介護施設づくりの基礎知識 その23「利用者優先か職員優先か?」
介護環境デザイナーの間瀬樹省です。
介護施設建設の際に、よく議論になることがあります。
それは「利用者が住みやすい建物にすべき」か「職員が働きやすい建物にすべきか」という議論です。
皆さんはどのようにお考えでしょうか。
職員が働きやすくないと、質の高いサービスが提供できない。
これは一理ある言葉に聞こえます。
サービスを行うのは職員。ですから職員にとって働きやすい場にすべきという訳ですね。
では、職員が働きやすい場ってどんな場所なのでしょうか。
よく言われることがいくつかありますが、まず一つ目は「見通しがよいこと」。
いつでもフロア全体を見渡すことができれば、見守りが行いやすいというわけです。
二つ目は、利用者の移動を制限したり、見守りや離床等を察知するセンサー類の導入です。
階段やエレベーターの電子施錠はすでに標準仕様となり、ベッドを離れると察知するセンサーの導入も進んでいます。
最近では、利用者の状況を自動で察知する見守りのシステムも登場しています。
三つ目は、職員が腰を痛めないように機器を導入すること。
機械式の浴槽やリフト、最近では職員の動きを補助するロボットまで登場しました。
どれも職員が介護を行う上では必要なことのように思えるかもしれませんが、では利用者側からみるとどうでしょうか。
見通しがきくということは、利用者側からみればいつも誰かの目があるということで常に落ち着かない環境にいるということ。
また見通しのきく広すぎる空間は、暮らしの場のスケールを逸脱して、違った空間であると感じさせてしまう可能性があります。
階段やエレベーターを自由に使えないということは、実質的に閉じ込められているということ。
「死ぬまでここから出られない」とわかったら普通どうしますか。私だったらそんな場所から一刻も早く脱出しようと思うでしょう。
離床センサーが設置されているとどうでしょうか。
ベッドから立ち上がろうとする度に職員がなぜか部屋に来ます。
その面倒さがいやになり、マットの存在に気がついてそのうちマットを避けて立ち上がろうとしそうです。
怪我をしてしまいそうですね。
移乗などをサポートする機器は、利用者からすると怖く感じるものも少なくありません。
また機械式の浴槽などは、人の手でサポートするより実際には事故が多いと聞いたことがあります。
また、一律に機械やロボットを使用することは、もともと自分が持ていた能力が奪われる結果となり、体の衰えを促進してしまいます。
このように、職員が楽になりそうと考えられる対策は、利用者の側からみると逆に良くない対策にることもあるようです。
ではどうしたらよいでしょうか。
「利用者が住みやすい建物」と「職員が働きやすい建物」は両立しないのでしょうか。
私は両立すると思っていますし、両立させなければいけませんね。
ではどうするかというと…
答えは簡単で、「利用者が住みやすい建物」にすればよいのです。
利用者が住みやすいということは、
・プライバシーが確保された空間で落ち着いて暮らせる
・やりたいことを自由にでき、移動も自由な環境がある
・自分の持つ能力を生かした暮らしができる
といったことでしょうか。
利用者が住みやすく落ち着いて過ごしてくださると、職員も常に周囲に気を配る必要が少なくなります。
利用者の方がご自分の能力を生かしてできることが増えると、職員のサポートは少なくすることができます。
利用者が自由に移動できることは、利用者にとっての心の余裕となり無理に外に出るなどの行動を起こす必要がなくなります。
つまり、利用者が暮らしやすく自立が高まる建物にすれば、それは職員にとっても業務が楽になり働きやすい場所になるのです。
「そんなの理想論でできるわけはない!」という方もいるでしょう。
でも…
この考え方でアプローチしないと、いつまでたっても介護現場は「過酷な労働を行う作業の場」のままです。
もしかしたら部分的に業務を機械やロボットに置き換えることができるかもしれませんが、本質的には何も変わっていないわけです。
利用者にとっては「プライドや羞恥心を捨て、職員の都合による介護を受け死ぬまで我慢する場所」になってしまいます。
利用者と介護職員の利害が一致し、さらに今後介護を受ける高齢者の増加と介護職の不足を解決するには、まず「利用者ファースト」を考えることが大切でしょう。
介護施設を考えるときには、まず「利用者優先」、これが介護職にとっても介護が軽減される働きやすい場所であると考えてみてください。
建物の新築や改装における設計・施工の際には、ぜひこの考え方で計画を進められることを強くお勧めします。
実際に計画を進める際や設計上でのご質問などあればメール等でお問合せください。
介護施設の設計は「ケアスタディ株式会社」へ。
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介護施設づくりの基礎知識 その22「点字ブロック」
介護環境デザイナーの間瀬樹省です。
