよ。謝るべきでしょ?
まして、故意であったとしたなら。
そいつは、音楽に携わるコトを辞めろ。
楽器を粗末にするヤツに、音楽に携わる資格は、ない。
余計なコトかもしれないけど。
黙っていられない。
愛機が帰ってきて。どんなに音が変わってしまっていても。
あなたの「歌」と「声」と「曲」と「想い」は変わらない。
だから。
必ず、あなたの歌を聴きに行きます。