『帰ってきたウルトラマン』第31話〜第40話 ざっくり感想
【第31話】
「悪魔と天使の間に…」(宇宙怪人ゼラン星人・囮怪獣プルーマ登場)
まずタイトルが秀逸。地球侵略を狙って子どもの姿を借りてやってくる悪魔=宇宙怪人。その悪魔を、そうとは知らずに信じ、庇護しようとする伊吹隊長の娘さん=天使。悪魔と天使、その間で葛藤するウルトラマンという構図が、本当に良くできている。人間の信頼関係を攻撃する物語は、やはりセブンの「狙われた街」が代表だろうし、子どもを利用して手出しをさせないようにする手段は「アンドロイド0指令」でもあったけれど、今回は双方の美味しいところ取りという感じで、子どもに対する「無垢であろう」という絶対的な信頼こそ、今回の悪魔が攻撃した部分。しかも、それによってウルトラマン=郷秀樹を窮地に立たせる計画の、なんと陰湿しかし効果的なことよ。ウルトラシリーズの中でも、今回のゼラン星人の作戦は、ウルトラマンのかなり痛いところを突いているし、それによってMAT内で起きる衝突や郷の窮地も、無理やりな展開とはなっていない。人物の描き方も見事で、伊吹隊長だって端から郷に対して全面否定の態度で臨んでいるわけではないし、郷もそんな伊吹隊長に信じてもらいたい気持ちはあるのだけれど、自分の正体だけは絶対に明かせない手前、どうしたって立場が悪いことになってしまう。怪獣との戦いや、まさかの裏切るウルトラブレスレットなど、後半戦の戦いも見どころだったけれど、個人的にはこのゼラン星人の作戦のリアルさ、おぞましさだけで十分満足できた。しかも、子どもを利用してるって辺りがもう子供向けの特撮娯楽作品の枠を飛び越えてしまっている印象。子どもに化けていたゼラン星人の最期の描き方も本当にゾッとした。あんまり語られることのない話だけれど、いやいやいや! 帰ってきたウルトラマンの中でもショック度はずば抜けている。
【第32話】
「落日の決闘」(変幻怪獣キングマイマイ登場)
これは――中々捉えどころのない回。基盤となるストーリーはけっこうシリアスで、父親を失い、孤独から荒んだ子供というと、エレドータス回やザゴラス回を思い起こさせる。岩山の狭間に入り込んだ少年が、自分の父親の亡骸を見つけるなど、キッツいところもあるんだけれど、テイストがコミカルというか、後年のウルトラマンタロウみたいに上野隊員がどひゅーんと飛んで行ったりして、何だかよく分からない(笑)。冒頭の、MATってバレたら大変だから変装して行こうみたいなくだりで、伊吹隊長も妙ににっこにこしている。この無理やりな牧歌的雰囲気は、もしかしたら第31話がシリアスすぎたことによる緩和の意味合いなのかもしれない。変態を遂げるキングマイマイは中々に面白い怪獣だったし、落日の決闘は最高に美しかったけれど、変態怪獣ならではの魅力には欠けていたし、死んだフリの展開に時間がかかりすぎていて、アクションに乏しかったかなあ。最後は過去に踏ん切りをつけた少年の成長が分かるハッピーエンドだけど、それが上手く機能しているかどうかは……。根底にあるものは良いんだから、コミカル演出を全て割愛して、「怪奇大作戦」の「霧の童話」みたいに僻村での少年の成長モノとした方が良かったかも。でも、それだとザゴラスと被るのかなあ。
【第33話】
「怪獣使いと少年」(宇宙調査員メイツ星人・巨大魚怪獣ムルチ登場)