バリアフリー法という法律がありますね。
基本的に2000平米以上の大きな建物に適用されますが、地域によっては建物種類によりもっと小さな建物でもバリアフリー対応が求められます。
出入り口の幅や車椅子で利用できるトイレの設置など様々な基準がありますが今日取り上げるのは「点字ブロック」についてです。
正式には「視覚障害者誘導用ブロック」と言い、線状のものと点状のものがあることは皆さんご存知だと思います。
このいわゆる「点字ブロック」について、建物の案内施設(カウンターやインターフォンなど)への誘導や、階段の転落防止などのために建物内にも設置が義務化されています。
目の見えずらい方にとっては必要なもので、設置が必要な理由は理解できますが、介護施設は公共施設でなはく「住まい」ですよね。
住まいと考えるなら、少々違和感がありますし、建物内を住宅のように素足で歩くとなると5mmの凸も気になります。
でも法律上、設置しないといけない。
この問題、どう解決しましょうか…
解決策の一つとして、凸の高さを低くした製品を使うという方法があります。
TAJIMA UDフロア
http://tajima.jp/udfloor/index.html
この製品、私の前職時代の同僚が試験を重ねて製品化したものです。
視覚障害の方が移動するために床に誘導の印は欲しい、でも車椅子や高齢者にとって突起は邪魔になる、この両立を考えた訳です。
何度も試験を繰り返してみると、突起は1.8mm程度でも十分認識ができることがわかりました。
(TAJIMAさんサイトより)
これならば車椅子での走行の妨げにもなりませんし、ここでつまづく危険性もかなり軽減できます。
そして素足で歩く際の違和感もかなり少なくできます。
建物の新築や改装における設計・施工で、点字ブロックが必要な時には、ぜひこちらを考えてみてください。
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介護施設づくりの基礎知識 その21「手すり」
介護環境デザイナーの間瀬樹省です。
介護施設を建設するとなると、必ず設置されるのが「手すり」。
「手すりの高さはどのくらいにしますか?」という議論はあっても手すりを設置するかどうかに関する議論はほぼ無いと思います。
でも、物事を考える際はまず常識を疑ってみるところから始めるべきですよね。
その手すり、本当に必要かどうかというところから考えましょう。
「手すり」と言っても、いくつも種類がありますよね。
私は「重心が縦に移動する場所の手すり」と「移動のための手すり」の2つに大きく分けて考えるようにしています。
「重心が縦に移動する場所の手すり」というと、
・トイレ
・浴室、脱衣室
・玄関
・階段
などが考えら思います。
これらの場所は手すりは必須であると思います。
重心の移動や体の機能などを考えて、最適な手すりの形状や設置位置を検討する必要がありますね。
では「移動のための手すり」はどうでしょうか。
こちらは検討の余地があると思います。
まず第一に手すりを完全に目的地まで途切れなく設置することは不可能であること。
建物には廊下や扉など様々な要素があって、手すりを途切れなく設置することは不可能です。
そのため、歩行を補助するために杖や車椅子を使用しているわけですよね。
介護施設で暮らしている方々はご自分で移動手段を確保されているか、介助で移動する方のどちらかです。
そう考えていくと手すりは本当に必要かな?となるわけです。
実際に介護施設で働く方々にお聞きしても、特に入居施設においては廊下の手すりを使用する方はほぼいないと言われます。
では、仮に手すりを使用するとして、高さはどうしたらよいかということも問題になります。
入居されている皆さんの体格は様々ですし、仮に体格が同じであってもその方にとってベストな高さは少しずつ違うかもしれません。
ある特養では、人それぞれに必要な高さが違う手すりを設けても意味ないと言って、廊下の手すりは一切設置していませんでした。
でもそれで不都合が起きたことは一度もないそうです。
また、廊下に樹脂製の丸い手すりが張り巡らされていると、それだけで「施設」という感じが強くなります。
ということで「移動のための手すり」については本当に必要かどうか、一度立ち止まって検討することをお勧めします。
バリアフリー法や各地の条例、補助金の規定等で手すりの設置が必要になる場合もありますが、その場合はデザインに配慮しましょう。
「いかにも手すり」と思われないデザインとすることで、室内の雰囲気に合う手すりを設けることはできるはずです。
手すりをあまり手すりらしくせず、インテリアに溶け込ませています。
必要なものは徹底的にこだわって設置する。でも不要なものは省いて心地よさを確保しコストも抑えましょう。
介護施設の設計・施工の際にはぜひ検討してみてください。
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