中国華南・改善道場 -5ページ目

'10年広東省の最低賃金上昇【追補】

先日,正式発表前の'10年東莞市の最低賃金上昇予測に関してコラムを書いた.
予測どおり20%程度の最低賃金上昇となった.

正式発表では,5月1日から新最低賃金は以下のとおりとなる.




広州1030元19.8%アップ
珠海,彿山,東莞,中山920元19.5%アップ
汕頭,恵州,江門810元20.9%アップ
韶関、河源、梅州など20都市710元22.4%アップ
その他四類都市660元24.5%アップ


昨年は,金融危機の影響により最低賃金の調整が見送られたため,今年の最低賃金上昇は過去最大となった.単純平均では広東省の最低賃金上昇率は21.4%だ.

東莞は770元から920元に,150元のアップとなる.

賃金格差をなくすため,広東省周辺地区が最低賃金上昇率は高くなっている.
深セン地区の最低賃金がまだ発表になっていないが,同様に20%近い上昇率になるだろう.


今作業員の採用難が深刻となっているが,この調整で改善を期待したいが,
浙江省・杭州,寧波はすでに最低賃金を1100元に改訂.
江蘇省・蘇州,呉江も1100元だ.
楽観は出来ないであろう.


一方で,東莞市の医科専門学校新卒業生の就職活動が始まっているが,彼らの初任給は1500元だ.昨年は1800元だったので,一年で300元も下がっている.
農村から出稼ぎに来た中卒の労働者は,最低でも920元もらえる.残業代が加われば,1500元稼げる労働者もいるだろう.
医師の給与が低すぎる.こういう状態にしておくから患者を薬漬けにする,超音波CT,レントゲンなどの検査漬けにする医師が後を経たない.



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新幹線方式

 以前勤務していた会社の社長が良く「新幹線方式」という言葉を使っていた.

「新幹線方式」というのは過去の方法を捨てて,新しい発想で物事を始めることである.

新幹線は在来線との互換性を捨てて,軌道の幅を広くしている.
昔は車輪と軌道の間に適度なガタがないと列車は脱線すると思われていた.
新幹線はこの通説も否定した.
新たな発想で高速走行とゆれの少ない乗り心地を実現している.
こういう発想を「新幹線方式」と呼んでいる.


工場の運営も同様に,従来の常識を超えた高みに到達することにより,更に高い生産性・品質・フレキシビリティを確保できる.
業界の常識にとらわれていると,業界レベルのそれしか得られないであろう.


例えば電子部品の業界では,出荷不良20ppm以下が要求される.
この電子部品を組み合わせた電子製品の出荷不良を20ppm以下にしたら,顧客の反応はどうなるであろうか.

もちろん100個も200個も電子部品を組み立ててできる電子製品の不良率を電子部品1個のレベルまで下げることはそうは簡単ではない.

一方自動車産業では出荷不良が20ppmなどと言うのはとんでもない,ということになる.人の生命に影響がある以上,常に不良ゼロである事を要求される.


デリバリィーについても同様である.
業界常識のリードタイム,最小発注量というのがあるが,それを越えてデリバリィーができれば,顧客の利便性は高まる.
例えば今まで1週間かかっていた納期を1日に短縮し,必要な数量だけを納入できたら顧客は部品倉庫がなくてもオペレーションできることになる.


このように業界の常識を超えて,異業種をベストプラクティスとして改善することにより同業者の中で圧倒的に強い競争力を得る事が出来るであろう.

そのためには異業種のベストプラクティスを知り,「新幹線方式」で自社を改善することである.


社長は「新幹線方式」をGEのジャック・ウェルチに話をした事がある.
この時ジャック・ウェルチはその日の内にFAXでGEグループの全社長にこの話を伝えたそうだ.さすがはベストプラクティスの本家である.



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中国最低賃金の上昇

3月13日付の地元新聞『東莞時報』によると,広東省の最低賃金は10%以上上がりそうだ.

  11日,全国人大代表、广东省人力资源和社会保障厅厅长欧真志接受媒体访问时透露,广东计划提高最低工资标准,方案已报省政府,初步设想提高10%以上。
東莞時報より引用

一部の観測では,昨年最低賃金の改定が見送られたため,20%以上の最低賃金引き上げがあるのではないかと予測されていた.10%代であれば例年通りである.

しかし蘇州の最低賃金が1100元とすでに発表されており,10%代でも限りなく20%に近いところに落ち着くだろう.

またこの記事には,农民工应享“同工同酬”(出稼ぎ労働者も同じ仕事ならば,同じ報酬・福利を得るべき)と言う,社会保険庁庁長のコメントが記載されている.

つまり出稼ぎ労働者も広東省出身労働者と同様に,給与ばかりでなく子女の教育,社会保険などの福利を受けられるようにする,と言うことだ.この政策により,上海と同じように企業の保険費負担が増える可能性はある.(上海では最低賃金の中に企業負担の社会保険料は含まれない)

いずれにせよ,今年も大幅な賃金アップを覚悟しなければならないだろう.

毎回指摘をしているが,中国はすでに「ローコスト生産国」ではない.安い人件費を期待して中国で物を生産する時代は終わったと考えなければならない.

例えば08年の電機大手の賃金アップは,1000円であった.同じ年東莞の最低賃金は日本円換算で1200円である.賃金上昇額は日本より中国の方が上回っている.
もちろんこれは上昇額だけの話であり,当然総額は日本のほうが高い.しかし日本はほぼゼロ成長.一方中国は10%後半の成長率である.早晩中国の安い労務費だけに注目して,中国工場経営をする時代は終わる.
それ以上に,製造業の作業員を採用することが困難になりつつある.

