どうしても動く気にならないときってあるよね。受験生であれば「スランプ」の状態。コロナの後遺症と呼ばれる症状とか、若者が言う「風呂キャンセル界隈」なんかも、同じカテゴリーに含まれる。要は、自律神経のうち背側迷走神経系が優位になることで、心身にブレーキがかかった状態なのよ。
受験勉強中であれば、ものすごく勉強がはかどった後とか、暗記物を集中してやっているときなんかに、突然やる気のスイッチが切れてしまうことがある。これはね、決して意欲の問題じゃなくて、生理現象なのよ。もともとは、とてもかなわない敵に遭遇したときに「死んだふり」をして難を逃れようとするシステムだった。逃げることもできないし、戦うのも無理というときの窮余の策よ。
新型コロナは、人類が未経験の疾病だった。だから、少なくとも脳の反応としては、未知の怪獣が襲撃してきたときと同じになるのね。「これはとてもかなわない」と脳が判断して、死んだふりをしてやり過ごそうと心身にブレーキをかけた。それでね、コロナに罹って治った後も、そのまま“死んだふり”が続いているのが、いわゆるコロナ後遺症。人間は、一度防御のシステムが起動すると、必要以上に長期間、解除されなくなるの。ちょうど、腰に無理な力が加わってギックリ腰になり、その後も腰痛が続く、というのと同じ理屈。
キャパを超えた量の仕事をやっているときにも、このシステムは起動する。人間はイキモノで、イキモノの絶対命題は「生きること」なの。だから、「このままでは過労死するかもしれん」と脳が判断したときには、活動のスイッチを切って命を守る選択をする。それと同じように、脳がキャパを超えた量の情報に接したときにも、背側迷走神経系が優位になって活動のスイッチが切れる。情報の種類までは、脳には判別できないので、ずっとスマホで動画を見ていても、熱心に受験勉強をしていても、反応は似たようなものになるの。
具体的に、体はどういう変化をするか。おでこのあたりの骨を「前頭骨」という。解剖学的にはひとつの骨なんだけど、自律神経の働きによって、真ん中のところで折れ曲がると考えられている。ちょうど、おでこに文庫本のページを開いて乗せてるような感じね。背側迷走神経系が優位になる、つまりやる気のスイッチが切れたときには、前頭骨の中央が折れ曲がるという。つまり、おでこに乗せた文庫本の背表紙が脳を圧迫するような形。そのとき圧迫されるのが、脳の前頭前野、やる気の中枢よ。こうして、心身にブレーキがかかってしまう。
やる気が出ないときの応急手当はね、おでこを左右にごく軽い力でストレッチすること。約3分間。それから、酒でも飲んで寝てしまうのがいちばん。そうすれば、翌日はちゃんとリセットされているよ。あ、受験生は温かいココアにしておこうね。