★★★☆☆

 

 第一作の『秘密機関』第二作の『おしどり探偵』から月日は流れに流れて、四十代になったトミーとタペンスが描かれています。

 前二作ではあんなに若さがはじけていた二人が中高年・・・。月日が経つのは早いものですね。(笑)

 いきなり二人の中年の嘆き節から始まるのがまたおもしろいです。

 

 戦争 (第二次世界大戦かな) と中年という年齢のために職にあぶれてしまったトミー。かつての上司カーターも隠居してしまい、頼りにできない。そんな中、カーターの友人のグラント氏からとある仕事を任されることになる。

 それは〈無憂荘〉と呼ばれるゲストハウスに潜んでいると思われる外国のスパイを見つけ出す任務だった。

 本来ならこれはトミー一人に任された仕事だったのだが、タペンスが大人しく留守番しているはずがない。すぐさま彼女もトミーを追って〈無憂荘〉へと向かうのだった・・・という話。

 

 ぶっちゃけ、半分強くらいまで読まないとほとんど何も起こらないんですけど、ゲストハウスの住民が皆うさんくさくて、当たり障りのない会話を続ける中から、誰がスパイなのかと推測していくのは楽しかったです。

 結果として、わざとらしく怪しい人がスパイではなく、一番怪しくない (と作者が描こうとしている)人がスパイというある意味わかりやすい展開ではありました。

 

 あと、すごく印象に残ったセリフがひとつあって、トミーがタペンスについて語っているシーンなんですけど「どんなことであれ、いっしょにとびこんでいくんです──どこまでもいっしょに!」という部分。ここはトミーとタペンスの関係性を実によく表している素晴らしいセリフだと思いました。ちょっと泣きそうになりましたよ。二人の愛の深さとお互いへの理解も感じさせますね。

 

 こじんまりとまとまったスパイ探しの物語でしたが、ゲストハウスとその周辺というコンパクトな舞台が逆に良かったんでしょうね。ほどほどのおもしろさとほどほどの読みやすさで、軽く読むには良いと思います。

 

 

 

 

 

★★★☆☆

(※以下のレビューには物語の重要なネタバレが含まれていますので、未読の方はご注意ください)

 

 十二国記ファンのおそらく誰もが待ち望んでいた、戴国の驍宗と泰麒の行方を描いたエピソードが長き時を経て刊行されました。読むのがだいぶ遅くなりましたが、やっと読めました! 感無量!

 

 しかし、全四巻は長いですね。

 前半にあたる一、二巻がかなり手強かったです。とにかくストーリーが遅々として進まない。同じようなことを何度も繰り返し描写したり、「そのシーンそんなに尺いる?」というくらいそんなに重要でもなさそうな場面を長々と描写したり、おまけに全体的に陰鬱としているので、二巻読み終わるまでは本当にしんどかったです。

 敵側が「ぜんぜんやる気ない」「何考えてるのかわからない」という謎な態度で実情が見えてこないのも、勢いが削がれる一因かも。

 

 三巻あたりになると敵側の阿選の内面描写もあったり、こちらの勢力も整って反撃の動きが見えてきたりするのでだいぶ読み進められるようにはなりましたけど。正直、ここまでの長さはいらないですね。前半の無駄の多い部分はざくざく切ってもっとテンポよく進むようにして、全二巻くらいでおさめてくれた方が良かったです。

 おそらく前二巻で挫折する人がけっこういそう……。

 

 敵の阿選については最初は何考えてるのかわからなくてモヤモヤしてたけど、内面描写を読むとその思考過程には納得できるものがあって「人間くさいなー」とそんなに嫌悪感はなかったです。けど黒幕の琅燦については「何コイツ」な感情が湧き上がってきてイライラしましたね。

 自分の興味で実験したにしては被害が甚大すぎる。自分の好奇心のために戴の王と麒麟、官吏や国民を巻き込んで間接的に廃人にしたり命を奪ったりしたんですよね。しかも、それらを本人はとりあえず命の危険はなくて食べる物にも困らず、地位も補償された安全圏からやっているのがたちが悪い。

 あげくに「敵じゃない」とか言われて見逃されているなんておかしいんじゃないかと個人的には思いました。いやいや、敵じゃないどころかこいつは一番の極悪人ですよと。妖魔を故意に放って、国ひとつ落としかけてるわけですし。

 

 あと、泰麒が尋常ならざる麒麟であることの表現として、自ら人を殺傷するというのはまあわかるんですけど、自国の正統な王以外に叩頭はできちゃだめだろと。延王にできなかったっていうあのやり取りはなんだったの。

 「普通はできないけど、なんか気合でできました」というのにはあまりにも呆れる。自国の王以外に麒麟は叩頭できないというのは、世の理ではないの?

