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交通外傷というと真っ先に思い浮かぶのは頸椎捻挫、ムチウチよね。ただ実際には膝の痛みを訴えて半月板損傷の診断がつくことも多いという。
ところがね、半月板はいろんな原因で損傷する。スポーツ外傷でも発症するし、肥満が原因ということもある。それからねえ、加齢による変性、ようは齢のせいという要因もある。
それでね、例えば自転車に乗っていて衝突された、とかなら交通外傷による半月板損傷というのも想像しやすいけれど、自動車同士の衝突で「膝が痛い」「画像診断してみたら半月板損傷だった」と言ってもさあ、「半月板もともと悪かったんじゃない?」という話になりがちなんだって。それで実際自賠責で後遺障害には非該当になってしまい、保険会社や医療機関ともめることも多いらしい。
ムチウチの場合でももともと頸椎椎間板ヘルニアの既往症があった場合は「素因減額」といって賠償金額がヘタすると半額くらいになることもあるらしい。ケガさせられるは自賠責に相手にしてもらえないでは患者さんにすればたまったもんじゃないよねえ。
でもねえ、膝半月板損傷は症状によっては保存的に(手術しないで)治療できるという。半月板そのものは一度断裂すると修復されないから半月板損傷で保存療法を受けて治った(?)人は「無症状だけれど半月板が損傷している」ことになるよね。そうであるならば症状はないけれど検査してみると半月板損傷のある人ってけっこうたくさんいるんじゃないかな。
そういう人が衝突事故に巻き込まれて膝に痛みが出たときには症状の原因は「膝」以外ということになるんじゃなかろうか。手技療法を使う整形外科医師というのもごく少数ながら存在するんだけれど、そういううちのお一人が「半月板損傷の原因について関節の動揺性や以上運動との関連を指摘するものがある。他方、関節弛緩を基盤として起こる膝関節障害が少なくないとする意見もある。このような関節弛緩や以上運動に関しては、関節亜脱臼の適切な治療によって解決されるものが少なくないと考える。」「同時に膝関節に至る神経回路を全体としてとらえ、特に、頸椎の軸索障害に注目すべきことを強調する。」という一文を残しておられる。
それから「…バレーボール練習中に鉄柱に頭をぶつけたことがあり、その際の衝撃が頸椎の歪みと側索障害をもたらしたと推定され」る症例を挙げておられる。半月板損傷とムチウチと、実は関係あるかもしれんね。
アスリートの回想録、みたいな記事がネットによく載っている。オレが読むのは主としてプロレスラーの記事なんだけれど昭和の時代に中日ドラゴンズで活躍した選手の記事がちょっと目に留まった。
その選手はね、肩を傷めてそれが原因で引退した。もちろんずっと野球を続けてきたのだから肩の筋肉は消耗していたんだろうけれど、直接のきっかけは「整体治療」だったという。ドラゴンズの当時の監督がお気に入りの整体師がチームに出入りしていて定期的に選手に施術をしていた。正式なトレーナーだったかどうかは知らない。
それである時、整体を受けていて無理な力をかけられたときに肩の筋肉を傷めた。それが引退の直接の原因になったという。件の整体師の荒療治は選手にも不評だったみたいで、監督に施術を受けるように言われてもこっそり姿をくらませる選手もいたらしい。整体治療で肩を壊されたその選手はそれでも監督には文句を言わなかったという。監督への遠慮だった、と本人が記事の中で語っている。
その整体師はプロレスラーにも施術していたみたいで、当時オレが定期購読していたプロレス雑誌にもちょくちょく記事が載っていた。選手でもないその整体師のインタビューを読んだこともある。ブレーンを気取っていたわけよね。
テレビにもよく出ていた。罰ゲームみたいな形で施術を受けさせられる、というパターンが多かったけれどカイロプラクティックスクールの校長だかと「骨をどれだけポキポキ鳴らすことができるか」という阿呆なことをやっていたのも記憶する。
見る人間が見ればとんでもなく危ないことをやっているのは明らかなんだけれど、テレビに出ている、とか有名人に施術しているとかいうのはやっぱり評判になるのよ。その整体師の整体院はものすごく繁盛していたらしい。
でもねえ、やっぱりというか当然というか、そこで施術を受けた人の中には取り返しのつかないケガを負わされた人もいる。手持ちの書籍では「馬尾神経麻痺、神経因性膀胱障害」の後遺症を残して裁判になったケースが紹介されている。アスリートがケガをするくらいの無茶な力で施術されたんでは一般人はたまったもんじゃないよね。きっと表沙汰になっていないとか泣き寝入りするしかなかったとかの「余罪」はたくさんあったと思う。
どんな治療を受けるのかはすべて自己責任。マスコミがもてはやそうが監督(または上司や知人)が薦めようが、結果はすべて患者であるあなたが負うしかないのよ。ワクチンなんかも同じよね。
戦場鍼の話の続き。耳の5つのポイントにピアスのような鍼を留めて、痛みを即座に和らげるという施術法ね。
「耳に鍼を打つ」と聞くと、まず思い浮かぶのはダイエットで知られる耳鍼だろうか。実はこの戦場鍼も、耳鍼と同じ考え方をベースにしている。耳鍼では、耳介に逆さまの胎児の姿が投影されていると考える。症状に応じて、胎児の対応部位に当たる耳介のエリアを刺激する、というセラピー。
実際、戦場鍼で使われる「帯状回」「視床」といったポイント(いずれも脳の部位名にちなんで名づけられている)は、この胎児モデルで言えば「頭部」に相当する場所に位置している。
それからね、耳介には迷走神経の耳介枝という副交感神経系の枝が分布しているのよ。
耳を刺激すると、なんだかリラックスするでしょう。あれは解剖学的にも説明できるということね。
それからこの耳介枝の分布部位は、胎児モデルでは「内臓」に対応するエリアに重なる。戦場鍼で使われる「ポイントゼロ」もこのあたりにあるのだが、その働きは「身体のバランスを整える」とされている。
この「耳介刺激によるバランス調整」は、戦場鍼だけに限らず医療の現場でも活用されているのよ。aVNS(auricular vagus nerve stimulation:耳介迷走神経刺激)と呼ばれる電気刺激療法では、耳介を低周波で刺激することで、てんかん・うつ病・頭痛・不眠症・耳鳴り・機能性ディスペプシア・脳卒中後の上肢リハビリ、さらにはコロナ後遺症への効果も報告されている。
なかなか壮大な話になってきたけれど、ここでふと思い出したのがクラニオセイクラルで使われる「テンポラル・イヤープル」。
耳を軽く引っ張るあのテクニックでも、もしかしたら耳介枝=副交感神経への刺激が入っているのではないか?とちょっと考えたくなるよね。
従来、イヤープルの作用機序は「側頭骨を牽引して小脳テントの緊張バランスを整える」とされていた。でも、耳介の神経解剖をふまえると、神経系に対する調整効果という新しい可能性が見えてくる気がする。
耳ひっぱりでダイエットはさすがにムリか。