売主婦禁止法 ★☆☆☆☆

 これは読んでいてなかなかに不快な作品でした。

 今の時代だと炎上しそうな内容ですね。

 

時間エージェント ★★★☆☆

 八作の連作短編から成っていて、この本のほとんどのページを占める作品です。

 ひょんなことから歴史の犯罪や改変を取り締まるタイム・パトロールになった主人公の青年と、セクシーボディの女性上司マリらが繰り広げるSFタイム活劇。

 

 軽いタッチでユーモラスな、なかなか楽しい作品です。この時代にウケそうな昭和お色気展開もあって。こういうのはドラマ化されてもきっと楽しく観られそう。もしかしたらドラマ化されているのかもしれませんが、どうなんでしょうか。

 ・・・と思って今調べましたが、ドラマ化も漫画化もされているようです。

 しかもコミカライズの作画はなんとあのモンキー・パンチ先生らしいです。諸事情で三話で終わってしまったというのがなんとも・・・ですが。

 

 楽しく読ませていただいてたのですが、最後がけっこうヘビーな展開で「え・・・?」となりましたね。所長のマリが・・・。そんな悲しい展開あるの、って。

 マリに関してはその後歴史のどこかで見つかったとかそういう展開はなくて、マリの代わりの女性枠に主人公の許嫁がぽっと出てきて終わりって・・・。

 もし「時間エージェント」がもう少し続いていたら、マリが救出される可能性もあり得たかもしれませんね。

 

愛の空間 ★★★☆☆

 あらゆる物質に対してエロティックな衝動を感じずにはおれなくなった人類の新しい世界が開かれた作品。

 

 特殊な性癖が炸裂したカオスな展開がおもしろいです。

 本当のところはどうかわかりませんが、小松左京先生の筆がすごくのってるような、楽しそうに書いているような感じがしました。

 世界が大きく変化しても、それはそれで適応してその世界の喜びを享受している人類が、とても強いものであるように思えますね。

 

総評 ★★☆☆☆

 小松左京の短編集、昭和五十年発行です。

 やはり昭和の時代を強く感じさせるSFで、エロティック要素多め。

 その時代の偏見とか価値観が垣間見られるのは興味深い。

 古い価値観ゆえに読んでいて「うーん?」となる箇所もありますが、それはそれとして、作品の持つユーモアを感じ取って楽しめばいいのかもしれませんね。

 

 

四次元トイレ ★★★☆☆

 パラレルワールドもの。

 SF小話といったところか、軽妙で勢いというかスピード感があっておもしろかったです。

 オチはまあまあお約束な感じだけど、予定調和の楽しさがある。

 

辺境の寝床 ★★★☆☆

 これは以前に読んだことがありますね。たぶん個別に感想を書かなかったショートショート集か短編集に収録されていたものかな。

 

 得体の知れない星の住人に連行・拘束された緊張感からのユニークなオチという脱力感がおもしろい。

 

米金闘争 ★☆☆☆☆

 税金を米で支払うようになる社会を描いた短編。

 現実にはありえないだろうなという感じがあって、その突飛さにいまいち面白味は感じられなかった。昔は米で税を納めていたという歴史はありますけど、それをまた現代社会でやるのはまず無理ですしね。

 

 現代社会って税金高いですけど、昔の人たちも当時やっぱり税金高いなってぼやいてたんだなと思うと、そういう意味ではおもしろかったですが。

 

なまぬるい国へやって来たスパイ ★★☆☆☆

 スパイものらしからぬほんわか平和的なオチがおもしろい。この「ゆるさ」を「なまぬるい国」としたのがいいですね。

 

 