中国でも,昔日本がやってきたように人材を育成し,少数精鋭の人員で,高付加価値・高品質・高フレキシビリティの生産を目指さなければならない.


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ダメモト改善

 私は改善の目標を置くときにいきなり2倍,3倍向上という目標を置いている.例えば不良の減少であれば,目標を1/2とか1/3に置いてしまう.
データを眺めて積み上げていると,どうしても2割,3割アップという数字になってしまう.データの積み上げではなく,「ありたい姿」から目標を設定するようにしている.

もちろん既に長い時間をかけて改善活動をしている工場では,いきなり2倍といってもなかなか難しいが,中国の工場では達成できてしまう事が多い.

一緒に活動をする人は「え~?」という顔をしているが,2ヶ月とか3ヶ月くらいで2割,3割アップを達成してしまうと,メンバーの顔が「ひょっとしたら」に変わってくる.こうなるとしめたモノである.まずはメンバーから信頼を得て,ひょっとしたらと思ってもらう事が大切だ.

ある工場で半年で不良を1/2に,一年で1/3にしましょう,と経営者と約束をして活動をした事がある.正直に言うと自分でも半信半疑であった(笑)
しかし本当に半年で不良は1/2になった.一年後には1/3には届かなかったがかなり良いセンまでいった.
目標は達成できなかったが,一年前と比べたらすごく改善した.しかもメンバーのやる気が上がったのが一番の収穫であろう.

「ダメモト」(ダメで元々)と思えるような目標を立てて活動する.そしてスピードを大切にする.ここを改善しようと決めたらその日のうちに改善するくらいのスピードでやる.来週までとか来月までとはいわない.

拙速でもいいと考えている.完璧を期して考えていても,考えている間は何も改善されていない.60点でも良いからすぐにやってみる.改善の効果は時間の積分で効いて来るはずだ.やってみればその次の問題点が見えてくる.考えていただけでは見えてこない問題点だ.

やってみてダメなら,すぐに元に戻せば良いだけだ.金をかけずにすぐにやってみる.これならば元に戻すのは怖くない.ものすごく高価な設備を導入してしまうと時間もかかるし,元に戻すに戻せなくなってしまうものだ.

ダメなら元に戻す.これが「ダメモト改善」のもう一つの意味だ.



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自働化

自働化という言葉をよく耳にされると思う.「自動化」ではなく人偏が付いた自動化である.自動化と区別をするために「ニンベンの付いた自動化」ということもある.

 「自働化」の定義を調べてみると
「自働化」とは、不良が発生した際に機械が自動的に停止し、後の工程へ良品のみを送るようにすること、公式ページでは通常の加工が完了したら機械を安全に停止させることも指すとしている。 豊田佐吉が発明した自動織機に、稼動中に糸が切れた際に自動で停止する装置が組み込まれていたことに由来している。
(Wikipediaより)

となっている.しかし今時の自動機で不良が発生してもそのまま生産し続けるようなものはなかろう.同じくWikipediaに以下の記述も見られる.
  • 合理化を進めるあまりに従業員の人間性やインセンティブ(労働意欲)を無視してはならない。
  • 人が関わらない自動化をしてしまうと、機械へカイゼンの知恵を織り込めなくなることから、カイゼンを持続的に行うためにも人が関わる自働化が重要となってくる。


こちらの説明の方が,現在の実情を表しているだろう.

すなわち人が機械に使われるのではなく,人が機械を使いこなして品質や生産性を向上する.例えば自動機が生産しているのを人が監視している.というのも人が機械の番人に成り下がってしまっている.更に見張っている間は「手待ちの無駄」であり,人の能力が発揮されていない.これでは労働意欲もわかないであろう.

また完全自動設備の導入には大きな設備投資が必要であり,細かな改善にはその都度設備の改造が必要となり,コストパフォーマンスの検討が必要となる.
このような状況では,現場の改善意欲がそがれてしまう.

例えば完全自動の立派な設備を導入してしまうと,工程変更による改善を試そうにも大変な労力を必要とする.工程を分割して…などということは不可能だ.

人と設備が調和を持って生産を行う.現場の工夫を常に反映できる設備とする.
こういう考え方を「自働化」と呼びたい.

昨今の労務費の高騰,作業者の雇用難から自働化による省人化をしなければ生き残れない.また人のばらつきを抑え高品質化にも自働化が効果的である.

私はお客様の工場で次のような手順で自働化を提案している.
  1. 現在の生産ラインの流れを可視化し,徹底的にムダを排除する.これを省略してしまうとムダも一緒に機械化してしまう可能性がある.
  2. 自働化を意識した小型かつ安価な設備を導入する.小型というイメージは作業台に乗る大きさというレベルである.
  3. 価格も省人化効果対費用を考える.中国であれば作業員1名省人化に対し設備投資は30万円以下である.
  4. 設備を導入した後,更に改善を続ける.設備が小型であるのでレイアウト変更は簡単.設備の小改造も簡単に出来る.

一方高価な設備を導入してしまうと,設備をとめるのが悪だという観念にとらわれ目一杯に生産をしてしまう(作りすぎの無駄).
または機械を止めないために余分な準備作業を入れ込むという無駄が発生する.

以前改善した事例を紹介しよう.
設備の能力(800個/時間)を最大限に引き出すために,前準備に2人の作業者を置いていた.それでも後工程の能力(1000個/時間)には追いつかない.
それを前準備と設備作業を一人作業化した.設備の能力一杯には生産できないが500個/時間は余裕を持って生産できる.もう一台同じ設備を導入すれば後工程の能力(1000個/時間)を十分まかなえる.
これで3人を2人に省人化し更に時間当たりの生産能力を200個改善したことになる.

こういう事が出来るのが自働化である.



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