ああああああああ遂に――! この回が来てしまった。もう、「帰ってきたウルトラマン」全51話中最重要の最大問題作。ウルトラシリーズで差別や村八分をここまで惨たらしく描いたストーリーは他になく、最悪の結果になるまでを容赦なく見せる。脚本が上原正三や作り手の怒りの叫びが聞こえてきそう。ただ、そんな中にも少年に心を開いてくれる人間は確かにいて、そういうところの描写のバランスがもうトンデモなく見事。実はもっとえげつないシーンがあったらしいけど、茶の間に流せないということで割愛されている部分もあるらしい。いや、本編にあるものだけで十分ですよ。本当に人間が嫌いになる話で、豪雨の中でムルチと闘うウルトラマンの姿にも、これまでにない悲哀の影が感じられる。特撮場面については、これまでの33話の中で最も見ごたえのある長回しアクションがあって、このシーンのためだけに何度も観返す価値がある。どれほどカメラがパンしても続く街のジオラマの中で、縦横無尽に戦い、時にはこっちに向かってムルチをぶん投げてくるウルトラマン。基本一回勝負の特撮アクションで、CGも使わずにあの画を作り上げるのは、もう神がかりとしか言いようがない。ムルチの造形も素晴らしいし、怪獣関係は何から何までもう絶賛。あと、少年と宇宙人の関係や設定もしっかり考えられていて、メイツ星人が地球の大気汚染のために体を害しているという設定も入れ込み、また別のところで人間の業の切実さを浮きぼらせてもいる。少年と郷秀樹との関係も同様に秀逸で、お互いに孤独の身寄りでありながら、郷に「自分にはMATという家があり、隊長という父がある」と言わしめたり、人間への不信で動けなくなる郷を諭すのが他ならぬ伊吹隊長であり……この辺には、不覚にも涙が出てしまった。最後、全てを失った少年が「地球を捨てる」ために穴を掘り続ける、本当に救いのない姿を逃げずに見せて物語は終わる。――これ一つで見事に完結した一作。後年、メビウスでこれを引き継いだ話があったけど……いや、やっぱりこれはこれ単体で、永遠のマスタピースとして語り継がれるべき。
【第34話】
「許されざるいのち」(合性怪獣レオゴン登場)
原案は、「VSビオランテ」の原案と同じ人だそう。そう言われてみれば、植物と怪獣の合成とか、作られた命であるところとか、近いものはありますね。ウルトラマン「謎の恐竜基地」と同じようなものだけど、許されざるいのちを作ってしまう博士が、郷の昔馴染みというところで郷の個人的な人間ドラマがより深く掘り下げられている。恐怖の研究に妄執する水野博士。次郎君が訪ねていくところで、その狂気っぷりを仄めかすなど、演出が匠。なぜ彼がここまで自分の研究に拘泥するかは明確には語られていないけれど、亡き父との確執があったのだろうとか、命以外の全てを打ち込んで挑んでいるのだろうとか、そういったことをこっちが読み取れるようになっている。だからこそ、彼の最期にも納得ができ、同時に悲痛を感じることができるいうもの。レオゴンは帰ってきたウルトラマンの中でも、イケメンフェイスな怪獣で、水中での戦いに四足歩行怪獣を持ってくるのもけっこう斬新な気がする。あと、この回はMATの出撃シーンが最高にカッコよくて、全員が集まったところから伊吹隊長の「出動!」で動き出し、伊吹隊長の指示が飛ぶ、あの諸々の動きのスピードがプロフェッショナルさを出している。湖畔を舞台にしたMAT攻撃シーンも見ごたえがあり、その後のウルトラマンとの死闘や、忍者のようにレオゴンを切り裂くアクションにハッとさせられるところも。これまで、子供が怪獣に思いを託す展開は何度かあったけれど、大人が怪獣に固執し、暴れさせる展開は、新マンでは初めてのこと。水野の最期の描写なども含めて、「謎の恐竜基地」以上に突き放した感があった。「許されざるいのち」――題名に偽りなしで、腕を組んで考えてしまう、とにかく味わい深い一作。
【第35話】
「残酷! 光怪獣プリズ魔」(光怪獣プリズ魔登場)
