★★★☆☆

 私立探偵フィリップ・マーロウは弁護士からとある女を尾行し、居場所をつきとめ報告するようにと依頼を受ける。依頼を遂行するなかで女と接触したマーロウだが、彼女が泊っているホテルのバルコニーで男が死んでいると告げられて・・・という話。

 

 この作品はレイモンド・チャンドラーによって最後に書かれた作品らしいです。なので、実質マーロウ・シリーズの最終回と言ってもいいのかも?

 マーロウものにあるいくつかの名言のうち「タフでなければ生きられない。やさしくなければ生きている資格がない」が出てくるのはこの作品ですね (作中の訳とは多少違います) 。

 

 前回読んだ『さらば愛しき女よ』に比べると、ちょっといまいちかなと。

 この作品には謎が大きく二つあるのですが、一つがマーロウが尾行することになる女ベティの素性。そして二つめがベティの宿泊するホテルの部屋で起こる殺人事件です。

 ふたを開けてみればどちらもそんなにすごい真相ではなかったのに、引き延ばし感が強かったです。

 ベティの素性の方はベティが自分から話せばそれで終わりの話だし、本編にたいして関係あるものではなかった。

 殺人事件の方も、犯人や消えた死体の謎を含めてもなんだか肩透かしでしたね。

 

 あと、マーロウがやたらと女性と関係を持ってしまうのもらしくなかったし、途中のホテル常連の老人の関係ない長話とか、エピローグで唐突にかかってくる電話の内容とかも、「うーん?」という感じでした。

 このあたりの "らしくなさ" はレイモンド・チャンドラーの人生観の変化ゆえなのかなと思うと興味深いですが、作品としての出来はいまひとつの印象がいなめませんでした。

 

  大金をもらう機会がいくつかあったのに、ことごとくそれを断るマーロウの不器用な真っすぐさなんかは、いかにもハードボイルドらしくて好きなんですけどね。

 

 

★★★★★

  銀行強盗の刑期を終えて出所してきた大男・大鹿マロイ。マロイが起こした殺人を目撃した私立探偵フィリップ・マーロウは、マロイと彼が探しているヴェルマという女性を探し出そうとするが・・・という話。

 

 久しぶりのレイモンド・チャンドラー。久しぶりのフィリップ・マーロウ。

 いやーいいものですね、ハードボイルド。乾いた文体と、シニカルなウィットに富んだマーロウ独特の会話。たまりません、心地よくてずっと読んでいられます。

 

 冒頭で殺人を犯す大鹿マロイが非常に印象的で、その彼が探しているという謎の女ヴェルマのミステリアスさが読者を惹きつけます。

 が、てっきりマロイが物語の主軸かなと思っていたのですが、実はマロイは冒頭と終盤以外はほとんどマーロウに絡んできません。物語のメインはその後マロイとは別件の首飾り盗難事件に移ります。謎の女ヴェルマの捜索もあまり進展がないままで、「あれ? マロイあんまり関係ない話?」と思いつつ読んでいくと・・・。

 

 終盤に驚くべき真相が! 実は一見まったく別物の事件だと思われていた首飾り盗難事件が冒頭のマロイとヴェルマの件と密接に関係していたことが明かされます。これにはやられましたね。「なるほど、そういうことなのね!」とポンと膝を打ちたくなりました。すべては繋がっていたんだなと。

 

 ラストはまさに『さらば愛しき女よ』というタイトルにふさわしい、哀愁のある幕切れだったのも非常に良かったです。エピローグまで読むと、このタイトルはマロイからヴェルマへの想いにかかっているだけではなく、「あの人」(重要なネタバレになるので伏せます)からヴェルマへの想いにもかかっているのではないかなと思いました。

 

 マーロウがあいかわらずちょいちょいひどい目にあっているにもかかわらず、その都度しっかり生還しているのが運が良いのやらタフなのやらで笑えました。主人公補正がなかったら絶対途中で死んでる。

 久々に読んだマーロウはやっぱりおもしろかったので、しばらくは積読していたシリーズを読み進めていくかもです。

 

 

★★★☆☆

 アガサ・クリスティーがメアリ・ウェストマコット名義で発表した非ミステリもののひとつ。

 夫を早くに亡くし、女手ひとつで一人娘を育て上げた穏やかな中年女性のアン。ある時、彼女は同じく早くに妻を亡くしたリチャードという男性と出会う。二人は結婚の約束を交わすが、アンの娘セアラはリチャードを激しく嫌悪し、二人の仲を引き裂こうとするのだが・・・という話。