 

 なんか不満点ばかりを上げてしまいますね、すいません。

 あともう一点不満点を上げさせてもらえるならば、最後がまたちゃんと書かれてないことでしょうか。

 『月の影 影の海』のパターンですよね。本当に、一番肝心なところをなぜ書かないのでしょうか。ちゃんと最後まで書いていた『東の海神 西の滄海』はとてもおもしろくてきっちり完結されていたから、やっぱり最後までちゃんと書ききってくれた方がおもしろいと思うのに。

 今回は兵士、軍人とはこういうものという軍に身を置く者の生き様を描いている側面もあるわりに、戦争の流れが「援軍が来て勝つ」というのが十二国記の毎回のパターンなのもいまいちかなと。

 

 なんだか、すごく期待して待ち望んていたわりにはあまりおもしろくなかったかなという印象です。驍宗と泰麒が再会を果たしたクライマックスあたりは感動しましたが。

 

 

★★★★☆

 トミー&タペンスものの第二弾。一巻めの『秘密機関』から六年後。『秘密機関』ラストから結婚して夫婦となったトミー&タペンスが、上司のカーターからの要請で半年間探偵事務所を運営することになり・・・という話です。

 これだけ連作短編集の形をとっているんですね。各話どれも短めでサクッと読めるのが手軽で良いです。

 

 一巻の『秘密機関』をすでに読んでいる方は察せられると思いますが、基本的にトミー&タペンスものは本格的なミステリものではなく、スパイものとしてもそんなに深みもなくて、あくまでライトな雰囲気を楽しむシリーズです。

 かといって物足りないとかつまらないというわけではなく、カラッと明るく軽妙でユーモラスに進むので読んでいて安心感があるというか、鬱展開の心配もしなくてよいので気負わずに読めるのが魅力ですね。

 この『おしどり探偵』も全体的にミステリとしてはややおふざけ感がありますが、それもご愛嬌。

 

 また、この作品のおもしろさのひとつとして、他の探偵小説の登場人物の名前やオマージュがちりばめられていることが挙げられます。ホームズやブラウン神父、隅の老人などのメジャーどころから、日本ではいまいち名前が知られていないような探偵まで様々なので、ミステリファンの方はそれらのお遊びを見つけてみるのも一興でしょう。

 時々ポアロも出てきて、クリスティー自身がセルフパロディを楽しんでいるふうなのもおもしろいですね。

 

 『秘密機関』でトミーとタペンスの二人が好きになった方はぜひ読んでみてください。いちおう時系列的には『おしどり探偵』が二番めで『秘密機関』の続編ですが、長編を読むのが苦手な方は本書から読み進めていただいてもそんなに問題ないかと思います。

 

 

★★★★☆

 戦後再会した幼なじみのトミーとタペンス。お金のない二人は探偵事務所  (というか何でも屋?) を設立することにする。彼らはとある機密文書と「ジェーン・フィン」という謎の女性の行方を探すことになるのだが・・・という話。

 

 久々のアガサ・クリスティー。クリスティーのスパイ小説はポアロやマープルといった探偵小説とは一段劣る扱いを受けているのですが、このいわゆるトミー&タペンスものと呼ばれるシリーズはけっこう好きかも。

 

 とはいえ、おもしろいかどうかといえば・・・おもしろくないこともないのですが、やはり内容は深みがあるとか、読み応えがあるとは言いかねますね。

 良くも悪くもライトなんですね。良く言えばライトで軽妙。悪く言えば重厚さがない、設定の軽さが目立つ。

 

 なんかよくわからないけどすごく重要な機密文書 (この辺の説明がざっくりしすぎ) を巡っての若い男女の冒険なんですが、敵の黒幕がこれもまたなんかすごい人でその配下の組織の幹部たちもなんかすごい人たち、というあまりにもざっくりとした大味な設定。これには思わず苦笑が漏れそうになります。

 その割にけっこうまぬけで一般人のトミー&タペンスやその仲間たちによってわりとあっけなく出し抜かれ、壊滅させられてしまう。

 

 というわけで、ストーリーはあまりたいしたことはないのですが、それを補ってくれるのがキャラクターの魅力です。主人公のトミーとタペンスはどちらも魅力的で人好きのするキャラクターです。

 タペンスはお金大好き女性で最初は読んでいて「うーん」と思う時もあるのですが、自分と似てお金に執着心が強い女性に嫌悪感を覚えたり、お金持ちからのプロポーズを断ったりと、彼女なりの成長がうかがえる場面があるのが良かったです。

 相棒のトミーも温和なようでいてかなり行動力があったりと、この二人がイケイケで冒険に飛び込んでいく様はとてもおもしろかったです。

 残念だったのは、タペンスとトミーが作中ではほぼ別行動だったことでしょうか。二人の掛け合いが魅力的だっただけに、ほとんどの時間で二人同時にいたことがないのは惜しかったです。

 

 スパイ小説として読むと内容がいささかチープなので物足りなさはありますが、キャラクター小説、冒険小説として読むとけっこうおもしろかったです。トミーとタペンスの二人は好きなので、続きも引き続き読んでいこうと思います。

 それにしても、なぜプルーデンスという名前でタペンスになるのかがわからなくて気になります。作中でも説明がなかったので・・・。