★★★★☆

 ついにトミー&タペンスシリーズを読み切ってしまいました。最終巻の『運命の裏木戸』です。

 老年となり、隠居のための家を買った二人。タペンスが新居で前の住人から譲り受けた古書の整理をしていると、ところどころ単語に線が引かれているのを発見する。それは暗号で、解読すると「メアリ・ジョーダンの死は自然死ではない」と記されていることが判明する。持ち前の好奇心と行動力はまだまだ現役のタペンスは、はるかな昔に殺されたであろうその女性メアリ・ジョーダンに関する情報を集め始めるが・・・という話。

 

 これはスパイ小説であるうえにミステリ小説でもありますね。全体的にはミステリの雰囲気が強い。筋書きがメアリ・ジョーダンという何十年も前に亡くなった女性の死の真相を探るというものですからね。

 とはいえ、彼女がなくなったのは老齢のタペンスが幼少の頃の時代らしいので、現状ほとんど手がかりはない状態。

 調査をどのようにするかというと、タペンスはとにかく周囲の住人に昔のことを聞きまわります。

 この物語はほぼ聞き込みで調査が進行していく感じで、人々の頭の中に埋もれて半ば忘れ去られていた古い記憶を掘り起こすことによって、少しずつメアリ・ジョーダンという女性が何者であるのかが浮き彫りになっていきます。

 タペンスに昔のことを尋ねられた人が次は「あの人ならもっとくわしいことを知っているのではないか」と新しく人を紹介してくれたりして、芋づる式に情報網が広がっていくのがおもしろいですね。まさに人脈の勝利という感じで。

 タペンスだけではなく、トミーの方も昔の諜報部員時代のツテを頼って別方向から情報を収集したりと、彼もなかなか役立ってくれています。

 

 そんな感じで人と人との繋がりと記憶力の力によって真相へと近づいていこうとするストーリー展開は読んでいてけっこうおもしろいのですが、いかんせんやはり昔の思い出をたどるだけではいまいち真相へと行きつくことができなかったのは少し残念でした。

 結局は終盤にぽっと出てきた人物が犯人というのは、かなりがっかりでしたね。主な登場人物の欄にいない人が犯人・・・。これでは推理のしようがないです。

 メアリ・ジョーダン不審死の方の犯人の真相を掴んだのは厳密にはトミーとタペンスではないですしね。最後に諜報部の人がザッと説明して終わりとは。 

 

 あと、メアリの死を本の暗号で告発したアレグザンダー少年がなぜ一人だけメアリの不審死に気づいたのかや、彼の正確な死因の記述などもなかったのも物足りませんでした。この過去の事件はメアリの死の不審さに気づいたアレグザンダー少年も若くして (おそらく) 殺されてしまうという悲劇的な事件なので、もう少し詳しく描写されたらかなりドラマティックになると思っていたので惜しいですね。

 

 というように、終盤が尻すぼみなのがとても残念でしたが、全体的にはスロー展開ながらも楽しく読めました。

 最終巻では七十歳くらいという高齢になったトミーとタペンスですが、あまり老齢を感じさせるような描写がなく二人ともめちゃくちゃ元気に動き回っているので、これまでの若い頃のエピソードを読んでいるのとそんなに雰囲気はかわらなかったです。タペンスが順当におしゃべりおばあさんになっているなと思って微笑ましかったくらいで。

 

 二人の弟分のアルバートも皆勤なのが嬉しかったですね。作中に登場したヘンリーが初登場時のアルバートを彷彿とさせる少年なのも良かったです。

 

 トミー&タペンスシリーズはなんといっても主人公二人のキャラが良かったので、全作品スイスイ読み進められました。ポアロやミス・マープルに比べると知名度が低めですが、クリスティー作品が好きな方には充分オススメできます。

 

 

犬 ★★★☆☆

 ある日、男がバーで飲んでいると店内に黒い犬が入ってくる。犬は男の足にまとわりつき、彼がバーを出てからもついてきた。そればかりか、犬はタクシーの中や家の中、会社の中など、ありとあらゆる所、男の後を追うように姿を現した。やがて男の精神は限界を迎えていき・・・という話。

 

 悪魔的な話かと思ったら、意外と拍子抜けな微笑ましい (?) 真相のオチでそのギャップがおもしろい。

 人間とは得体の知れないものを怖がってしまうものですが、その正体を知ってしまえばそんなには怖くなくなる場合もありますね。

 犬ももう少しなんとか意思疎通を計れて事情を説明できていれば、人間も見学くらいはさせてくれたかも?