プリズ魔の設定がまず面白い!! 岸田森さんが(別名義で)手がけた脚本で、科学的な興味が全体の裏付けになっている。光が物質化されるまで凝縮された「光怪獣」なんて、普通思い付かないよ。インパクトば絶大だし、何より強い! 怖い! あの歌うような声はトラウマになるし、正体が凝縮された光だから、生物的な感情が感じられる、そういう意味での容赦なさや残酷さが、めちゃめちゃ上手く表現されている。ウルトラマンは二度戦い、1回目は完全に敗北。2回目も一か八かの賭けでようやっと勝てた、というくらい追い詰められていた。大正を光に変換して吸収するというプリズ魔の設定も上手くできていて、大規模な破壊シーンがなくてもプリズ魔の脅威を伝えることができているし、幻覚のようなシーンなど、光学を多彩に使った工夫が楽しい。最終決戦がスタジアムってのも珍しいよね。あれはロケだったんでしょうが、1ショット、観客席通路から進行するプリズ魔を撮ったのがあって、あれの臨場感が素晴らしかった。次郎くんの実験や失敗が、全部プリズ魔攻略の鍵になっているなど、分かりやすい伏線の機能も見事。同じ不定形怪獣として不動の地位を保つブルトンの「四次元へのパスポート」同様、制約が多い怪獣デザインだからこそ、特撮技術とストーリーに優れたものが光る傑作に仕上がっている。
【第36話】
「夜を蹴ちらせ」(吸血宇宙人ドラキュラス登場)
「血を吸う」シリーズの死美人と、ウルトラマンの世界観を上手く融合させた快作。特に死んだ娘をめぐる親の妄執と、その娘が夜な夜な血を求める展開は、東宝恐怖映画の傑作『血を吸う人形』に通じるものがある。本作は更に、吸血鬼の伝承を利用(?)した宇宙人の通り魔的犯行であるという真相が加味されていて、そこが面白い。ドラキュラスの目的が、人間の女性を減らすことによる人類絶滅である(まあ、ジュラル星人並みに回りくどい)ところも、ウルトラマンらしくて好きなところかな。新マン全体の中ではそれほど有名なエピソードではないけど、MATの描写に富んでいて、調査のシーン、円盤攻撃シーンなど活躍の場も多い。ウルトラマンとの戦闘は、空中戦をも駆使した大規模なアクションが見物。ただ、『侵略者を撃て』と同じ構図が多い分、見劣りがするのも事実かな。あと、ドラキュラスが光に弱い理由も、科学的に明らかにしてほしかったところ。途中で死美人と父親の関係を出して、最後にそれをしっかり回収する、物語としての締め括りはとても良かったし、辛い話で終わるところを、坂田家でのひと時で和らげる「お口直し」も良かった。それだけに――次の話で――。
【第37話】
「ウルトラマン夕日に死す」(用心棒怪獣ブラックキング・暗殺宇宙人ナックル星人登場)
ついに来てしまったか――。あまりにも衝撃的な別れ。ここまでのウルトラシリーズで、坂田家級の登場人物の退場ってなかった気がする。だけに、えぐさが増すというか何というか……。正直、中盤のシーゴラス戦とかベムスター戦とか、使いまわしはどうでも良くて、ナックル星人の卑劣な罠にかかって、本当に容赦なく死んでしまう二人……。てか、アキのやられ方は相当むごい。ウルトラマンが幅広い年齢層に向けて作られたものであることが分かる一本だけど、これまでなんだかんだ言って牧歌的だった世界観では、もう臨界点ギリギリアウトなところまで行っている気がする。今見ても相当に辛いんだけど、でも別れのシーンも、ウルトラマンを痛めつけるシーンも、逃げずに最後まで描きぬくことで、やっぱり特別な一作になっているし、夕日バックの死闘は、えげつなくも美しい。用心棒怪獣ブラックキングはさすがの強さで、ウルトラマンの技を悉く撥ね返し、精神ズタボロのウルトラマンをこれでもかと痛めつける。そこに憎きナックル星人も加わって――落日と共にウルトラマンは敗れ、運ばれる姿を人々が目撃する。凄まじい絶望感を引きずったまま、物語は第38話へ――。
【第38話】
「ウルトラの星光る時」(用心棒怪獣ブラックキング・暗殺宇宙人ナックル星人登場)
