★★★★☆
戦後再会した幼なじみのトミーとタペンス。お金のない二人は探偵事務所 (というか何でも屋?) を設立することにする。彼らはとある機密文書と「ジェーン・フィン」という謎の女性の行方を探すことになるのだが・・・という話。
久々のアガサ・クリスティー。クリスティーのスパイ小説はポアロやマープルといった探偵小説とは一段劣る扱いを受けているのですが、このいわゆるトミー&タペンスものと呼ばれるシリーズはけっこう好きかも。
とはいえ、おもしろいかどうかといえば・・・おもしろくないこともないのですが、やはり内容は深みがあるとか、読み応えがあるとは言いかねますね。
良くも悪くもライトなんですね。良く言えばライトで軽妙。悪く言えば重厚さがない、設定の軽さが目立つ。
なんかよくわからないけどすごく重要な機密文書 (この辺の説明がざっくりしすぎ) を巡っての若い男女の冒険なんですが、敵の黒幕がこれもまたなんかすごい人でその配下の組織の幹部たちもなんかすごい人たち、というあまりにもざっくりとした大味な設定。これには思わず苦笑が漏れそうになります。
その割にけっこうまぬけで一般人のトミー&タペンスやその仲間たちによってわりとあっけなく出し抜かれ、壊滅させられてしまう。
というわけで、ストーリーはあまりたいしたことはないのですが、それを補ってくれるのがキャラクターの魅力です。主人公のトミーとタペンスはどちらも魅力的で人好きのするキャラクターです。
タペンスはお金大好き女性で最初は読んでいて「うーん」と思う時もあるのですが、自分と似てお金に執着心が強い女性に嫌悪感を覚えたり、お金持ちからのプロポーズを断ったりと、彼女なりの成長がうかがえる場面があるのが良かったです。
相棒のトミーも温和なようでいてかなり行動力があったりと、この二人がイケイケで冒険に飛び込んでいく様はとてもおもしろかったです。
残念だったのは、タペンスとトミーが作中ではほぼ別行動だったことでしょうか。二人の掛け合いが魅力的だっただけに、ほとんどの時間で二人同時にいたことがないのは惜しかったです。
スパイ小説として読むと内容がいささかチープなので物足りなさはありますが、キャラクター小説、冒険小説として読むとけっこうおもしろかったです。トミーとタペンスの二人は好きなので、続きも引き続き読んでいこうと思います。
それにしても、なぜプルーデンスという名前でタペンスになるのかがわからなくて気になります。作中でも説明がなかったので・・・。