 

ハーモニカ ★★★★☆

 文化の急速な発展により、世代間で言葉が通じなくなったり、新世代が使いこなせているツールを理解できなくなっていく社会を描いているのですが、これもうまんま現代社会ですよね。

 たとえばスマホとかセルフレジとかがそうかな。社会がもうスマホやセルフレジを使いこなすことを前提としてきているので、お年寄りなどが生活の上で困るようなことが出てきている。

 

 ラストで古い歌をハーモニカで奏でるシーンの哀愁がすごいです。

 

変貌 ★★☆☆☆

 これは以前読んだことがあったような気がして調べてみたら、『ふかなさけ』というショートショート集に収録されていたものですね。その時は作品ごとに個別に感想を書いていないので、いちおうここで書いておきます。

 

 未来的な生活様式で育てられた青年を、古い時代の生活に近い暮らしをしてきた女性が成熟に導くお話です。

 青年がともかくどこかへ旅をしたいと思い、それはどこかというと、大人になる旅だったというのが印象的ですね。人生は成熟への旅である、というような。

 

 とても短いお話ですが、どこか不思議でふわふわっとした作品です。

 

総評 ★★★☆☆

 かなり古めの小松左京の短編集です。奥付を見ると昭和五十年発行です。

 昭和の時代を感じる内容と文章で、当時の時代背景を感じられるのがおもしろいです。

 最初の収録作品の「涅槃放送」なんかは昭和のテレビ文化がコミカルに描かれていておもしろかったですし、「ハーモニカ」などは文化の急速な発展による世代間の断絶を描いていて少々危機感も覚えます。

 

 今読むとやっぱり古さを感じますが、むしろそれを楽しむのがよいのではないでしょうか。

 

 

少女を憎む ★★★☆☆

 少女へのキラキラとした憧れと生々しいセックスへの渇望の間で揺れる少年~青年期の心を描く。

 健康的なエロスと、鬱屈した肉欲への憎悪にも似た執着を、戦後の混沌とした混乱期を背景に一人の男性の視点で描いた何とも言えず後引く物悲しい物語でした。

 

 ラストの悲劇は少女にはもちろんのこと、主人公の青年にも同情するけど、主人公は自分とは関係のない女性が同じ目にあっててもスルーなのに、いざ自分が思いを寄せていた女の子がそういう目にあうとたちまち打ちひしがれてしまうのは、正直なんだかなぁと思わなくもないですね。

 まぁあくまで赤の他人のことなら他人事、というのは人間の常ではありますけども。あと、戦後のカオスな時代背景もあるし。

 小松左京の作品には戦中戦後の混沌とした悲壮感を描いた作品がけっこうありますね。そういう物語を読むたびにやるせない気持ちになります。

 

長生きの秘訣 ★★★☆☆

 老人専門の雑誌を発行する出版社の記者が、とある村にいる長生きな老人を取材しようとするが・・・という話。

 

 これはわりとわかりやすく素直に読める、いかにもなSF怪奇短編。

 

 長寿ではあるけど不老ではなく不死ではない。いくら長生きできるとはいえ、事故や絶望がそのような特殊な人々をも殺してしまうという事実が悲しいですね。

 

闇の中の子供 ★★★☆☆

 表題作。幻想的なホラーです。

 中盤が歌舞伎のある作品に対しての、単なる作者の批評になっているのが退屈。

 創作、史実含めて様々な子供たちの亡霊が現われてくるところは圧巻。

 ラストの描写も物悲しい余韻を残します。