ウルトラマン不在の時にMATが大活躍!! を期待していたけど、ナックル星人が一枚上手だったね。助けてくれたのはウルトラマンとセブン。ここでのBGMとか、二人の登場シーンとか、やりたいことは伝わって来るけど、表現技術が追い付いていない感じ。客演ウルトラマンの登場は少々ドライかつ早々に切り上げ、あくまでも新マンひとりの戦いに絞っているのは、良いところかな。次郎君の登場が最後だけってのはあんまりだし、そこでお向かいの女性を大写しにして満足そうな郷を映してしまうと、作り手の思惑とは別のやだみを感じてしまうことにも。前回、あまりにも辛く悲しい別れを描いたからか、本作ではもう少し明るい感じを出そうとしているのかも知れないけれど、空回っていて、登場人物たちの感情の置き所がよく分からないことになっている。さすがに今回のMATは能天気すぎるし、郷への配慮がなさすぎる。ここまで希釈するんだったら、二人を殺す必要はなかったんじゃないかと、坂田家推しとしては、どうしても不満に思ってしまうところ。前後編の構造で、前半であれだけのことをやったんだから、どんなに暗くなろうと、最後まで喪失の哀しみに向き合った上での物語とするべきだと――大人になった今なら思うのだけれど。
【第39話】
「冬の怪奇シリーズ 20世紀の雪男」(雪男星人バルダック登場)
前2話のインパクトがあるから、どんな話を持ってきても霞むのは仕方がない。そんな中で、「怪奇シリーズ」と銘打って、最初期の怪奇テイストを持ってくるのは中々だし、序盤のMAT内での牧歌的雰囲気がお口直し的に心地よい。特に今回は、隊長の人間味が感じられて良い。正月ってこともあって、ちょっとした華々しさがあるのも、お隣さんから郷が独自に捜査を進めていくのも、地で行くような展開になっていて時々『新マン』の話の中にある探偵的な味わいが、個人的には好ましかった。あと、『新マン』の宇宙人は、いちいち作戦が回りくどくて楽しい(笑)。240年前からずっと地球にいて調査していたとか、まあ気が長いこと。ゼラン星人やナックル星人のように、下劣でえげつない宇宙人もいるかと思いきや、バルダック星人やドラキュラスのように変に人間臭い宇宙人がいるってのも面白い。バルダック星人の冷凍光線を、コマドリアニメーションで表現していて、そのぎこちなさが時代を感じられる。ウルトラマンとの肉弾戦は、スローモーションを使ったアクロバティックなものに。さらにはMATチームとの共闘など、この一本の中に面白味が詰まっている。だけに、ラストはもう少しケレン味のある展開が欲しかったかな。
【第40話】
「冬の怪奇シリーズ まぼろしの雪女」(雪女怪獣スノーゴン・冷凍怪人ブラック星人登場)
これが、子どもの頃からのトラウマの一つで……まず、ウルトラマンが凍り付いてバラバラになるって、それだけでもうヤバかった。全体的に明るい雰囲気で、真昼の市街地戦闘だった前作に比べて、こっちはいかにも……って、こっちの方が正統的に「怪奇シリーズ」って感じ。雪の降る中に佇む女、辿り着いた小屋の中の冷却人形など、ビジュアル的にも結構怖いものがある。雪で視界を閉ざされた中で起こる怪事って、小泉八雲的な怖さが映像からも滲み出てきていて良いよね。事件自体は怪談テイストである一方、MATの中での会議は科学的というか論理的というか、非常にきびきびしたやり取りが頼もしく、この辺りのバランスが巧みなところ。今回は次郎くん大活躍で、次郎くんへのMATの信頼も、序盤に比べて遥かに向上している。物凄く久しぶりに見返したけど、雪女メイクはやっぱり怖かったし、絶体絶命のウルトラマンもやっぱり怖かった。でも何が怖いって、先に連れ去られてしまったアベック5組は連れ去られたまんま? ウルトラマン、そこも助けてあげてよ。