 

 非ミステリなので他のクリスティー作品に比べると、正直少々退屈でした。やっぱり事件が起こらないとなぁ・・・と思いつつ最後まで読み切りましたが、思ったのは今も昔も人の日常的な悩みや考えていることは変わらないものなんだなということでした。

 ストーリーの筋的には、再婚したい中高年の女性がいて、でも彼氏と娘の折り合いが悪くて・・・というよくあるお悩み相談を小説にしたようなお話です。彼氏と娘の板挟みになる主人公が気の毒で、読んでいてずっとつらかったですね。

 

 とはいえ、誰が悪いというわけではなくて、主人公・彼氏・娘の三者三様の立場から見たら無理もないなと思うんですよね。主人公の立場としては彼氏と結婚したいけど娘のことも大事。彼氏としては主人公との生活が第一で娘ともそこそこ仲良くいようとは思うけど、正直仲良くできないなら離れて暮らしてほしいと思っている。娘からしたら、急に知らない男性が自分と母との生活に入り込んできて疎ましい。

 わかります、どの感情もわかるんですよね。だからこそいたたまれない。

 

 しいていうなら娘のセアラの性格のきつさが難ありかなと思うのですが、アンにとってセアラがいつまでも「娘は娘」と思うように、セアラにとってアンはいつまでも「母は母」なんですよね。だから母の女性としての気持ちがわからないし、ないがしろにしてしまった。かといってセアラは母の女性としての性を否定しているわけではないんですよね。それは否定してはいないんだけど、母親をとられる不安とか嫉妬がリチャードを攻撃することに繋がってしまった。

 それでも娘の立場としてのセアラの態度はまだ "理解できる" 範囲だったんだけど、やはりあのリチャードを「覚えていなかった」という事実はあまりに残酷な一撃でしたね。

 残酷といえば、後にアンとリチャードの再会を描いたのもすごく残酷ですよね。序盤で二人で訪れた公園でリチャードが心の中で死んだ妻と静かに決別するシーンがあるのですが、そのシーンが非常に美しく印象的だったので、その後の再会が余計に残酷に感じられました。

 

 最後はなんだかんだお互いにすべてをぶちまけ合った親子喧嘩でハッピーエンドという感じでしたが、もしリチャードがセアラのボーイフレンドのジェリーのように、アンをけして諦めなかったらまた違った結末を迎えていたのかなと思ったりもしました。

 ラストでさらにアンの母親的な存在であるイーディスを出してくるところなんか上手いですね。まさに「娘は娘」、アンもまたイーディスにとってはそうだったように。

 

 

創世記 H・ビーム・パイパー ★★★★☆

 乗っていた植民目的の探査船が爆発し、急遽手近な星へ着陸した乗組員の数名の男女。宇宙船を失い、もはやこの未知の星に骨を埋めるしかないと悟った彼らは、数少ない銃と弾薬を温存しながらサバイバルを開始するが・・・という話。

 

 乗組員たちが一人また一人と死んでいく様子を淡々と描いているのが、逆に現状の過酷さを物語っているようですね。最後に隊長が自己犠牲によって死んでいくシーンは物語的にはお約束なのですが、そこから次世代へと繋がっていくシーンには感動を覚えました。

 精神が耐え切れずに狂ってしまった女性を足手まといと排斥するのではなくて、みんなで守ってやさしくしていこうというのも良かったです。

 

 「創世記」というタイトルがなるほどな、と。地球人が逆に地球人ではなかったというオチはおもしろいです。

 普通に一本の映画として制作しても見ごたえがありそう。

 

黒い破壊者 A・E・ヴァン・ヴォクト ★★★☆☆

 未知の星へ降り立った探検隊のメンバーが謎の猫型大型獣に襲撃される話。

 最初はただの野生の獣かと侮っていたら、実は高い知能ととんでもない能力を持った動物で・・・という話。

 

 探検隊のメンバーの中では認知されていなくて隅に追いやられがちな人物が、事態を解決に導くというのがいいですね。猫が優秀な頭脳と身体機能を持っていながらも結局は人間に敗れてしまった理由もおもしろい。逆に言うと人間が勝てたのは彼らが地球においての〈建設者〉だったからということでもあるのかもしれませんね。

 

逃亡者 クリフォード・D・シマック ★★★★★

 これはショートショート的で一番読みやすくておもしろかったですね。

 木星の調査のために、木星の環境で生きられるように別次元の生物になってしまった男と犬の話です。

 オチがなんとなくユーモア小説風でもあるし、皮肉もきいている。

 別次元の生物になったことによって長年連れ添ってきた犬と会話ができるようになり、犬に「あの崖まで駆けっこしようぜ」って誘われるところが、なんか泣けました。

 

総評 ★★★☆☆

 アンソロジーのテーマ的に、探査船が未知の星もしくは異星人に出会うという物語というのがどの作品にも共通しています。そこから各作者によって様々なアプローチがされていて、前提になる設定は同じながらそこからどんな物語が展開していくのだろうかというワクワク感がありました。

 

 日本ではあまりなじみのない作家が多い中、最後のシマックはやはりおもしろいなと思いました。スッと読ませる上におもしろいのは流石だなと。

 手持ちの福島正実編の海外SF傑作選はあと一冊なので、また折を見て読みたいと思います。

 

 

宇宙翔けるもの イワン・エフレーモフ ★★★☆☆

 スリープとワープを繰り返しながら航行する宇宙探査船がついに未知の星から来た宇宙船と出会った。

 彼らはスクリーン画像やジェスチャーを使ってなんとか互いに意思疎通の努力をし、お互いの生態や知識の交換を図るが・・・という話。

 

 未知との遭遇ものですね。広大な宇宙へ乗り出し、まだ見も知らぬ星の住人との文化交流を求めて旅立った乗組員たちの話です。

 この乗組員たちはワープを繰り返しながらはるかな距離を移動しているのですが、彼らにとってはスリープしている間の一瞬のようなワープでも、その間に母星である地球では何百年という時が過ぎ去っているという設定です。

 なので、彼らが帰還する時には家族も友人もはるか過去にみんな死んでしまっていて、地球ではかなりの文明が進んでしまっていることになります。そういう孤独や覚悟を背負っている人たちなんですね。

 

 そんな彼らがまったく未知の生態も文化も大きく異なる異星人と出会い、真摯で誠実なつかのまの交流が始まります。幸いなことに異星人の宇宙飛行士たちの方も善良でまじめな人たちなので、お互いが誠意と礼儀を最大限つくしてやりとりを交わす描写は本当に胸を打ちます。

 

 残念ながらあまりに生態が違い過ぎることに絶望する両者ですが、別れの間際にひとつの小さな希望が提示され、これからの明るい未来の兆しを相手方の異星人に与えることができました。

 やさしい世界・・・。

 

最初の接触 マレイ・レンスター ★★★☆☆

 こちらも先の「宇宙翔けるもの」とストーリーはだいたい同じです。

 宇宙探査船が広大な宇宙空間で未知の異星人の乗った宇宙船と出会い、束の間の交流が始まります。

 ただ、違う点は「宇宙翔けるもの」が最初から最後まで友好的・平和的な交流だったのに対し、こちらは戦争の危機をはらんだ緊迫感がありました。

 ただ、どちらの側も基本的には善人だったので、なんとか戦争の危機を回避しようと知恵をしぼります。そこでお互いが提案した方法とは・・・という話です。

 

 舞台を宇宙へ移しても、ジョークとユーモアが仲良くなる秘訣ということでしょうか。

 ただ、この解決法だとお互いの母星へ帰還した時にうっかり迎撃されてしまわないか、ちょっと心配になります。

 

宇宙の漂泊者 アレクサンドル・コルパコフ ★★★☆☆

 未開の星へ降り立った少数精鋭の探査船メンバーたち。しかし、一人の乗員のうかつな行動により、主人公を残してメンバーたちは瀕死の状態に陥ってしまう。仲間を救うため、主人公は孤軍奮闘し一人で宇宙船を操縦しながらなんとか帰還を果たそうとするのだが・・・という話。

 

 これも「宇宙翔けるもの」と同じように、宇宙を航行する影響で母星へと帰還する頃には何百年という途方もない時間が経ってしまう設定の物語です。

 とにかく突然の事態により、いきなり一人で何もかもやらないといけなくなってしまった主人公の頑張りが、もう大変すぎて「ほんとよく頑張ったよ・・・」ってなります。自分だったら途中でしんどくなって諦めて、とりあえず全員じゃなくてリーダーと好きな人以外は放っていくかもとか思っちゃいました (笑)

 

 原因を作った、あの海洋生物をいきなり撃っちゃったやつは本当にお説教されてほしい。目覚めた後メンバー全員に袋叩きにされても文句は言えないと思うレベル。